ポスター発表総括

結論の出ない議論

「革新」と「保守」。我々がこれまでやってきたように、一つ一つを丁寧に取り上げてみると、それぞれがその論理の正当性を持っていることがわかります。「革新」は伝統に縛られ現状を打破できないことを憂い、個人の自由と「革新」によって新たな可能性を模索しようとするものです。また、「保守」とは問題の原因を人間のエゴに見出し、伝統との関係において個人を理解して、よりバランスのとれた共同体を創ろうとするものです。この限りでは、どちらが正しくてどちらが正しくない、といった結論を出すことはできません。根本的な議論に立ち返ってみても未決着のままです。「革新」は個人の自由、そして「保守」は個人と社会(伝統の集積)の関わりをその論理の原理に据えています。私たちは、「個人に自由などない!」もしくは「社会がなくても一人で生きてゆける!」といった態度を大真面目に取ることはできません。「いや、できる」という人は、占いに身をまかせる運命論者になるか、社会から孤立した一匹狼になるかのどちらかです。それでは生きてゆくことができません。そう、私たちはどちらの原理にも背くことができないのです。

 少し具体的にイラクへの自衛隊派遣の問題に見ても、答えは藪の中です。「革新」と「保守」の両者が正当性を持っているために、革新的態度にもとづいた派遣賛成と、保守的態度にもとづいた派遣反対、どちらも正しいように思われます。「革新」は、「イラクに自由を」と叫び、「保守」は「世界のアメリカ化に巻き込まれるな」と叫ぶ。どちらも間違っているとはいえません。そしてそれならまだしも、「革新」の立場から、「日米安保に象徴されるような関係の枠に閉じ込められるべきではない」という派遣に反対の主張や、「保守」の立場から、「世界関係の中で、イラクの人民を守ることは日本人の義務である」という派遣に賛成の主張が出てくる、という逆の主張がでてくる可能性もあります。それぞれの立場からの具体的な事柄の決断は、一定のものではないのです。それは現在の日本の政党を見ていただいても一目瞭然です。それぞれが掲げている理念が、どれほど貫かれているか、またどれほど実効性があるのか。もはや日本人は政党の出す政策から、その理念を抽出することは不可能でしょう。

 いったい「革新」か「保守」か、どちらが正しいのか。どちらも正しい。しかしその意味は無いのかもしれないのです。「答え」はどこにも用意されてはいません。



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