ゲオルグ・ジンメル「社会分化論」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ゲオルグ・ジンメル「社会分化論」

第一章「序論　社会学の認識論」
＊キーワード＊
・複雑な構成体（構成物）・折衷的科学・総合
・多種多様・客観的な単一体・相互作用

★社会学と他の諸科学の相違点

＜引用＞
p386上　L3－4
「社会学は、他の諸科学の所産を材料とする点においては、一つの折衷的科学である。」
p386上　L6-8
「社会学は、他の諸科学が取り扱う原材料には直接向かわずに、いわば二乗の科学として、他の諸科学にとってはすでに総合であるものから、さらに新しい総合を作り出すのである。」
ｐ386上　L14－15
「社会学的研究の場合には、一般的見地、究極目的の統一、研究の方法などが、当然第一に意識されなければならない。」
ｐ386上　L16－17
「他の諸科学は直接に材料そのものから出発し、材料の形式化は材料そのものによって直接に与えられている」

＊他の諸科学は、研究対象となる材料そのものに直接向かうが、社会学は他の諸科学が取り扱う材料そのもの（個）からではなく、一般的見地、究極目的の統一、研究の方法など（全体）を、重要視する。

★ ジンメルは、「社会的分化論」を社会においてどのように位置付けているか。

＜引用＞
ｐ390上　L6－8
「社会の各要素が、自然法則に従って作用していることは疑いもないが、全体にたいしてはなんの法則も存在しない。」
ｐ390上　L10－14
「第二章以下で取り扱おうとする分化という現象も～ひとつの現象を言い表す言葉に過ぎない。」

＊社会における分化という現象は、社会の一要素における原則にすぎず、社会全体を解きほぐすための法則ではないのである。そういった意味で、ジンメルは「社会的分化論」だけでは社会を語るのには不充分だと言っている。

★ ジンメルは、「社会」という概念をどのようなものとして捉えているか。
「個々人の相互作用が、たんに彼らの主観的態度や行為のなかに存在しているというだけではなく、さらにここの成員からはある程度まで独立した、ある客観的な構成物が作り出されるというような場合に、われわれは真に社会といえる存在がそこに存在している、といえる（p393上　L15－19）」。

第二章　解答
１．「最初にあげた問題」（p.403 下段 l.9）とは何か？

＜引用＞
p395上　L6-8
「未開時代においては、個人が罪を犯した場合でも、一族、部族といった社会圏全体が罰せられるべきだとする傾向があった。」
p395下　L5-13
「そのさい、二つの側面で分化がなされていないといえる。一つは客観的側面であるが、・・・（中略）・・・罪を犯した個人を区別する能力をもっていないということである。」

＜解答＞
「最初にあげた問題」とは、未開時代では、ある二つの側面（「客観的側面」および「主観的側面」）で分化がなされていないがために、「個人が罪を犯した場合でも、一族、部族といった社会圏全体が罰せられるべきだとする傾向（p395上　L1－3）」にあるということである。
社会が分化されていないと、個人と全体との統合が緊密であるから、個人の行為と集団の行為を区別することができない（＝「客観的側面」における未分化）。また、社会が未分化状態にあると、個人が犯した罪に対して判決を下そうとする者が、罪を犯した個人が属する集団からその個人を区別する能力を持たない（＝「主観的側面」における未分化）のである。したがって、未分化社会では個人が罪を犯しても、その個人の所属する集団が連帯責任という形で罪を問われてしまうのである。

２.「諸民族の持つ自由の観念と、その諸民族が個人の意義を出生という偶然的な事柄に結び付けていることとのあいだには、一見、心理的矛盾が存在しているようにおもわれる(p405-406)」とあるが、それはなぜか（どういった点で矛盾しているのか)。そして、この矛盾はどうやって解消されるのか。

＜引用＞
p406上　L3～8
「それは、家族が独立的な権力を所有できる自由な国家のなかにおいてのみ、～その心理的矛盾はすぐに解決される。」

＜解答＞
自由の観念を強調する諸民族は、個人の尊重を唱えている。また、彼らは同時に、個人の意義出生に結びつけてを見出している。しかしここで、出生は、個人の価値を尊重するというよりも、むしろその集団の価値を尊重するのではないか、という疑問（矛盾）が生じる。しかし、「政治的に自由な集団のなかでは、社会的・政治的・宗教的支持と身体および権利の保護が、家族の団結ということによってはじめて得られる（ｐ405下　Ｌ4～7）」ということを考えると、やはり「個人は集団がうしろに存在するときにだけ価値を有する（ｐ404下　Ｌ14～15）」のであり、先にあげた諸民族に関しても、出生という後ろ盾があって初めて個人の権利が守られるのであり、同時に、その中に個人の意義をも見出すのである。

３．ジンメルは、結局、罪に対する責任は誰が取るべきだとしているか。（第二章全体を通して）

＜引用＞
p419下　L3-7
「この功績はそうした圏そのものにではなくて、～その功績を独占することはできないのである。」
p414上　L4-9
「個人が個人として責任を負うべき場合もありうるのであって、～社会も責任を負えないということになるからである。」

＜解答＞
個人が犯した罪にたいする責任は、個人が取るべき場合と社会が取るべき場合があり、どちらか一方に責任を全面的に負わせるべきではない。未分化社会では、（問１の理由により）罪は社会に帰すものだとされたが、分化が極めて進んだ社会においても、個人の罪にたいする責任は社会に負わせようとする傾向にある。それは、社会が分化するにつれ、人格における分化も進むために、その罪に対する責任は、その人格の総体ではなく、その中の不道徳な部分のみに問われるようになるからである。つまり、個人の人格の不道徳な部分（道徳的本質）は社会によって形成されたものであるから、その罪に対する責任は一個人のみに問うべきものではなくなってくるのである。そうして、分化が進んだ社会においても個人の罪に対する責任は個人ではなく、社会にあるとされる。しかし、一方で、その社会も個人によって構成されているのであるから、個人にも責任があるといえるのである。

＠ディスカッションテーマ＠
「低い文化の時代には、教育の概念は、衝動の抑圧あるいは根絶ということを目的とした懲罰の概念と同じだったことが、その特徴点としてあげられる。しかし、文化が高まると、不道徳な衝動のなかに含まれる力そのものを、懲罰によって破壊してしまうことはやめて、そうした力が有益に行使できるような状態、つまり不道徳なものそれ自身がそれとは別の有益なものをつくりだすような状態を創造しようとする努力が行われてくる。」（p.411下 L16～21）とあるが、現代の日本社会ではこのような現象は起こっているか。起こっているとしたら、それはどういった現象か、答えよ。
衝動を抑圧あるいは根絶しようとしていた」
→欲望、衝動などの本能的な部分を隠そうとしていた（節制が美徳とされていた）
ゆがめられた合理性。
→「性の開放」
・・・売春、援助交際、テレクラも見てみぬふり。合法化されているところがあって、見ても何も思わない。当たり前のこととして「仕方がないか」といってやり過ごす。企業がそれ（「不道徳なものそれ自身がそれとは別の有益なものをつくりだすような状態を想像しようとする」という傾向）を利用して後押しをして促す（供給）。仕事人間、学歴社会でたまったストレスのはけ口として、「性」に対する需要がある。
いろいろな要因があるだろうが、ジンメルの視点から見ると、

①社会の分化→人格の個別化→道徳的な部分（理性、良心）と不道徳な部分（性欲、悪徳）が観念的に分化→人々は個人ではなく個人の人格の一部分に焦点を当てるようになった。

②
＜ジンメル的視点＞
・社会の分化→集団からの解放→集団的統一性の欠如→大衆消費を促進したい産業界→人々の性欲（低次レベル）に訴えかける→すべての人がこれに反応し得る→大衆消費社会の実現
＜ボードリヤール的視点＞
・マスメディアによる大衆操作→植え付けられたイメージ・印象→（画一化）→人々の知能を低級化→ 人々が安易にモノを買う

☆画一化⇒差異への欲求
分化したすべてのものに対して画一化したイメージを与える→差異への欲求を持続させる

③社会の分化→個人の孤立化→すべての人が共感しあう→「最後の共同性のとりで」
「性欲」＝最後の共同性
↓
「欲求は事物の産物である」
なぜ性の開放が行われているのかというと、「最後の共同性のとりで」となっているから。
性を商品化するとは、対象としているということであるので、共同体自体が崩壊しているということになる。→現在は「虚像の共同体」
人との差異化への欲求
以前はタブーとなっていたことが、商品化が可能となってきたことによって「性の開放」へと向かっていった
「性欲」＝最後の共同性
↓
「欲求は事物の産物である」
なぜ性の開放が行われているのかというと、「最後の共同性のとりで」となっているから。
性を商品化するとは、対象としているということであるので、共同体自体が崩壊しているということになる。→現在は「虚像の共同体」

第三章　集団の拡大と個性の発達

１．まったく異なった２つの集団が類似していくのはなぜか？（Ｐ423）

　＜引用＞
　　Ｐ423 上段Ｌ2～4
　　　「それ自身は同質的であるが、たがいには非常に異なっている諸集団の発展、つまり、各集団のな
　　　かの分化がそれ自身、諸集団の成員のあいだに類似と接近を生む」から。
　　Ｐ423 下段 L16～18
　　　「どんなに異なっている社会集団でも、分化の諸形式は同一であるか、あるいは類似している」か
　　　ら。

　＜解答＞集団の構成員の個別化・分化には、パターンがある。それには、単純な競争関
　　　係、一人の強者にたいする多くの弱者の団結、個人にみられる貪欲さ、一度できあ
　　　がった個人的な関係の増進などがある（P423 下段 L18～21参照）。このパターンは、
　　　異なった集団においても同じ、もしくは類似してくる。したがって全く異なったふ
　　　たつの集団において分化がすすむと、それらは類似していくのである。

２．「一つの領域における個別化あるいはその反対の現象といったプラスは、他の領域におけるそのマイナスを要求する」（P428 下段 L7～9）とあるが、これはどういうことか。

　＜引用＞
　　Ｐ427 下段 L11～15
　　　「われわれが属す圏が狭ければ、われわれのもつ個性の自由はそれだけ小さくなるが、そのかわり、
　　　圏それ自身が個性を獲得し、圏が狭いためにかえってそれ以外の圏から強く区別されることになる」
　　P428 上段 L18～下段L2
　　　「われわれがそのなかで活動し、われわれの関心がそれに向いている圏が拡大していくと、その圏
　　　のなかでわれわれの個性が発展しうる余地は多くなるが、われわれがこの全体の部分としてもつ特
　　　性は少なくなり、また、この全体が社会集団としてもつ個性も少なくなる。」
　　P428 下段 L3～6
　　　「一方では個別化に向かい、他方では分化とは逆の方向に向かう傾向は、それが純粋に個人的な領
　　　域で作用するか、あるいは個人が属す社会共同体の領域で作用するかにはあまり関係なく、その均
　　　衡をかえない。」

　＜解答＞それぞれにアイデンティティーが強いニつの社会集団があるとする。集団同士
　　　が個別的で相互に分化しているほど、その成員は個別的でなく、相互に類似する（①）。
　　　しかし、集団内部の成員個々人の分化がすすむにつれて、集団としての個性が失わ
　　　れ、他の集団と類似するようになるのである（②）。

　　　　２つの社会集団
　　　　①　　　異質的な関係　　　　　　　②　同質的な（類似した）関係
　　　　　　Ａ　←――――→　Ｂ　　　　　　　　Ａ　←――――→　Ｂ　
　　　　　　｜　　　　　　　　｜　　　　　　　　｜　　　　　　　　｜
　　個人は同質的　　　個人は同質的　　　個人は分化　　　　個人は分化

↓↓つまり
集団内部の個別性と集団相互の個別性とは反比例の関係である！

３．個人主義的な傾向と集団主義的な傾向とのあいだの３つの関係を示せ。（P433～434）
　　　　　⇒個別化と社会化

　＜解答＞ここでジンメルが言いたかったことは、“個人主義と集団主義には関係がある”
　　　ということである。その関係とは以下の３つである。

① 共存の関係…社会集団の圏の拡大が、圏の成員たち自身の人格の発達と関連しているもの。（P433 下段 L15～16）　〈例〉家族、職務につく人
② 継起の関係…社会集団の圏の拡大が、個人意志の委任を受け個人のために代理するといえる最高の人格の観念と関連しているもの。（P433 下段 L17～P434 上段 L1）　〈例〉共和政治と専制政治、平等と圧制とのあいだにみられる継起的、並存的な連関、古代の多神教、ジェスイット派
③ 二者択一の関係…個別化と社会化が同じ度合で実現するとは限らない。一方の要素が多方の要素にたいして極端に強くなることもありうるという関係。（P434 上段 L2～6）　〈例〉スイスの自治団体の共有地
　　　　　　　　　　　　　　　　　↓↓
　　　P434 下段 L8～16
　　　　「より小さな集団は、いわば、より大きな集団と個人とのあいだの比例中項であって、それはそ
　　　　れ自身でとじられ完結された形になっていて他の因子を必要としないのであり、そして生活上起
　　　　こりうべきことにかんしては、あとの両者（大きな集団と個人）の合同が生ずる結果と同じもの
　　　　を生ずる」
　　　　　　　　　　　　　　　　　｜｜
　　　　ここで比例中項とは、関係、媒介、媒体のことである。より狭い封鎖的な集団と
　　　それに没入している個々の集団人は、それだけで完結的な一つの生活単位を形成し、
　　　他からの要素を必要としない。そして、これに匹敵しうる生活単位を形成するため
　　　には、集団人ではない個々人と、より大きな開かれた集団または社会とが必要とな
　　　るのである。

４．なぜすべての人間が平等だという説は、極端な個人主義と結びつくのか。（P436 上段　
L4～6）

　＜引用＞
　　　P435 上段 L14～19
　　　　「社会的要素としての人間のかわりに、個体としての人間およびそれがたんなる人間としてもつ
　　　　特性が、関心の表面に出てくればくるほど、その人間は、自分の属す社会集団の枠をこえて、お
　　　　よそ人間たるすべての者に結びつき、そこに人間世界という観念的統一体が生ずるといった結び
　　　　つきが強くなされるのである。」
　　　P436 上段 L7～13
　　　　「個人が社会発展のある時期に生み落とされた場所がひどく不平等であったとしても、その不平
　　　　等が、全体的平等の方面と個性の権利のほうめんという二つの方面に向かって反応するというこ
　　　　とは、心理学的には明白なことである。なぜかといえば、こういう場合には、多くの人々にとっ
　　　　ては、個性の権利も全体的平等も同じくらい抑圧されているのがつねなのである。」
　　　P436 上段 L21～下段 L4
　　　　「心理学的にみると、全体的平等という観念は、個性の本質と価値を強く意識すること、すなわ
　　　　ち、各個人が現在のままの組立てでは二度と現れない独特な特性をもった個体であるという事実
　　　　を強く意識することによってますます促進される、とおもわれる。そしてそのさい、その特性の
　　　　内容がどんなものであるかということには関係なく、個性の形式だけが各個人に与えられ、これ
　　　　がその稀少の度合にしたがってその個人の価値を規定するのである。こうして、形式的な平等が
　　　　つくられるのであって、各個人が特殊なものであるときにこそ、各個人はそのかぎりにおいてた
　　　　がいに平等なのである。」
　　　P436 下段 L17～20
　　　　「初期のキリスト教徒は、個人の心霊に絶対的な価値をみとめていたために、彼ら以外の人々の
　　　　あいだに差異を生じさせるようなすべてのものにたいしてまったく無関心であった」
　　　P436 下段 L21～上段 L3
　　　　「絶対的個性などは存在しないということならば、――各個人は、自分のもつ属性の総和にすぎ
　　　　なくなり、したがって各個人は、その属性が異なっているように異なったものになるわけである。」

　＜解答＞個人主義とは、個性を尊重することである。したがって、個々人が絶対的に個
　　　性的であると人々に認められている場合に、全ての人が思う存分個性を出し、それ
　　　を尊重しあう（極端な個人主義）ということにおいて、平等である（全体的平等）
　　　ということである。

第四章「社会的水準」
第一節
１．なぜ分化が尊重されるのか。3つの理由を具体的に説明せよ。（p451-456）
分化が尊重される理由には、
① 個人心理学的なもの
② 個人的動機と社会学的動機のまざったもの
③ 純粋に発達史的性格のもの
があげられる。①は、「各自固有の価値意識と実際的行為の基礎をなすこの分化にたいする関心が、心理的に成長して分化の尊重になる」（p453上　L5-7）、つまり、人は他者との差異にたいして非常に関心を持つ傾向にあり、他者との関係の中でなされる個人の行動は他者との差異によって規定されている、というもの。また、②は、「この関心が、本来なんら分化の事実的基礎のないところにも分化を生み出すほどにまで実際的なものになる」（p453上　L8-9）、つまり、統一性の生じた集団においても、個人の持つ他者との差異に対するに関心によりその集団内における差異に新たに焦点が当てられ、その結果、統一性のあったはずの集団においても必然的に分化が起こるというもの。③は、慣習的なものから分化して出てきた「新しいもの」は、「従来の感覚水準からきわだっているものからだけ刺激を受けるという、われわれの差異に関する感受性」（p454下　L17-19）により、尊重されるというものである。

第二節
「古いもの」＝倫理的行為・倫理的形成、道徳的本質
「新しいもの」＝理論的確信・理論的教養

Qその集団に所属するすべての人が共有しているものは？
→「古いもの」＝原始的なもの＝低次なもの（進化論的）
Q社会的水準とは？
→低次なもの、分化されてないもの（原始的なもの）

２．分化が進んだ現代社会において、具体的にどういった水準化がなされているのか。具体的な例をあげよ。(p458-461)

＜水準化のプロセス＞
①他の集団に対する敵対心を持たせる（敵対する対象を作る）→一体感、統一性を持たせる（水準化、平準化）
②低次の観念や感情に訴えかける→集団的共感を呼び起こす→一体感、統一性
③模倣（外面的同調）→集団的感情の高まり（内面的同調）＝精神的な共同所有物の形成→一体感、統一性
＊①、②はその集団の支配者（指導者）側からのはたらきかけによって水準化が促されるという場合であり、また、逆に③はその集団に属す個人一人一人によって自発的に促される場合である。

《具体例》
♪フィリピンの政治家
　ラモス氏　　　　→具体的な経済政策を説く
　エストラーダ氏　→「農民中心の政治をします」のみ繰り返す
　　　　　　　　　　　↓
後者が大統領に当選。国民の大多数を占める農民に単純で理解しやすいフレーズで感情に訴えかけたことが彼を勝利に導いた。（②に該当）

♪ヒトラー
　感情に訴えかける演説（②）
　単純明快な内容（②）
反ユダヤ主義（敵対心、弱いものいじめ）（①）
　「ハイル、ヒットラー！！＼(￣ー￣ )」（模倣）（③）
♪校歌斉唱
　みんなで歌う（模倣）（③）
♪卒業パーティー
　飲食を中心に進行→食べる、飲むという感覚的機能（低次なレベル）に訴えかける→親交を深める（②）

《引用・参考》
p458上　L6-8
「このような低次の観念や激情だけがすべての人に共通しているのであり、他方、高次のものは分化していて、そのため人によって異なるのである。」
p458上　L9-10
「ある集団が統一して行動する場合、それはいつも、もっとも単純な観念を土台にして生ずる」
p462上　L11-13
「平準化は、低い人が引き上げられるというよりも、高い人が引き下げられることによってのみ、可能なのである。」
p462上　L15-17
「集団にはたらきかけようとおもう人は、理論的説得によってではなく、本質的にただ彼らの感情に訴えることによってのみ、これをなしとげる」
p466上　L12-15
「われわれの感情とその表現のあいだに形成され、～少なくとも一部分を引き起こす。」

p468上　L12-20
「きょうの流行が昨日や一昨日の流行に対して～多くの人々は、個別的に分化した行動の魅力を流行ととりちがえ、自分が縛られている水準の低さに気づかないのである。」
→分化した特殊なものであると思い込んで流行を追い求め、消費活動を行っているが、しかし実はそれは大衆全体を対象とする産業界による陰謀なのだ・・・。私たちの共同的な領域に訴えかけて物を売り込もうと企てているのである。

＊社会的水準とは、その集団の共同的な領域を指し、それはすべての人に共通する、感情、食欲、性欲、共同的知識などきわめて原始的なものである。そして、集団にはたらきかける場合には、低次なレベル（単純な知識、感情、感覚など）に訴えかけることが最も効果的である。それは、相手を納得させるために複雑な理論を畳み掛け（高次なレベルに訴えかける）てしまっては、高度な知識を持った人にしか理解できないからである。

３．「この考え方と前述の主張との見かけ上の矛盾（p459）」とあるが、それはどのような矛盾であり、それはどのように解消されるのか。「この考え方」と「前述の主張」の指す内容を明確にした上で、答えよ。

《解答》
「この考え方」とは「分化の程度と共同的な内容の大きさとは反比例する、という考え方」（p459上　L14-15）のことであり、また、「前述の主張」は「宗教的共同体はその教義が少ないほど小さく、信仰内容の範囲は信者の数に比例するという主張」（p458下　L1-3）を指す。ジンメルは第四章の前半部分で、社会が分化し拡大するにつれ、その圏における共同的な領域はますます小さくなると論じてきた。ところが、宗教的共同体では、分化が進み信者が増える（共同体が拡大する）と教義（共同的内容）も増大するという、一見矛盾した事実が存在するのである。しかし、実際には、集団の拡大に伴って社会的水準はもちろん常に高まっていくのであるが、分化する速度に比べるとその速度が遅いため、共有する知識は実際的には増えているのに、割合で見ると（相対的に見ると）減少しているように思われるだけなのである。

→ここでジンメルは、前半で述べた理論に補足をつけたかったと見える。

《引用》
p458下　L4-5
「多数の観念を内部に持つためには、少数の観念を持つためによりも、いっそう分化した精神が必要である」

p459上　L18-p459下　L5
「最初の状態においては、社会的水準がきわめて低い・・・（中略）・・・たえず高まっていくと考えられる。」
p459下　L5-9
「この三つの規定、すなわち、集団の共同的所有物が全体的に高まること、同時に個別化も進むこと、そして前者が後者にたいして相対的に貧弱であること、という規定は、こうして完全に統一することができる。」

*キーワード*

・社会的水準
・差異、個別化
・平準化
・流行

第５章「社会圏の交錯」

１．「こうして観念の結びつきは、実際に知覚できるものに刺激されて起こる結びつきから、観念の内容がどうであるかということによって起こる結びつきへと進歩していくのであり、…（p.485下）」とありますが、それによって社会圏はどのように変化していくのでしょうか。

引用
・「つまり、諸属性は、はじめは、ただ同じ事物のなかにたまたま共存しているというだけで、別の種類の属性とも結合しているが、やがてそこから解放されて、はっきりした形をとり、さらに種類の同じものどうしで相互に結合し合うのである。」（p.485上～下）

・「だから家族は、はじめはきわめて緊密にその結合に依存している多数のさまざまな個人を包含している。だが、発達が進むにつれて、家族の個々人は、この原初的な連合圏の外側にいて、その連合圏のかわりに素質や性癖や活動などの事実的な類似性によって関係しあう人々と、結合するようになる。」（p.485下～p.486上）

・「このようにして、より自然発生的で、また、より感覚的関係によって結合していた初期の接触圏をいろいろな角度で横切る、新しい接触圏ができあがるのである。」（p.486上）

・「労働の分化がその多様な部門をつくりだしたあとで、もっと抽象的な意識が、ふたたびこれらの部門のなかの共通なものを結合させて、一つの新しい社会圏をつくるのである。」（p.496上）

解答
　観念の結びつきが、実際に知覚できるものに刺激されて起こる結びつきから、観念の内容がどうであるかという結びつきへと進歩していくということは、実際の知覚による時間的・空間的な制約を越えたということである。はじめはある時代において近くに住んでいる者同士の結びつきがあり、時間的・空間的に制約を受けたかたちでの緊密な結びつきがあった。つまりそのような知覚できるものに刺激されて起こる結びつきがすべてであったといえる。そこから次第に観念の内容による結びつきに進歩していくが、それは、それ以前につくられていた知覚できるものに刺激されて起こる、様々に異なった結びつきの中から、要素として同質なものを取りだして結合するように向かい、それまであった接触圏（実際に知覚できるものに刺激されて起こる結びつき）と、観念の内容による結びつきが様々に関わりあうという接触圏ができる。つまり、同質なものの接触からその要素を昇華させるようにして新たな結合が生まれ、大きく分けて２つの圏がそれぞれ個人のレベルで並立することになる。

２．「一言でいえば、自由と拘束は、社会化が、人格の異質的な諸要素を一つの統一的な圏の中に押しこむかわりに、同質的なものが異質的な諸圏のなかから出てきて結合しあうという可能性を与える場合に、より等しく配分されるのである。（p.494上～下）」というのはどのようなことを意味しているのでしょうか。

引用
・「なお、社会的権力が人間にたいしてふるう未分化な支配は、いかに広範であり厳格であったとしても、ある一連の生活諸関係にはかかわらないし、またかかわりえない。そして、その生活諸関係は、他の諸関係において強制が大きければ大きいほど、ますます無頓着で無規定的に、純粋に個人的な恣意に委ねられることとなる。（p.493下）」

・「なぜなら、その場合には、これまでまったく統制がなされずに純粋に個人主義的に規定されていた諸活動にたいしても、集団主義的な傾向がより容易に見いだされるようになるからである。（p.494上）」

・「すなわち、人格は、全体として解放されるにつれて、その個々の方面において社会的結合を求め、これまで集団的権力の未分化な拘束を補完する働きをしていた個人主義的恣意を、みずから制限するようになる。（p.494上）」

解答
　「集団主義的強制と個人主義的恣意とがこのように不適切に配分されたのち、慣習や人々の傾向の事実的内容が連合の形態を決定する場合に、それはより適切かつ正当な形で配分されるようになる。（p.494上）」とあるように、自由と拘束のバランスが大切なのであり、それが不適切であったとすると１００％拘束か、１００％自由かというような自然状態や専制政治の状態になってしまう。
　そのような状態の後、慣習や人々の傾向の事実的内容という観念の内容が連合の形態を決定するような場合に、自由と拘束とは適切に配分されるのである。それは、人格が解放されるにつれて、その個々の方面において、内容的な結合を求めることが、知覚による結合では満たし得ず、個人主義的な恣意を制限することにつながるからである。

３．「（このような場合には、）様々な結果を生む心理的融合が、二つの側面で容易に起こる（p.496下）」とありますが、心理的融合を生む二つの側面とはどのような側面か説明して下さい。

解答
①多数の異なった諸活動に共通する上位概念が、共同的な行動と制度を生みだすのに十分なほどには、その諸活動からまだ分離してはいないということ（p.496下）

 「たとえば、婦人が政治的・社会的権利を獲得しようとして、あるいは政治的援助等々の婦人だけにかかわる諸目的を集団的に達成しようとして、共同的行動を多数でとるということは、最近の文化のもとではじめて現れてきた事柄である。（p.496下）」とあるように、この場合は個別的な圏から、その中に潜在していた上位の圏を引きだし、ひとつの概念としてまとめ、共同的な行動と制度を生みだす作用をするような分化である。しかし、そのような分化が起こるには至らないほど緊密に結びつき、一般概念と現実の姿との分離がなされていないような状態であるときに心理的融合が起こっていると考えられる。

②結合していた同位の諸圏を相互に切り離す作用をいっそう多く行うことをしないということ（p.498上）

・これは、結合していた同位の諸圏を相互に切り離す作用をいっそう多く行うという①とは逆方向の分化であり、それがなされないような状態において心理的融合が見いだされるのである。それは例えば、「（要するに、）専門的な仕事が、しばしば政治生活や感情生活をも含んだ全生活をきわめて強く集中していたのである。（p.498上）」ということを意味するのである。①のときの分化とは違って、同位の諸圏から様々な圏を分離していく分化が起こり得ないような状態で、心理的融合が見いだされるのである。

４．３のような心理的融合を解体させるにいたった分業の契機を説明して下さい。

引用
 「すなわち、どんな人間においても、彼の多様な生活内容がただ一つの関心圏によって支配されている場合、その関心圏の力は、その範囲が縮小するにつれて減少する。意識が狭い場合には、多岐にわたるある仕事とそれに属すある多様な観念は、その他の観念の世界をも自分の支配下に引き込むのである。（p.498上）」

 「それは、一定の時間内では、他のすべての事情が等しければ、意識がある観念から他の観念へひんぱんに移りかわれば移りかわるほど、それだけ観念の力が多く消費されるという、すでに述べた心理学的事実にもとづいている。（p.498下）」

 「だから、分業化されていない仕事は、他のすべての事情が等しければ、非常に専門化が進んだ仕事よりも、個人の生活過程のなかで、他のいっさいを包摂する中心的な位置を占めることになる。（p.498下）

 「このように、他の生活諸関心はその人間の従事する職業に依存するが、この依存関係は、仕事の部門が増加するにつれて緩和されざるをえない。というのは、その諸部門の差異にもかかわらず、他の諸関心におけるさまざまな類似が明るみに出てくるからである。（p.499上）」

 「（そこで、）まったく違う考えをもつ人々も、まったく同じように道徳的であるということに経験上出会うと、倫理的生活はあの集中化から解放されて自立するようになる。（p.499下）」

解答
　多様な生活内容がただ一つのことによって支配されているときは、関心圏が弱まり、ただひとつの支配下のもとに、すべての多様な観念を引き込んでいる。また分業化がなされていない仕事においては、様々な仕事についてそれぞれ違った観念でもってなされなければならないために、観念の交替が比較的はやく行われ、心理的なエネルギーの消費も拡大する。そのために他の関心ごとに対する意欲がそがれて、弱まった関心ごとはまた生活内容を支配している一つのことに依存するようになるという、それ自身で完結しているひとつのサイクルを作り出している。（一つのことが支配している→心理的エネルギーの消費が拡大する→ますます一つのことが支配を広げる）
　しかし、ある一つの支配的なものの中に、様々な仕事の部門が出てくることによって、弱められていたはずの他の諸観念とのあいだにおける類似性が経験されるに至り、そのような視野を手に入れることで、分業がなされていなかったときの、一つのものへの集中化からは解放されるようになる。

５．「たとえば、刺繍機械を動かす女工は刺繍女よりもはるかに精神のない活動をおこなっているが、他面、その活動における精神は、いわば機械のなかに移転しており、機械のなかに客体化されているのである。（p.501下）」とありますが、
刺繍機械を動かす女工と刺繍女では何が違っているのでしょうか。
②その活動における精神が機械のなかに客体化されているとはどういう意味でしょうか。
③なぜ刺繍女（多くの意味と深い意義をもった制度や交渉の様式）から、刺繍機械を動かす女工（まったく機械的、外面的で精神を欠いているように見える制度や交渉様式）へと変化したのでしょうか。

①刺繍機械を動かす女工と刺繍女では何が違っているのでしょうか。
・女工
刺繍とは機械がやるもので彼女が刺繍できようができまいが関係ない。つまり、できあがった作品の中に女工の個性や性質を見出すことはできない。（画一化、平準化）
彼女にとって刺繍の作品を作ることは仕事であって、仕事が終われば女工ではなく、妻であったり、主婦であったり違う属性を手に入れてそれにしたがって振る舞っている。

 刺繍女
刺繍とは彼女自身の手作業によってやるもので、刺繍ができなければ作品は作れない。できあがった作品は少なくとも彼女の共同体内では彼女自身を示すものであって、個性や性質を見いだせる。
彼女にとって刺繍の作品を作ることは彼女のすべてであって、刺繍の作業が終わっても刺繍女という同じ属性で生活しなければならない。

その活動における精神が機械のなかに客体化されているとはどういう意味でしょうか。

引用
・「また他方、分化は、しばしば、活動から精神的要素を引き離し、機械的なものと精神的なものとを別々の存在にしている。（p.501上～下）」

・「また同じように、職業の分化の増大は、他の生活内容のまったく同じ面が、さまざまな職業と結びつきうること、また、職業一般からは高度に独立したものにならざるをえないことを、個々にしめさずにはいなかった。（p.499下）」

解答
実際に刺繍女のやっていた作業をしているのは刺繍機械であり、女工はそれを動かすだけの存在でしかない。つまり、分化によって刺繍女を精神的要素と機械的要素とに引き離し、刺繍機械がその刺繍女の精神的要素を受け継いでいるということがいえる。

６．なぜ刺繍女（多くの意味と深い意義をもった制度や交渉の様式）から、刺繍機械を動かす女工（まったく機械的、外面的で精神を欠いているように見える制度や交渉様式）へと変化したのでしょうか。

引用
・「すなわち、多くの意味と深い意義をもった制度や交渉の様式は、まったく機械的、外面的で精神を欠いているようにみえる制度や交渉様式にとってかわられるのである。そして、以前のあの段階をこえているより高い目標だけが、それの共同的作業やのちにおけるそれの結果にたいして、個々の要素がそれ自身としてはそなえていそうもない精神的意味を与えるのである。（p.501上）」

・「このように、社会的諸制度・諸等級・諸結合は、より機械的、より外面的になるが、文化の進歩に役立つ。その場合には、それらの諸制度、諸等級、諸結合を端的に支配し、以前の状態が究極の目的とした精神や意味をもはやそれら自体で失わせてしまうような、より高い社会的目的が出現するのである。（p.501下）」

・「（中略）…すなわち、この例外にしても、内的で合理的なものによる外的で図式的なものの排除にしても、決してそれ自身一つの図式的な規準になることはできないということをしめしているからである。（p.502上～下）」

解答
　刺繍女が持つ精神や意味を失わせてしまうようなより高い社会的目的が出現することでこのような制度や交渉様式の変化が起こったのであるが、ここでは刺繍機械による刺繍のほうが大量に商品を作ることができるし、より効率的であるというような、様々な社会的目的があったためである。
　このような繰り返し、つまりより高い社会的目的が見いだせるような制度や交渉様式を求めていくのが運命であり、どんな制度や交渉様式であったとしても図式的な規律としてとどまることはできないのである。

第六章

１．「分離の原理のように見える分化は、実はしばしば調停と接近の原理である（ｐ５０６）」と書いているが、この分化の原理（力の節約の原理）とはどのようなものか。

「引用」
ｐ５１７上　Ｌ３－Ｌ８
「多くの機能が諸個人から切り離されて、一つの共同的な中心的機関、たとえば国家に委譲される場合、それらの機能は、この統一的な機関の中で、一つの機能が変化すれば他の機能全部も変化するという具合に、相互に関係し依存しあうようになる。」

ｐ５１７下　Ｌ４－Ｌ６
「力の節約の原理は、一方では諸機能を個人的から引き離して一つの中心的組織に移すが、他方ではしばしばそうすることを制限するのである。」

ｐ５２０下　Ｌ１－Ｌ４
「発展の道は一方ではより小さな集団をより大きな群へとみちびき、同時に他方ではそれを個別化に導くという図式に照応している。」

ｐ５２３上　Ｌ１１－１３
「分化は相対の内部における同時的な並存関係から、個人の生涯における時間的な前後関係に移行している」

ｐ５３４下　Ｌ１１－１３
「貨幣は、潜在性の意味での諸分化のもっとも完全の同時並存関係をなしている。あらゆる活動は一般に時間的前後関係における分化である。」

＜解答＞
上記の引用のようにさまざまな所に調停と接近の原理が見られるが、この原理は原理だけに、力の節約を説明する時にすべてに当てはめることができる。ただここにおける一番大事なことは、同時的並存関係と時間的前後関係である。同時的並存関係とは、首尾一貫した特性、生得的なもの、長期的なものを例にあげることができ、時間的前後関係とは、単発的なもの、後天的なもの、短期的なものを例にあげることができる。そしてこの二つの関係は一方が進めば、他方も進むという発展系列が同時的なものである。これら二つの傾向のあいだの葛藤が、分化への傾向そのものの中で繰り返される。（一方がはみ出すが、しかし、首尾一貫している方に、その他方が相互反応し、もう一度そのはみ出した方を戻したりする、そしてまた元の同じ関係に戻る。）これらの例は一般に貨幣を用いれば分かりやすい。

＜例＞
貨幣の性格・・・個々の事物が持っている交換価値性質（機能）を異なった事物に共通する（すべての個体の上に成立する）一つの概念、シンボルとして結び付け、意識の中で自立化したもの。（ｐ５１１下）そしてそれは交換手段として無性格であるがゆえに統一的な性格を持っている反面、あらゆる多様な営みと楽しみという記号に変化し、潜在的な形で経済生活のあらゆる色合いをそれ自身の中に結合するもの。（ｐ５３４上）また無数の諸機能の結果と可能性を一つの点に集中し、将来の多様さだけでなく、過去における多様さをも包含するもの。（ｐ５３４下）そしてそれは現実の経済的な諸価値と諸過程を集中し、媒介、摩擦を軽減するような道具であり、労働と分化の上に存在する。（ｐ５１１下とＰ５３５上）

貨幣における同時的並存関係と時間的前後関係
・同時的並存関係・・・貨幣を所有しているということ。もしくは貨幣の存在そのもの
・時間的前後関係・・・貨幣を行使するということ。もしくはあらゆる貨幣活動

＜疑問＞
では、なぜこの分化（原理）が起こるのであろうか。
＜解答＞
それは、自然的合目性によるものである。では自然的合目性とは？

・自然的合目性・・・自然はもっとも短い道をとるのではなく、短い道を求める。

その根拠として、「物質の諸要素に内在する力は、その影響における諸運動が、一定の空間内における衝突を最小にするように思考するような性質でなければならない」（ｐ５１５上　Ｌ４－Ｌ７）と「自然物のすべての活動の成果は、快と不快の感じによって決定され、しかも、一つの完結した現象領域の中に乎越える諸運動は、あたかも、不快感の総和を最小限にまでさげるという無意識的目標を追求しているかのように行われるというのである。」（ｐ５１５下　Ｌ５－Ｌ９）

自然の合目性に関しての詳しい個所は、カント「永遠平和のために」ｐ５４以降で参照できる。ｐ５４では「自然の機械的な過程から、人間の不和を通じて、人間の意志に逆らってでもその融和を回復させるといった合目性がはっきりと現れて出ているのである。」つまり、これは人間観の不和という摩擦を取り除こうとする自然の意志が機械的過程によって働いているということ、すなわち、分化の調停と接近の原理が働いているということである。なお時間の都合上、この機械的過程の説明はここでは省略する。

またカント「啓蒙とは何か」中にある「人類の憶測的起源」においてもこの自然の合目性を見ることができます。

＜六章概要＞
分化の原理（力の節約）とは、調停と接近の原理であり、それは主に同時並存的関係と時間的前後関係の中に見られる。そしてこの分化の起こる原因としては、自然の合目性、つまり、自然が最も短い道を求めようとするということに起因している。

ディスカッションテーマ
２．「低い社会の内部では～代価することができる。」「もっとも高等な知的人間になると～内的多様性が付与している（ｐ５２２）」とあるが、この二つからして現代はどのような社会の状態であり、もし現代が代替可能な人間が増えたと解することができるのであれば、それはなぜか。もし現代が代替不可能な人間ばかりであるのであれば、その理由も書け。

＜問題点＞
現代の人間は分化した高等な知的人間であるのに、なぜ代替可能であるのか。
分化した社会＝高等な知的人間、代価不可能な人間
未分化した社会＝低い知的人間、代価可能な人間
では、現代は分化した社会か？それとも未分化した社会か？
＜解答＞
現代は代価可能な人間が増えた時代である。なぜなら現代とは社会的水準の観点から言えば、社会的水準と加速度的に進んだ分化が一点で交わりつつある、あたかも原始的状態における低い社会と変わらない状態ということができる。

発展とジンメルの社会学的考察の観点からの説明

発展というものは、同時的並存関係と時代的前後関係という分化の原理にしたがってらせん状になっており、社会というものは、これを外在、もしくは内在する複雑な構成物として存在している。その中で、社会の発展というらせん状を眺める時、上に分化した社会（高等な社会、現代）を置き、下に未分化な社会（原始的状態）を置いた時、現代というものは、発展途上の段階でありながらも、高度に発展し、高度に分化した高等な社会に近いように思われる。なぜならそれは、社会を近代の枠組みで見た場合、産業革命、情報革命、ＩＴ革命に伴い分化が加速度的に行われた時代であると示唆することができるからである。
其の中で、社会的水準と加速度的に分化した点がほぼ一点で交わってしまったことによって、分化した社会の人間（現代の人間）というものは、代価不可能な人間が多いはずなのに、あたかも未分化な社会の人間であるかのような、代価可能な人間が増えてきている。もっとも高等な社会というものは、実際には一瞬しか存在しないか、もしくは存在しない。なぜなら社会の発展というものはらせん状のものであり、それは一瞬しか存在しないか、もしくは、代価不可能な人間だけの高度に発達した社会というものは存在しないのが、定説である。この社会的水準、発展と分化の構造に関しては四章を参照するということと、具体例を見ていただくとわかりやすい。

＜図＞

＜具体例＞
２０世紀前半のフォード会社に始まるオートメーション、フリーターの増加
民間から政治家が生まれるようになったこと、歌手がドラマに出演してくる
ＩＴ革命（分化の超加速的時代）による中間管理職の撤廃（代価可能な人間の増加）
芸能人の増加

３．「変化する欲求は～効果的に持続する（ｐ５２６）とあるが、この部分における人と人との関係はどうか。また消費社会の中で、人とモノとの関係はこの部分から考えるとどのような関係であるか。

＜解答＞
人と人との関係と人とモノとしての関係
「色々な要求を出して、彼らの本質の色々な部分を活動させれば」この文から読み取れることは、要求＝対象を強制的操作対象として見て、また人の心（人格）と人という概念上（観念）での二重の側面（心理学的、社会学的）で人を強制的操作対象＝欲求の操作対象としてみている。つまり、人と人との関係が孤立した状態であり、人を手段としてみているということを示唆している。ということは、鎌田テーゼである自然環境学は人間環境学であるということから考えると、自然をも操作対象（モノ）であるという思考形態がｐ５２５ページの下段にある土地の畑の例に見られる。すなわち、ここでは、ある主体が人とモノとを操作対象であるという観点において同一視している。

消費社会における人とモノとの関係
画一化
このような人と人との孤立化によって人と人との関係は薄れ、あたかも現代では、社会的水準と加速的な分化が一点に交わろうとしている未分化状態であり、人は代価可能なものとなり、観念上で画一化の幻想に促される。（個人主義の平等との類似）また上の文の要約として、「変化する要求を人の色々な部分を活動させれば，効果的に持続する」ということから考えて消費社会では、これによって消費を促そうとする意図が見られる。まず潜在的に未分化状態の幻想により、人は画一的な思考形態を植え付けられており、その上で、貨幣とメディアの発達によって人は画一的な思考形態をさらに助長させられた。貨幣によって人は計算可能なもの、目に見えないもの以外認識することができないという画一的な思考形態が形づくられ、その後、マスメディアの発達によって、社会的水準に合わせた低次なもの、原始的なもの（四章参照）に訴えかけることによって、画一的なモノのイメージというものを人の心に客観的に植え付けるようになった。また貨幣もメディアも遠くのものを近くにするという点に関して同質のものであり、貨幣が昔、発達したことによって人とモノ相互的に交流が盛んになったように、マスメディアの発達によって人とモノとの相互的交流は時間と空間を越えて、情報を媒介として消費というものが促されるようになった。（分化の原理、力の節約）

持続可能な消費欲求
この画一化された人の思考形態の中で、「色々な要求を人の色々な部分を活動させれば、効果的に持続する」という消費形式がとられるようになる。つまり、人はさまざまな人の欲求に見合うもの（分化した欲求に見合うもの）をマスメディアを媒介として促される形となる。ただ促されるだけでなく、ある消費が完了した後、今度は途切れるはずの欲求はさまざまなモノからの要求によって人の欲求というものは促されるようになる。之により人はらせん状の消費の無限運動に陥る。また人とモノとを同一視することにより、消費欲求はモノ自体だけではなく、人の商品化された性質にまで促されるようになる。そしてこの消費欲求の性質であるが、ジンメルも指摘しているように人が社会と交わる時に持つ、差異への欲求である。それは画一化された幻想の世界で消費意欲をそそるカンフル剤となる。この時の物（机、洗濯機・・）などへの欲求はその物自体への欲求では無く、記号的モノ（代価可能なモノ）への欲求となる。ここでも人とモノが同一視されている。またこの記号的モノへの欲求は、人間の意志で選択してこの記号的モノを選んでいるようで、実は、マスメディアの思考操作における人間の欲求対象の差異をコード化したものである。この差異のコード化によって人はモノという記号的モノの前で平等であるはずなのに、消費（購買）の前では、人は差異のコード化を行い、逆に人と人との階層化を促す。しかし、人はこの差異を求めながらも集団に存在するようになるという矛盾がはらんでいる。また購買をさせる側の視点に切り替えてみると、画一化、階層化など集団を動かすにはものすごい力（新商品の販売）などがいるように考えられる。

差異のコード＝キムタクの着ている服、芸能人のもの、ブランド品

最後に感想と質問
では、ジンメルはこのような大衆消費社会の中で、どのようなことを願いこの社会的文化論を書いたのであろうか。

＜感想＞
ジンメルは大衆消費社会を予測した上で、そのような社会を良いものとしたかというとそうではないように思われる。むしろ、このような社会の中で人と人との共同性をどのように保つべきかを提示したかったのではないか。それは、社会的分化論というドイツ語の表題にも表れている。differ enzieren というドイツ語は差異化する、（－ung）差異を生み出す力という意味で使われている。つまり、社会を差異化することを欲するというのである。一見、大衆消費社会においてこの言葉は悲観的な意味合いを含むかもしれない、しかし、ここにジンメルのメッセージがあったのではないか。つまり、ｐ５２２の部分で低い社会（未分化した社会）と高い社会（分化した社会）が出てきたが、ジンメルはここで低い社会に戻れとは言っていない。すなわち、過去に戻れないし、発展における分化というものが自然合目性に基づくのであれば、それは誰にもとめることができない。それならば、未来思考型で分化して差異化を促す方向で書いたのではないか。分化することによって発展する、しかし、人は孤立する。では人を孤立させないためにどのようにして共同体を保てばいいのか？ここにジンメルの問題関心があったように思われ、またここにジンメルの意志があったのではないか。

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