「特別養護老人ホームにおけるボランティア参加の限界と可能性」

                          M919  金森 靖洋

1:はじめに

  介護保険が20004月より導入された。今のところ、特に大きな社会問題を引き起こすことなく展開しているように思う。しかし、介護保険はこれまで続いた制度の変革を成し遂げようとして企図されたが、その中身、すなわち施設利用者の生の充実ということは、制度改革とは別の大きな課題となっている。それは、単にある政策を作れば達成できるものでなく、制度の中で、各施設、そしてその関係者の努力の結果としてあわられるものであろう。
  
  その背景には、やはり高齢化社会の進展ということがある。高齢化を引き起こした社会の変化は、同時に核家族化、少子化などの構造的変化をもたらした。このような変化は、これまで家族が高齢者をみるという、「家族介護」を不可能にした。そこで、ある程度の介護が必要な高齢者が施設を利用して生活していくことが、「当たり前」の事となってきた。従来のように、特殊な高齢者だけが施設に入所してくることで、「必要最低限」の生活を与えればよい、という状況から、一般の高齢者がごく普通に施設を利用するようになってきたのである。
  
  当然、今後問われるのは、一般的になった施設での生活の充実である。何が生の充実につながるのか、そのためには何が必要か、職員・利用者・家族の意識はどうなっているのか。あるいは、介護保険という制度と、この生の充実ということとはどのような関係性を持ってくるのか。このことが、机上でなく、実際の現場でかかわりを持っている人たちの現状、意識を探ることで明らかにされれば、非常に意味ある研究がなされ、意義深い成果が出されると思う。

2:介護保険とボランティア

  介護保険導入後、施設がよりよくなっていくためには、さまざまな取り組みが考えられる。介護サービスの内容などの情報開示、利用者・家族からの相談を受け付ける第三者機関、施設職員の介護教育の充実などである。私はその中で、「施設へのボランティア参加」の問題を取り上げ、このレポートで論を展開していきたいと思う。
  
  ここでいうところの「ボランティア」とは、本来さまざまな議論を参照にし、定義を明らかにすべきなのであるが、今回行った調査では、「ボランティアの定義」にはこだわっていない。それよりも広く一般に、「施設職員以外で施設に何らかの参加をする人」という程度の意味である。今回のアンケートでは、施設へのボランティア参加の現状、またその効果を中心に質問を構成した。従って、今回の調査における「ボランティア」とは、特に限定された階層を表すのでなくて、幼稚園児、小・中学生、大学生、主婦などあらゆる階層の人たちである。

 ここで「ボランティアの参加」を取り上げるのは、今後施設においてボランティアの意義が高まってくると考えられるからである。その要因は、@点数化によるサービスの限定化、A心理的サービスを含めた、介護サービス以外のサービス充足の必要性である。

 @は、介護保険の導入によりサービスが点数化され、そのため逆に直接処遇以外のサービスが点数化されないので、提供サービスが限られる。それをカバーするためにボランティアが重要であるという、消極的参加ということである。「終の棲家」であるはずの施設で、直接介護が重点的に行われるとしても、それ以外のサービスも必要なはずである。しかし現実には、「利用者と接する時間がない」というような不満が職員からも出されている。これは次項で実証する。

 Aは、@で述べたことが単に補完的にボランティアにさせられるのでなく、むしろ、ボランティアが参加することによって、施設は新しい領域のサービス供給体系を手に入れ、さらによくなるという積極的参加である。本来、利用者の楽しみとしての話し相手、外出などは、施設での直接介護サービスではない。また、その実施状況も、特に日常的な散歩や外出となると、ほとんどなされていない現状がある。しかし、そこに業務的ではない積極的な意味を見つけるならば、ボランティアによって、それらが満たされるようになっていくべきである。その部分のサービスが、「新しい」サービスとして提供されるようになれば、施設生活の質は上がっていくだろう。

 以上の二つの要因をまとめると、ひとつの「課題」が見えてくる。すなわち、直接処遇そのものとは別に、利用者と職員との関係は、介護保険によって徐々に利益中心へと変わっていく可能性が高い。そのコミュニケーション、人間関係というところに大きな不安が推測できる。また、利用者にとって、いわゆる「楽しみ」をマニュアル的業務としてでなく充実させていくために、新しい「参加」が求められるのである。

 このような事から、「これからの施設での生活にとってボランティア参加による、利用者の生活の質の向上が必要不可欠」ではないだろうか。

 次項ではここで述べてきたことをデータを元に考えていく。

3:調査集計結果

 まず、職員用アンケートの結果から、「ボランティア参加」に関する項目を解説していくこととする。職員調査において、「施設でのイベントに地域住民などを招待することをどう思うか」という設問と、「ボランティアが施設に参加することをどう思うか」という設問に関して見ると、

 職員にとって、イベント時に地域住民を施設に招待し、施設利用者と一緒に何かをするということは望ましい、という意識が窺える。

 また、ボランティアが施設に参加してくることも、職員は「好ましい」という意識を持っていることがわかる。

 ところで、「ボランティアに関して」から多少はずれるが、一方で「介護保険の施設介護への影響」を見ると、興味深いデータが得られる。「外部評価によって職員の仕事名不度が評価されるようになる」という介護保険によって良くなる部分と、「施設利用者と接する時間が少なくなる」という悪くなる部分が同時に選択されている。

       介護保険の施設介護への影響
 
少しそう思う/そう思う
外部からの評価を受け仕事などが評価される
64.70%
施設利用者と接する時間が少なくなる
62.60%

 また、「施設サービスの現状とそのサービスの介護保険導入後の見通し」でも、外部評価、あるいは職員教育という面では肯定的な見方が多いが、一方で、利用者とのコミュニケーションや人間関係などでは、著しく低い評価が下された。

 

 

             施設サービスの現状と見通し
 
今後良くなる/非常に良くなる 現状に満足/ほぼ満足
利用者への介護サービスの内容の充実
28.30%
36%
利用者とのコミュニケーションの頻度
20.60%
35.70%
利用者との人間関係
19.70%
52.90%
利用に関わる記録・調査などの情報開示
44.70%
36.30%
家族からの苦情などに対応する方法
40.60%
38.70%
施設職員への教育
35.90%
24%

 この「ボランティア賛成が多い」という結果と、「介護保険導入後、外部との関係は良くなるが、内部(利用者)との関係は期待できない」という結果は、次項で詳しく分析するが、ここのギャップは留意しておいて欲しい。

 次に、利用者用アンケートにおいて、「ボランティアが来てくれることをどう思うか」という設問に対してみると、

 となっており、全体の85.0%がボランティア参加を「よい」としている。ただし、ここでいうボランティアは特に対象を限定していない。

               ボランティアの良い点
 
そう思う そう思わない 無回答
いつもと違う雰囲気になる
46.70%
30.00%
23.30%
みんなの楽しみが増える
63.30%
11.70%
25.00%
職員の方にはできないことができる
36.70%
35.00%
28.30%
話し相手ができるので寂しくない
63.30%
15.00%
21.70%

 さらに「ボランティアの良い点はどういうところか」についてみると、「みんなの楽しみが増える」と「話し相手ができるので寂しくない」が目立って高くなっている。

 また家族についてみると、

 上記の結果になっており、利用者用アンケートの結果と同様にボランティアに対するポジティブな評価、さらに良い点としては、利用者の回答と同じく「みんなの楽しみが増える」と「話し相手ができるので寂しくない」が高くなっている。

4:調査分析

 3の集計結果から何が言えるのだろうか。まず、利用者・家族用アンケートから分析すると、この両者はいずれも、「ボランティア参加を望ましい」としており、しかも特徴的なのは、「利用者の楽しみ」と「心理サービス」が望ましい傾向にあることがわかる。ここから、2で述べたような、介護サービス以外の楽しみが施設生活で必要かつ、利用者・家族ともにその充実を求めていることがわかる。

 一方で、職員用アンケートを見ても、地域住民のインベント招待や、ボランティア参加を「望ましい」としている。しかし、この場合には問題の背景が異なっている。すなわち、次の二つの設問、「介護保険の影響」についてみると、情報開示、苦情相談など外部との関係は介護保険によって制度が構築されていくだろう、ということで評価されている。しかし、利用者とのコミュニケーションや人間関係という基本的な内部関係は、評価が著しく低くなっている。ここに重大な問題が存在している。職員は介護保険によって、利用者との関係がそこなわれる可能性がある、と考えているのである。

 職員は利用者と密接な関係が結べない、と考えている。これは一施設の問題でなく、社会的な問題である。一方で利用者・家族がボランティアに「楽しみ」とか「心理的サービス」を求めている。そのようなものが、一般的になった施設生活で保証されないのなら、それでは「生活」をしているとは言い難い。

 2で述べた仮設的なものは、今回のデータからも実証されるのである。

5:展望

 今後ますます、施設サービスは点数化されるもの、点数化されないものとに分かれていく可能性がある。前者は充実されていくだろうが、後者についての扱いは未知数である。それを補完的にボランティアが満たしていく必要も増大していくだろう。

 しかし、本来的に「楽しみ」とは「制度化」できるものだろうか。「ゲートボールを一日一回することが老人の楽しみである」と決めてしまうことが「楽しみ」あるいは「生の充実」につながっているだろうか。そうではないであろう。

 今回の調査はそれを明らかにするのに非常に有意義であった。無論、今回のデータが東播磨地区という限られた範囲のデータである部分も否めない。しかし、傾向はつかめるはずである。

 調査で見えたことを結論付けると、直接処遇と心理的サービスは領域化される必要がある、ということになる。前者は契約、あるいは業務の範疇でより質の高いサービスができるようになっていかなければならない。これには職員教育などがかかわっているが、こちらは職員意識では「よくなる」とされている。しかし後者は、サービスの点数化の中で切り詰められていく可能性があるし、また、それ自体がルーティン・ワーク化できないものである。

 ここに、「施設へのボランティア参加」が、ひとつの大きな、研究されるべき「領域」として存在している。その領域は決しておまけではないし、付け足しでもないのである。

 今後は、ボランティアの定義化、「領域」の明確化を含めた施設ボランティアの位置付け、その役割などを、理論的に研究していきたい。

                                        
                                         
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