では、結局のところ実際エコツアーって具体的にどんなものなのか、と疑問をお持ちの方も多いと思います。ここでは、具体的なケーススタディを用いしてエコツーリズムが実際にどのように行われているかをガラパゴスを例にとって説明します。

ガラパゴスと聞いてあなたは何を思い浮かべますか?地上の楽園、自然がたくさん、希少動植物の宝庫…といったイメージをお持ちの方も多いと思います。実際この研究をしている私自身も、あまりガラパゴス諸島に関する基礎的な知識を持つ前は、漠然と「自然がたくさんあるところ」といった曖昧なイメージの国としか捉えていませんでした。では、ガラパゴスという土地はどういうところなのかを以下に簡単に説明しようと思います。

在日エクアドル大使館のサイトを覗いていただければ分かるように、エクアドル共和国は赤道近くに位置し、スペイン語でその赤道を意味する"El Ecuador"が国名の由来となっています。面積は日本の本州とほぼ同じ大きさで、人口は日本の10分の一です。ここで、このサイトの"Economy(経済)"のページを見てください。そちらをご覧いただいても分かるように、エクアドルにおいて観光は重要な産業となっている事が見て取れると思います。

では、観光それ自体が一国家の重要な産業となり得る条件とは、一体なんでしょうか。

1976年、ガラパゴスは世界で初めて、自然世界遺産地域として選ばれました。(世界遺産に関する解説は国土交通省のホームページに詳しく書いてあります) 1976年と言えば、日本では未曾有の高度経済成長を遂げ終わった少し後といった時代です。(もっと分かりやすく言えば、ピンクレディーの「ペッパー警部」や「S.O.S」などの曲がオリコンチャート上位に上がっていた時代です。) 多くの自然破壊と引き換えにとてつもない経済成長を終え、経済的に安定した日本にとって、そういった概念はあまり重要視されていませんでした。

そういう時期に自然世界遺産地域として選ばれたガラパゴスは、植物はもちろん、ゾウガメやカツオ鳥、ペンギンやイグアナなどの珍しい固有種がたくさん存在するところであり、またその島ごとに動物の種類も変わってくると言った学術的にもとても興味深い土地です。

このガラパゴスは、あのダーウィンが「進化論」を書くきっかけになった島としても有名で、それにちなんで「ダーウィン研究所」が建てられています。ダーウィン研究所は、土地が自然破壊によって荒れつつある状況をなんとか打破できないものだろうかと考え作られた概念がエコツアーの前身となっています。当時は、エコツアーではなく、「マネージメント観光」と言われていました。文字通り、自然、そして人がどこまで入ってどこまで出来るのかという事を管理する観光です。

ここで前項の「エコツアーの定義」を思い出してみてください。エコツーリズムの目的として、私達は「資源の保護」、「内発的観光発展」、「地域経済の活性化」の3つを挙げました。ガラパゴスには前述のような「保全されるべき自然環境」が莫大に存在しています。また、ダーウィン研究所によって「このゾウガメは大切にしなければならない」だとか、「この種は絶滅しかけているからとても貴重なのだ」といった認識が地域の人に根付いています。そして、先ほどのエクアドル大使館のサイトをご覧になって分かるように、国全体を挙げてその土地自体の魅力を伝播するのをバックアップしています。この3つの要素はエコツアーを行う上で重要なファクターとなるのです。

従来の観光政策を考えてみてください。膨大な設備投資を行ってインフラ整備をし、国際的なチェーンを持つ有名なホテルを誘致し、リゾート的な乱開発する…といった観光政策の形とは全く違うという事が分かっていただけると思います。

では、日本におけるエコツアーの可能性について次の項で考えて見ましょう。