考察−家族アンケート調査から考える意見・苦情の実態』

 

                                 学籍番号974 横井 真

はじめに

  介護保険導入後、施設と利用者の関係が「措置」から「契約」へ移行し、介護福祉サービスの実施が対等な関係のもとで進められようとしている。
  そして、この「契約」関係は、これまでの「措置」関係以上に、家族を含めた利用者側がサービスに対する意見や苦情を言えることも、これまで以上に大切なサービス利用上の権利として認められることになる。
  現場では、利用者と利用者のサービス処遇全般を見守る家族が、施設に対してわからないことや困ったことがあった時、どの程度意見を言えているか。実際、介護福祉サービスを受ける人々は、援助受ける立場から自由に意見を述べている環境にあるのであろうか。これらは、利用者側の意見を、どのように施設に反映させるかという問題を含めた、意見・苦情処理のシステムの問題とも関連するであろう。
  特に、今回の考察対象である家族は、入所時に施設サービスの説明を受け、入所後も利用者の施設内での暮らしを見守るもっとも身近な存在である。家族と施設の相互理解も、利用者が施設で安心して暮らせるとても大事な要素であると考えている。今後は、家族の声を施設に反映することそのものが問われることになると思われるが、まず、現状についてをアンケート調査結果に基づきながら考察したい(T)。
  また、その結果を踏まえて利用者・家族と施設の関係の課題を明らかにし、その課題を克服するための制度として「オンブズマン」について言及する(U)。
 

T アンケート調査結果 

@施設に対して自由に意見が言いにくい人は約18%

  家族用アンケート調査(概要については別紙参照)のU−12で、「○○さんの生活や処遇についてわからないことがあって困った場合、そのことを施設に対して自由に伝えることが出来ますか。」という質問を行った。結果、回答を得た86家族のうち、「自由に言える」が53.6%、「ある程度言える」が29.8%、「言いにくい」が15.5%、「まったく言えない」が1.2%であった。

  半数の家族が自由に意見を言えると答えていることは、施設との意思疎通が行われて、情報共有されている関係にあると考えられる。一方、「言いにくい、まったく言えない」という家族は少なからず約17.7%の家族が、なんらかの「言いづらさ」を潜在化させており、この数字が何を意味するのか次項以降で掘り下げることにする。

 

A入所時の施設の対応に満足した家族ほど、サービスの内容についての説明を受けている

  利用者が入所された時の施設の応対への満足度について回答した家族と、その家族が受けた施設サービスの説明の程度についての結果をクロス集計した。そうすると、応対の満足度と説明の程度のあいあでに相関関係があり、入所時の施設に満足した家族ほど、説明を十分に受けているという結果が得られた。

B意見が自由に言いにくい家族ほど、入所時に苦情相談の説明を受けていない。

  @の質問に回答した家族と、U−5−Fの質問「入所時に施設から苦情方法の相談について説明がありましたか?」について回答した家族をクロス集計すると次の表とグラフになった。

  この数字で注目したいのは、「自由に意見を言いにくい」と答えた家族では、苦情方法についての説明を受けていない人が受けている人より多くなっているということである。一方で、「自由に意見を言える」と答えた家族では、説明を受けている人の数が際立って多い結果が得られている。

 

B施設へ自由に質問できる家族ほど、苦情の相談方法には満足している。

 次に、@の質問に回答した家族に、現在の苦情相談の方法の満足度について(U−14−F)質問した結果が以下のとおりである。この表から言えるとは、施設に質問できることと苦情の相談方法のあいだには相関関係が見られ、施設へ自由に質問できる家族ほど、苦情の相談方法には満足しているということである。

 C施設自由に質問できる家族ほど、現在の施設サービス全体に満足している

  最後に、@の質問に回答した家族に、現在の施設サービスすべてを総合して判断した場合の満足度(U−14−IA)の質問した結果が以下のとおりである。この表から言えることは、施設に質問できること総合して判断した場合のあいだには相関関係が見られ、施設に対して自由に質問できる家族ほど、現在の施設サービスを総合判断すれば満足している結果が得られた。

 

U 利用者家族と施設の課題と提言

@利用者家族と施設の課題 

  以上の家族アンケート調査結果より、十分な説明が施設よりなされるほど、利用者家族の満足度は高くなることが分析された。そして、施設側より介護サービスに係わる説明責任を果たすほど、利用者側に困ったことや悩んだことがあった場合に、家族より施設へ相談されている傾向があった。また、施設に対する苦情の原因は、説明不足や情報不足、あるいは職員の応対の態度との関係があることもこの結果より伺うことができる。 
  一方、利用者側から自由に意見を言いにくいと回答している人は、決して高い数字ではないのが、そのなかには苦情相談の方法にも満足していない家族が少なくない。国民センターの「在宅サービスと消費者問題」によれば、ホームヘルパーサービスを利用して被害にあっても70%〜80%の人がどこにも言わなかったと答えている。しかるに、少ない意見・苦情であったとしても、それは氷山の一角であるとも考えられ、1件の苦情の背景には複数の同種の苦情が潜在化していると認識した方がよいのではないだろうか。
  つまり、利用者の声が施設側になんらかの形で届くように努力されたとしても、今後が引き続き、利用者の声が反映されにくい構造に配慮する必要もある。そのことを踏まえ、私は以下の3点について言及したい。

A)施設側と利用者の関係性の転換。
 利用者側が、施設に対して今までお世話になっているという意識や、文句を言う者として警戒されるという恐れから対等な関係を築くことは難し現状から。

B)苦情を相談できるシステムは施設からは遠い存在。
 苦情処理制度が整えられているのは、市町村の介護保険窓口や国保連が都道府県単位で設ける窓口である。具体的なサービス項目でじっくり時間をかけて声を聴き意思をくみ取るるためにはもっと身近な制度ではない。特に利用者は、気力・体力的にも自分の考えや意思の表現が思うようにできない場合が多い現状。

C)社会福祉関係者とは奉仕の精神をもった人であり、利用者の不利益は存在しない意識からの脱却。
 高齢者、障害者、児童対象の社会福祉施設は、人権が回復される場として必要な場であるにもかかわらず、利用者側に不利益が被る事件が起こっている。体力的にも、環境的にも自己の権利を主張しにくい立場の入所型施設は、そもそも苦情が起こりやすい構造になっていることを認識する。 

Aオンブズマン制度の検討

  以上の3点を克服し、利用者側と施設側の関係性を改善する手段はないのだろうか考えることにしたい。そこで、オンブズマン制度について若干述べる。
  オンブズマン制度とは、日本では確固たる定義をなされていない現状であるが、「市民の代弁者」「苦情を処理する人」「問題を調停する人」という意味を持っている。最近は日本でも人権擁護・救済の側面から、自治体、民間レベルでオンブズマン制度が作られつつある。
  困ったことがあっても自由に意見が言えない状況をサポートするためには、利害関係を持たない利用者側に立つ第三者の存在が必要不可欠である。さらに、何らかの法的根拠のもと権限を持たされ、事業者に対しては一定の拘束力を持つことが望ましい。そのような条件を備えることができる制度としてオンブズマン制度がある。
  具体的に、利用者が人権侵害を被ったときに、勧告したり、必要に応じて広報に訴えるという措置が可能であるし、苦情は質の改善の情報源ということであれば、施設の制度改善も指摘できる機能を持つことが出来る。通常、外部の専門集団からの援助を受けて、このような行動に結びつけることができる制度は画期的である。
  しかしながら、この制度について事業者より警戒が強いことも事実である。なぜなら事業者を裁いて非難されるものと考えられているからである。そのためには、利用者側が質・量とも高い生活を営めるように改善することが目的であると同時に、事業者にとっても体質や構造を改善し、利用者本位の施設へ転換できるプラスの側面を持った結果を生ずるという発想が必要と思われる。つまり、このような制度が機能している施設地域では、高いレベルの福祉サービスを供給し、安心してサービスを享受することが可能になるのである。
  最後に補足であるが、第三者的、中立的な立場から、利用者・家族の声が届き、それが施設の改善にもつながるシステムとしての一つとしてオンブズマン制度について述べた。ひとつの制度あり方として検討価値のあるものと考えているが、他に、そのような条件を満たす制度(苦情処理システム等)等があれば、併せて柔軟に検討されることが望ましい。

おわりに

  今回は、家族用アンケートに対象限定して、介護保険実施後の苦情・意見の反映のあり方を簡単に述べた。もちろん、本来当事者である利用者からのアンケートの分析をすることによって、さらに意見のくみ取り方や受け止め窓口のスタンス等を考察できるであろう。また、職員用アンケートから利用者に対する処遇等の項目からも幅広く分析可能であり、別の機会に期待したい。
 加えて、オンブズマン制度についても、法律、援助技術、人権擁護等、様々な方面から検討されているので参考にしていただきたい。
 いずれにしろ、まず、現場の利用者、家族、そして施設関係者の声を聴き取ることによって、個別具体的なケースを分析・実証することにつながる。その積み重ねから福祉サービスの向上に向けたシステムのあり方を新たに提示できるであろう。その意味において、今回の調査はで集められたデータは原石にともいえるとても貴重なものであった。

                                            

                                             
 ホームページにもどる