ジャン・ボードリヤール「現代消費社会の神話と構造」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

ジャン・ボードリヤール「現代消費社会の神話と構造」

第１部　モノの形式的儀礼
☆１．「記号」の両義的な働きについて説明してください。（ｐ２４～）

　　記号と何か（ｐ１７８～）
　
　　例）信号の場合
　　　シニフィアン：信号（赤・黄・青）など目に映るそのもの
　　　シニフィエ　：止まる・注意・進むなどその記号によって意味されるもの

　　　午後ティの場合
　　　シニフィアン：午後ティ、今あなかの目に映っているこれそのもの
　　　シニフィエ　：おいしい、持ち運び便利、環境に悪影響、ということ

　　　カバンの場合
　　　状況：鎌田先生が教室にやって来ました。誰もいませんが、僕のカバンを
　　　　　　発見し、僕が先生より先に教室に来ていたことを理解しました。
　　　シニフィアン：僕のカバンそのもの
　　　シニフィエ　：教科書を収容する機能、僕が先生より先に来ていたということ

　　　ルイビトンの財布の場合
　　　シニフィアン：財布そのもの
　　　シニフィエ　：個性的であること・同じであること

　　記号の両義的な機能
　　ｐ２４
「記号の働きは常に両義的である。その機能は、二重の意味で祓いのける事
　である。つまり記号（力・現実・幸福等など）を捕らえるために何かを浮び
　　あがらせることであり、他方、否定し、抑圧するために何かをよびおこすことで
　　ある。」
問の答え）現実のシニフィアンを浮びあがらせる事によって、複雑なシニフィエ（　　
　　　　　幸福、力、生産過程など）を抑圧し、魔術的思考から生じるシニフィエを浮
　　　　　びあがらせる。

　魔術的思考とは
　　ｐ２１
　　「この心性は消費を支配する魔術的思考であり、日常生活を支配し奇蹟を待望する
　　　心性であり、それは考え出されたものの絶対的力への信仰（ただし、われわれの
　　　考えによれば記号の絶対的力への信仰だが）の上に成り立つという意味での原子
　　　人の心性である。」
　　　奇蹟を待望する心性、考えられたものの絶対的な力への信仰
　　　→魔術的思考とは、実体のないものを期待する思考であり、心に一定の状態を
　　　　生み出す技術によって現実の複雑さを縮減・ダイジェストする思考である。
　　　　それは、現実的・歴史的・社会的な世界をできるだけ排除することを可能にす
　　　　る（これによって、日常生活が現実からバーチャルの世界に逃避できる）。
　
　現実と記号との距離（ｐ２４～）　
　　①現実　⇔　記号化されたモノ
　　　　　距離

　　②現実　⇔　マスコミの伝える現実（→現実の眩惑）
　　　　　距離（重要なのは真実より真実らしい事である）
　ｐ２６
　現実世界、政治、歴史、文化と消費者との関係は、好奇心の関係
　→池田市での悲惨な事件（さて、あなたはどのように感じましたか？？）
　　複雑な現実を単純化！！
　ｐ２６「イメージ、記号～あやされているほどだ。」
　ｐ２８「安全が（享受の枠の中で）～離せないのだから。」
　→自分たちの生活の平穏さ・平和さの差異確認、
　　安心感、優越感、プライベートな領域の確保

☆２．「記号としてのモノ」とは何ですか、説明してください
　　ｐ１１８
「差別的なものとしての、記号としてのモノの開発（この水準だけが消費を独自的に定　
　義する）がそれらの使用価値の追放の上に成り立っている。」
　　　
　　　記号としてのモノの価値　　⇔　　本来の使用価値
　　　バーチャルな価値　　　　　　　　　現実の利用に即した価値
　　　バーチャルなシニフィエ　　　　　　本来のシニフィエ

　　本来の使用価値としてのモノではなく、バーチャルな使用価値が優先されている
（本来価値が無視、黙殺されている）モノである。例として、ブランド品が挙げられる。
　ブランド品はそのモノの使用価値よりもむしろバーチャルな価値（個性的であること、同じであること）といった価値のみが存在しているモノである。
　また、この記号としてのモノは、差異化や同化のために消費されるため、代替可能なモノである（詳しくは第２部で述べるのでここでは言及しない）
　　　　　　

☆３．消費社会での「奇蹟」とは何ですか、説明してください

　奇蹟の概念
　「自然法則や歴史の因果律を越えた超越的な力によって起きると理解される現象」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　～哲学・思想辞典（岩波書店）より抜粋～
　
「日常生活の経験では、消費の恩恵は労働や生産過程の結果としてではなく、奇蹟と
　　して体験される。」ｐ２１
　「消費者大衆は豊かさを自然の結果として受け取っているのではないだろうか」
　　ｐ２３→そのモノの歴史をみない、棚から牡丹餅

　　答え）消費社会における奇蹟とは消費のことある。その恩恵は労働や生産過程の結
　　　　果としてではなく、分配された自然な結果として奇蹟的に体験されるものであ
　　　　る。また、マスコミュニケーションが伝える現実もまた、奇蹟である。マスコ
　　　　ミはその場にいないにも関わらず、そこでの現実をそのダイジェストで伝える。

４．何故、消費社会において「浪費」が必要なのですか、説明してください
（ｐ３８～４６）
　ｐ３９
　「個人にせよ社会にせよ、ただ生きながらえるだけでなく、本当に生きていると
　　感じられるのは、過剰や余分を消費するすることができるからなのである。」

シェイクスピア
　「えい、必要をいうな！最もみじめな乞食でさえ、最もつまらぬもののなかに
　　ほんのわずかばかりだが余分なものをもっている。自然を欠乏の状態に戻して
　　しまえば、人間は動物になってしまい、人間の生活など何の値打ちもなくなる
　　のだ。わかるかな、われわれが人間らしく生きるには、ちょっとした余分が必
　　要だということが、」
　ｐ４２
　「すべてのシステムを方向付けるのは浪費だといえる」

　答え）浪費とは社会にとって、決して機能障害（詳細は第２部）ではなく、社会の本
　　　　質的な機能であり、社会そして、個人の豊かさは浪費によって達成される。ま
　　　　た、すべての社会システムを方向付けるのは浪費である。故に浪費は社会に必
　　　　要なものなのである。
第二部
1. 産業システム全体についての問題を取り組む際に考えられる二つの立場を述べよ（p58?59）。ボードリヤールはどちらの立場を取っているのか。そして、そのシステムの究極目的はどこにあるのか。（p56、p59、p61）

引用
p58　L14　?　p59　L5
「成長と豊かさの儀礼を超えて、産業システム全体についての問題に客観的に取り組むとき、次の二つの根本的選択が、考えられるすべての立場を要約することになる。
（一）ガルブレイス（およびその他の多くの人びと）の選択。理想主義的で魔術的なこの選択は、一切の否定的現象（システムの機能障害、公害、貧困）を、嘆かわしいけれど偶然的な、したがって長い目で見れば修正できるものとして、システムの外へ祓いのけ、成長の魅力的軌道を守りぬこうとする。
（ニ）システムは不均衡と構造的窮乏によって生存し、その論理は偶然にでなく構造的に両義的であることを認め、システムは富と貧困を同時に生み出し、充足と同様不満を、進歩と同様公害をも生み出すことなしには存続できないと考える立場。システムの唯一の論理は生き残ることであり、この意味でのシステムの戦略は、人類の社会を不安定な状態、絶えざる欠損の状態に保つことなのである。」
　＊「構造的に両義的である」とは、システムがプラス面（「富」「充足」「進歩」）とマイナス面（「貧困」「不満」「公害」）を含むということ。
p60　L14?17
「システムは社会の進歩からの『脱落者』にア・プリオリに敵対しているわけではなくて、市民の福祉も原子力も区別しないで同時に自己の目的とするのだが、それは結局、システムにとって両者は内容的に同じものであり、システム自体の目的は別のところにあるからなのである。」
p61　L2?3
「システムは自分が生き残るための条件しか認識しようとせず、社会と内容については何も知らないのだ。」

解答
＜立場①＞
　産業システムには、マイナス要素は含まれず、社会のマイナス要素は社会の成長によっていずれは修正されるとする、理想主義的な立場。
＜立場②＞
　産業システムにはプラスとマイナスの要素が含まれており、社会の成長（つまり、システムの安定）にはマイナス要素（欠損部）が必要不可欠である、とする立場。ボードリヤールはこの立場をとっている。

　また、産業システムの究極目的は、システム全体の存続（安定）であり、内部の欠陥を補うことではない。

2. 社会の基本的過程である地位の上での差異化にはどのような側面があり、またそれはどのようなものか。（p68）

引用
p68　L5-7
「社会の基本的過程である地位の上での差異化（誰もがこの差異によって社会に組みこまれている）には、生活的側面と構造的側面とがある。前者は意識的で倫理的（生活程度や地位獲得競争や権威の尺度についてのモラル）であり、後者は無意識的で構造的である。」
p68　L8?10
「消費者は自分で自由に望みかつ選んだつもりで他人と異なる行動をするが、この行動が差異化の強制やある種のコードへの服従だとは思ってもいない。」

　一つは「生活的側面」であり、それは消費者が、自分の意志で自由に他者と異なった行為を選択しているという見方であり、個人の把握可能な（意識的・倫理的）側面である。もう一つは「構造的側面」であり、消費者が社会から与えられたある種のコード（限定された、分類された差異）を強制的に選択させられているという見方であり、個人には見えない（無意識的・構造的）側面である。

＊個人は自己の自由意志で他者と違った行為をし、それによって「絶対的差異」を手に入れていると思いこんでいる。ところが、実際は、個人は社会が与えた「相対的な差異（コード）」、つまり「見せかけの差異」を選ばされており、「無意識」のうちにシステムに組み込まれ（「構造的」）てしまっているのである。
例：
Aさんがある雑誌を見て、すごく変わったデザインの服を見つけた。そこで、自分の個性を出すためにその服を購入した。→このとき、Aさんは「自分は他の人とは違う」と感じている。しかし、 Aさんが購入した服も企業が産み出したモデル（操作された枠、コード）であって、唯一無二のものではない。つまり、その服はAさん以外の人も購入し、着用している。社会から事前に与えられていたコードからの選択、つまり操作された枠内での選択の自由しか与えられていない。そういう意味で、Aさんは「絶対的な差異化」には成功しておらず、企業が産み出したその他のモデルとの「相対的な差異化」を無意識のうちに強いられていたのである。

3. ボードリヤールは「豊かな社会」「貧しい社会」に関してどのような見解を示しているのでしょうか。ここでの「真の豊かな社会」とはどのような社会でしょうか。（p54、p78・79）

引用
＜豊かな社会について＞
p78　L6?7
「未開社会の特徴である集団全体としての『将来への気づかいの欠如』と『浪費性』は、真の豊かさのしるしなのである。」
p78　L9?11
「未開人の信頼を成り立たせ、飢餓状態におかれても豊かに暮すことを可能にしているものは、結局、社会関係の透明さと相互扶助である。」
p78　L13?16
「贈与と象徴的交換の経済においては、ほんのわずかの、常に有限の財だけで普遍的富を生み出すのに十分なのだ。なぜなら、それらの財はある人びとから他の人々へと絶えず移動するからである。富は財の中に生じるのではなくて、人々の間の具体的交換の中に生じる。」
p79　L1
「未開社会の交換の場合には、それぞれの関係が社会の富を増加させる」

＜貧しい社会について＞
p77　L6?7
「われわれは生産すればするほど、豊富なモノの真只中でさえ、豊かさとよばれるであろう最終段階（人間の生産と人間の合目的性との均衡状態として規定される）から確実に遠ざかってゆく。」
p77　L11
「現代社会の豊かさは稀少性の組織的支配（構造的貧困）が優先するために、徹底的に否定される」
p78　L7
「われわれの方には豊かさの記号しかない」
p78　L8?9
「貧困とは財の量が少いことではないし、目的と手段との単純な関係でもなく、なによりもまず人間と人間との関係なのである。」

p79　L5?7
「現代の『豊かな』社会では豊かさが失われ、失われた豊かさは途方もない生産の増大や新しい生産力の発展によっても取り戻すことができないだろう」

解答
　ボードリヤールは、物質的に見ると、現代の消費社会は「豊か」であり未開社会は「貧しい」としているのだが、その「物質的な豊かさ」は「真の豊かさ」ではないとし、それを現代社会ではなく未開社会に見出している。
　ボードリヤールの言う「真に豊かな社会」とは、物質的には豊かではないが、人々の間に豊かな信頼関係が成り立っている社会を指す。そこでは、人びとは必要最低限の財だけを手に入れ、他者と交換し分かち合うことによってすべての財を使い果たす（浪費）ため、財を蓄積させることはない。
　一方、「真に豊か」とは言えない社会、つまり現代の消費社会では、財の蓄積、つまり人々がモノを所有することによって、他者と自己を比較するようになり、他者との差異を意識するようになる。そうして、その余剰の生まれた社会（消費社会）は人々に「欠乏感」と「差異化（稀少性）への欲求」とを生じさせ、消費活動を促進させる。
　
4. 「真なる命題は『欲求は生産の産物である』ではなくて、『欲求のシステムは生産のシステムの産物である』なのである（p90　L3?4）」とはどういうことでしょうか。また、何故産業システムのなかで、欲求の無限運動が行われるのか説明せよ。

解答
　一つ目はガルブレイス、二つ目はボードリヤールが述べた命題である。この二つの命題の違いをはっきりさせるため、ここではガルブレイスの理論とボードリヤールの理論を比較しながら、回答を導き出していく。
　ガルブレイスのいう「生産」とは、単なる「財やサービス（使用価値としてのモノ）の生産」である。財の生産には資源が必要であり資源は有限であることから、「財やサービスの生産」の増大には限界がある。また、彼は、個人の「欲求」はそれぞれのモノに対して個別に存在するがゆえに代替不可能であり、類型化でき、把握可能なものであるとしている。そして、広告などの「人為的アクセル」の作用がない場合には、人間の本性に存在する「何かしら経済的原則のようなもの」に基づき、個人は欲求に限定を設定するため、それらの欲求は安定化可能である。つまり、個人は最大限の満足ではなく個人の領域でバランスの取れた「調和ある」満足を目指す傾向にある。ここから導き出される命題が「欲求は生産の産物である」であって、「生産至上主義のシステムがなければ多くの欲求は存在しない（p89）」、つまり、生産を止めれば欲求も生まれてこないとしている。

　一方、ボードリヤールはこれに批判的な立場を取っている。ボードリヤールのいう「生産」とは、「イメージ（他者との差異を表すための記号としてのモノ）の生産」である。モノに対して付加価値を与えることは無限に可能であるということから、「イメージの生産」の増大に限界はない。また、彼は、「欲求」は個人とモノの関係としてモノに応じて個別に生まれるのではなく（「個別に切り離された欲求は無に等しく」p91）、システムの要素として生み出されるのであり、代替可能であるとしている。人々は社会の一個人として自己および他者と意識し、常に他者との差異を求める（差異化への欲求）。モノがあふれる現代の消費社会で消費者に消費活動を続けさせるために、企業やマスメディアは「（財の）生産の増加には限界があるが、欲求の増加には限界がない(p73)」ということを逆手にとって、消費者に対して新しいイメージを作り続ける。個人は「差異化への（無限の）欲求」から、常に他者との差異を求める（現実否定をする）傾向にあり、次々と作られるイメージを追いかけていく。ここから「欲求のシステムは生産のシステムの産物である」という命題が導き出される。欲求のシステムは産業システムの歴史の中で徐々に積み重なってきたものであり、個人はそれに組み込まれ従属させられているのであって、生産を止めれば欲求は生じないという単純な仕組みは成り立たない。　ガルブレイスおよびボードリヤール、両者とも消費活動において「個人に主権や自由はない」としているのであるが、ガルブレイスの場合は、「人間の本性」によって個人は「調和のある」満足を目指すとし、消費活動を個人的満足としての消費、つまり個人的活動であると捉えている。つまり、主権は結局「個人」側にあるという矛盾した結論に陥っているのである。そこで、ボードリヤールは「差異や地位などの一切の社会的考察」を導入することで、個人を「社会的存在（価値において他者に対して相対的である存在）」として捉えた。そして、個人は社会というシステムに組み込まれ、そのシステム自体への維持、拡大、再生産のために奉仕しており、消費活動は、社会に組み込まれた「欠乏感」、「差異化への欲求」から起こる社会的活動であるとした。

＜ガルブレイスの主張に関する参考個所＞
p89　L7?11
「ガルブレイスがいいたいのは、生産至上主義のシステムがなければ多くの欲求は存在しないだろうということである。一定の財やサーヴィスを生産することによって企業は同時にそれらを受け入れさせるためのあらゆる提案や手段を生み出し、したがって結局それらの財やサーヴィスに対応する欲求を『生産する』」
p89　L11?13
「欲求は完成されたモノとの関係においてあらかじめ狭く特殊化していて、あれこれのモノに対応する欲求しか存在しえず、消費者の心理は所詮ショーウィンドウやカタログのようなものにすぎない」
p87　L2?4
「ガルブレイスにとって、個人のもろもろの欲求は安定化可能である。人間の本性には何かしら経済的原則のようなものが存在していて、『人為的アクセル』の作用がなかったなら人間の目的や欲求および努力にさえ限界を設定するだろうというわけだ。」

p87　L4?6
「そこには最大の満足ではなくて、個人の領域でのバランスのとれた『調和ある』満足をめざす傾向が存在する」

＜ボードリヤールの主張に関する参考個所＞
p73　L10-16
「欲求の増加と生産の増加とを比較すると、差異化という決定的な媒介的変数の存在が明らかになる。ところで、生産の増加には限界があるが、欲求の増加には限界がない。社会的存在（つまり意味の生産者であり、価値において他者に対して相対的である存在）としての人間の欲求には限度がないのである。食物の摂取量には限りがあり消化器官の活動にも限りがあるが、食物に関する文化システムは無限でありどちらかといえば偶然的である。」
ｐ88　L18?p89　L2
「ガルブレイスに欠落しているのは差異や地位等の一切の社会学的考察であって、あらゆる欲求は記号と差別の客観的社会的要求にしたがって再組織されることになるという社会学的考察なのだ。」
p90　L4?7
「欲求のシステムとは、欲求がモノに応じて個別に生まれるのではなく、消費力として、生産力のより一般的な枠内での全面的処分力として生産される現象のことであって、テクノストラクチュアはこの意味において自己の支配力を拡大するということができる。」
p90　L7?9
「生産の秩序は享受の秩序（正確にいえばこの言葉は以下に述べる意味で正しくない）を自己の利益のために『横取り』するのではなく、享受の秩序を否定し、すべてを生産力のシステムに再組織することによって、これに取ってかわるのである。」
p91　L1?3
「システムとしての欲求もまた享受と満足とは根本的に異なっている。これらの欲求はシステムの要素として生み出されるのであり、個人とモノとの関係として生み出されるものではない」
p91　L12?14
「個別に切り離された欲求は無に等しく、欲求のシステムのみが存在するのだということを、あるいはむしろ欲求は個人の水準での生産力の合理的システム化のより進歩した形態（その場合『消費』は生産の論理的かつ必然的中継地点となる）にほかならない」

５．（現代社会において）消費の「機能」、「構造」および「体系」とはどのようなものか述べよ。 (p96-97)
引用
「機能(function)」
「〔p96〕…モノの集まりを貫く利害関心という個人的機能ではなくて、記号の集まりを通しての諸価値の交換・伝達・分配という直接的に社会的な機能である。」
「消費は享受の機能ではなくて、生産の機能であって、それゆえモノの生産とまったく同じように個人的ではなくて直接的かつ全面的に集団的な機能だと考えるのが消費についての正しい見解である。」
「構造(structure)」
「(p98)財や差異化された記号としてのモノの流通・購買・取得は今日ではわれわれの言語活動でありコードであって、それによって社会全体が伝達しあい語り合っている。これが消費の構造でありその言語（ラング）である。」
「〔p108〕消費の構造は非常に流動的であると同時に閉鎖的である。」
「体系（system）」
「(p97)消費の体系は最終的には欲求と享受に基づくのではなくて、記号(記号としてのモノ)と差異のコードに基づいている。」
〔解答〕
消費の「機能」
　機能主義とは、個々の要素がどのような関係性を持ち、個々がどのような影響を与え受けているかを示す「機能」によって、ある現象を明らかにするものである。
　消費を機能主義的なアプローチで考えた場合、個々の要素は様々あるが、主役はやはり各消費者である。その要素間でのベクトルを言語化（時に計量化）するのだが、単に機能主義的なアプローチだけであると、消費の行為が消費者自身からそのベクトルが発することなる。ボードリヤールは消費は社会的機能だといっているが、これをいうためには機能主義だけでは不十分である。これにつけ加えて、社会全体を分析する構造主義の視点が必要である。構造ー機能主義によってこの命題はたてられる。
消費の「構造」
構造主義とは、綿々と続く歴史的継続をもつ社会全体のうちからある時点のみを切り出し、その切れとられた断面を分析するものである。そのため、個々の歴史的要因を排除し、純粋にその社会という枠のなかを言語化によりあきらかにしようとするものである。（レヴィ＝ストロースはこれによって、神話を解明しようとした。）
そして、消費の構造とは、第一のレベルでコミュニケーションと交換の構造とし、第二のレベルで社会的差異化の構造としている。
消費の「システム」
　システムが構造と異なるのは、構造が時間的な要素をまったく排除するのに対して、システムは時間的要素を考慮してある時点の構造と別の時点の構造とを比較し、その変化を分析の重点に置く点にある。特に、消費のシステムについて、消費社会以前の生産の秩序と享受の秩序から、生産のシステムとそれによって生み出される欲求のシステムへ、移ったとしている。これを、「（ｐ９０）消費の系譜」と呼んでいる。
　また、消費のシステムに特徴的なのは、やはり量的な意味で自己増殖するということであろう。まるで、ガン細胞が体内において際限なく増殖することによって最終的には体自体が死をむかえるように、消費のシステムは際限なくそのなかで自己分裂を起こし、最終的には病から死に至るのかもしれない。

６．「自分を個性的なものとする行為においてさえも個々人が自分を順応させる一般的モデルとひとつのコードに従って行われる。(p119)」とはどういう意味ですか。説明してください。
引用
「(p97)人々はコード化された価値の生産と交換の普遍的システムに入り込み、すべての消費者は知らないうちにこのシステムのなかで互いに巻き込みあっているからである。」
「（ｐ１１１）社会全体が２人を切りなはしているけれど、差異化と個性化という同じ強制が２人を結びつける。一方が＜　＞なら他方は＜非　＞だが、「個性的」価値の図式は両方にとって、そして我々にとっても同一である。」
「(p112)このように自分のことを「幾重にも重ねあわす」定式（自分で自分自身を個性化する…！）… それは個性が存在しないこと〔誰もいないこと〕という事実にほかならない。」
「かけがえのない特質と特別な重みをもった絶対的価値としての「個性」（この概念を、ヨーロッパの伝統は情熱と意志と特性あるいは平凡さをもった主体を創造する神話として鍛え上げたのだった、）、そんな個性は存在せず、すでに死滅してわれわれの機能的世界から放り出されてしまった。」
「…記号の力によって抽象的な形で復活しようとしているのはこの失われた存在であり、それは総合的な個性を再創造し、結局はもっとも完全な無名性のうちに砕け散る。」
「(p113)差異があるひとの個人的特徴を意味せずに、逆にコードへの彼の服属、諸価値の流動的階梯への組み込みを示すものだからである。」
「(p114)産業の独占的集中は人々の間の現実的差異を無くし、個性と生産物を均質化し、こうして同時に差異化の支配への道を開くことになった。…差異への崇拝はもろもろの差異の喪失の上に成り立つのである。」
「(p114)独占の名のもとに非常に幅の広い均質性が生産と消費のさまざまな内容（財・生産物・サービス・関係・差異）を結び付けている。かっては別々だったこれらのものは、今日ではすべて同じ様式に従って生産されており、同じ仕方で消費されるべく運命付けられている。」
「(p120)順応とは地位の平等化や集団の意識的均質化（どの個人も一列に並ぶような）ではなくて、同じコードを共有すること、ある人々を他の集団の人々と区別する同じ記号を分かち合うことである。」
「(p120)システムがシステムとして成り立つのは、それが各個人の必然的に相違する固有の内容と存在を取り除き、差異表示記号として産業化と商業化が可能な示差的形態を代置するからにほかならない。」
「社会学的には、ここにあるのは集団の統合を固めるもろもろの差異の交換なのである。」
「（p121）現代における差異は、服装やイデオロギーや性の差異さえも、消費の巨大な連合体の中で互いに交換される。」
「彼らは「競争」によって集団に「協力」する。競争といっても、流行のコードによってろ過された遊び的な抽象的競争なのである。」

〔解答〕
衣服を例に考えてみる。
我々はなぜ必要以上の衣服を持っているのだろうか？それはさまざまな服を着ることによって、自身の＜個性＞を表現しようとしているからである。しかし、その＜個性＞とは本当に自分を特徴づけるものではない。もしそれが本来の個性であったならば、我々が街角で自分と全く同じ服を着た（同じ＜個性＞をもった）人に出会ったとき、アイデンティティを消失することになり、我々はひどく悩まされることになるだろう。つまり、われわれの求めている＜個性＞とは、　産業・商業システムによって絶えず生産される記号としての衣服（もちろんオーダーメードの服ではなく全ては既製服）を組み合わせたモノである。これが、「自分を個性的なものとする行為」に当たる。

　われわれはその記号としての衣服をうまく組み合わせるために、ファッション雑誌やＴＶの芸能人から、「一般的モデル」として衣服をまねてみせる。実際、まねようとしなくても消費をする時点でかならず何らかのモデルが提供されると言っても言い過ぎではない。なぜなら、産業的側面からして、そのモデルをメディア｛主に広告｝で流通させることによって、同一種の服の大量需要があり、それを大量生産することができ、機械化された工場で安価な服が製造でき、利益を得ることができる、という構造が成り立つからである。そして、一方でこのモデルにしたがって消費された服によって表現する＜個性＞は、必然的に同じような＜個性＞と出くわすことになる。しかし、ここで矛盾は生じない。それは、ほんのちょっとの差異と目にも鮮やかなカラーによって、＜個性＞が生じたことになる。もしその矛盾に気づきかけたとしても、逆に、制服を着たときに生まれるような集団の連帯感のおかげで、安堵を覚えるだろう。
　こうして、同時期に社会のなかに同じような服を着た人たちがいるという現象、すなわち流行（モード）が誕生する。さらに、この流行は、モデルチェンジの原則によって成り立っている。モデルチェンジによって、なんとなく新しさのイメージを喚起することによって、新しい需要をつくりだす（経済学者は潜在需要と呼ぶが）ことによって、別の流行の服を大量生産するのである。こうして、われわれのタンスには、身体的機能としての必要以上の服があふれかえることになる。

　この＜個性＞は本来の個性とはかけはなれたものであるけれども、けっしてわれわれ（大衆）はこの流行に踊らされる＜個性＞を信奉しないではいられない。なぜなら、流行からはずれてしまうことは、集団との帰属を確認できないことを意味するがゆえに、一種の不安を覚えることになる。結局、大衆は必然的に流行についていかざるをえない。
　「ひとつのコード」の例としては、ブランドという差異化記号がわかりやすい。我々はあるブランドのものをひとつ持ち得たとき、（それが高級なイメージを喚起するものならなおさら）同じブランドのついたものをもうひとつ持ちたいという思う。それは、無意識的な記号の連鎖になり、際限なくその欲求は増大する。そのようにして、ひとつの記号を必死で守ろうとするコレクターが生まれてくるのだろう。

７．消費とはどのように定義されていますか。（p120-121）
引用：
「〔ｐ40〕…支出の増加、余剰、儀礼的で無駄な「役に立たない出費」等は、個人的領域でも社会的領域でも、価値と差異と意味とを生産する場所となるだろう。この見通しの彼方に、消耗としての「消費」の定義が浮かび上がってくる－…」
「〔p46〕消費社会が存在するためにはモノが必要である。もっと正確にいえば、モノの破壊が必要である。…破壊は根本的に生産の対極であって、消費は両者の中間項でしかない。消費は自らを乗り越えて破壊に変容しようとする強い傾向をもっている。そして、この点においてこそ、消費は意味あるものとなるのである。」
「(p79)浪費のかわりに、われわれには「消費」がある。それは希少性の双子の姉妹である永久に強制された消費だ。」
「（p96‐97）…享受とは自立的で合目的的な自己目的としての消費を定義するはずのものであろう。ところが、消費とはけっしてそんなものではないのだ。…（そうした見解は消費についてのあらゆるイデオロギー的論議によって巧妙に仕組まれた消費者の幻想である。）」
「(p97)この（人々が無自覚的に普遍的システムに組み込まれているという）意味で、消費は、言語や未開人の親族体系と同じように意味作用の秩序なのである。」
「（p102）生産のセクターで19世紀に起こった生産力の合理化の過程が20世紀に入って消費のセクターでひとつの到達点に達するのであろう。労働力として大衆を社会化した産業システムはさらに前進して完成されねばならなかったし、消費力として彼らを社会化（つまりコントロール）しなければならなかった。」
「（p106）消費はひとつの社会的労働なのだ。消費者は（今日ではおそらく「生産」のレベルでと同様）このレベルにおいても、やはり労働者として必要とされ動員されている。」
「〔p121〕（一）消費はもはやモノの機能的な使用や所有ではない。（二）消費はもはや個人や集団の単なる権威づけの機能ではない。(三)消費はコミュニケーションと交換のシステムとして、絶えず発せられ受け取られ再生される記号のコードとして、つまり言語活動として定義される。」
「（Ｐ１２２）この装置の働きは、平等という装置とは反対に、諸個人を差異のシステムと記号のコードに組み込むことに他ならない。かくのごときものが文化であり言語活動であり、最も深い意味での「消費」なのである。」
「・・・それ（社会の有毒性を緩和するの）はむしろひとつのコードを、そしてこのコードのレベルでの競争的協同を無意識的に受け入れるよう諸個人を訓練することによってである。・・・人々をゲームの規則に参加させることによって、といってもよい。こうして、消費はそれだけであらゆるイデオロギーにとってかわることができ、・・・社会統合をひきうけることができるのである。」
（Ｐ１３０）＊注４「消費が限りない広がりをもつのは、もちろん第二のレベル（社会差異化のシステム）においてである。第一のレベル（コミュニケーションと交換）では、消費は言語と同一化できるが、この場合にはサービスの最終的な用具は（言語表徴のそれとまったく同じように）十分に存在している。言語は記号の両義性を持たないために自己増殖しない。この両義性は社会的ヒエラルキーおよび二重の同時規定にもとづいている。そのかわりに、言葉や文体はある種の水準は差別の自己増殖の場となることができる。」
「（ｐ３０４）消費の一般的過程では、魂も影も分身も鏡に映った像も失われてしまった。存在そのものの矛盾も、存在と外観の対立もない。記号の発信と受信があるばかりだ。そして個としての存在は記号の組み合わせと計算のなかで消滅する・・・消費的人間は自分自身の欲求と自分の労働の生産物を直視することもなければ、自分自身の像と向かい合うこともない。彼は自分で並べた記号の内部に存在するものである。」
「（ｐ３０６）消費はひとつの神話である。・・・消費に関する唯一の客観的現実は消費という観念だけである。」

〔解答〕
経済学者にとっての「消費」
　経済学において「消費」とは、生産の対極にあるものであるとされる。なぜならば、生産が供給に、消費が需要に対応することによって、経済学者はあの経済の根本的原則である「需要・供給の曲線」を描くことができるのである。その原理を守るためには、消費者が商品を自由に選びとる合理的存在として定義しなければならなかったのである。
　ボードリヤールが、経済学の効用を否定するのも、経済学の大家であるガルブレイスを論破するのも、現在蔓延している経済学による「消費」の定義を打ち砕くためなのである。

ボードリヤールにとって消費（記号論的分析）
1.消費はもはやモノの機能的な使用や所有ではない。
（経済学者にとっての「消費」を否定）
2.消費はもはや個人や集団の単なる権威づけの機能ではない。
（社会心理学者または社会学者にとっての「消費」は限定的）
3.消費はコミュニケーションと交換のシステムとして、絶えず発せられ受け取られ再生される記号のコードとして、つまり言語活動として定義される。

一言で言えば、消費は言語活動である。われわれは言語活動を行うとき、それが個人的な行為であると思っている。しかし、社会の枠組みのなかで個人の発する言葉を理解するとき、いかなる言葉もその社会によって規定される言語体系からはみだすものではない。（もしはみ出すとしたら、それは言語ではなくなる。）これと同じように、消費も個人的な行為ではなく、ある体系にもとづいた社会的な行為である。その体系とはこの本全体で描かれる消費社会のシステムである。別の言葉で表すなら、消費とは、差異のシステムと記号のコードに組み込まれた「社会的労働」である。
　われわれは日常生活のあらゆる場面（たとえｔｖを見ているときでさえも）で、この消費を無自覚的に行っている。消費社会においてすべての消費者はこの潜在的な強制労働から解放されることはない。

消費は定義してはいけない。なぜなら、それは観念であるからだ。われわれが「消費」について良くも悪くも語られるとき、すでにその語り自体が「消費」を生み出しているのである。消費社会を批判するときでさえも、その批判の土壌は消費社会であり、またその批判は「消費」を逆に均衡させるものとなる。まるで、それは神と悪魔が均衡を保っていたように・・・

ディスカッションQ
「（p286）よく知られているように、欲求のサイクルは、欲望のサイクルにとってはいったん入り込んだら、二度と外には出られない危険な場所なのである。」
「〔p103〕この意味では、客観的『進歩』なるものは存在しない（まして『革命』など存在するはずが無い）。」

第三部
最小共通文化＝消費社会の市民としての資格を得るために平均的消費者が所持すべきモノの最小限の共通パノプリ「セット」としての「スタンダード・パッケージ」
１．マスメディアの意味と機能を述べよ。（p175－176）
ｐ１７５
「それぞれのメッセージが別のメッセージを指示することが第一の機能である」
「メッセージの組織的羅列こそがメディアという言説の形態であり、メディア自身のメッセージとその意味なのである。しかしメディアが自分自身についてこのように説明しながら、世界の切り取りと解釈の全システムを押しつけている点を見逃してはならない。」
ｐ１７６
「メッセージの消費というメッセージである、つまり、世界の切り取り、スペクタクル化・否認というメッセージ、情報の商品化とその記号としての内容を礼讃するメッセージである。簡単に言えば、条件づけ（広告的な意味）と否認の機能なのだ」
ｐ１７７
「真のメッセージとは人間関係の深部で起こる（価値基準や階梯、モデル、型の）構造的変化のことである」
「テレビと現代的マスメディアの場合には、そこで受信され同化され「消費」されているのは、個別的なスペクタクルというよりはむしろ、あらゆることがスペクタクルになりうるという可能性なのである。」
「マスメディアの機能は世界が持っている現実に生きられた‐一回限りの‐出来事としての性格を中和（個性のもたないように均質化）し、互いに意味を補完し合い支持をしあう同質な各種のメディアからなる多元的な世界で現実の世界を置き換えてしまうことだ。」
→すべては同じメッセージになる→消費社会の全体主義的メッセージ
ｐ１７８
「メディア自身をメッセージとして押しつけている。我々が「消費する」のは、技術的であろうと同時に「伝説的」でもあるコードに従って、細分化され、濾化（透明にされる）され再解釈された世界の実体である。世界のすべての内容、文化全体は最終生産物として、起動の用具として産業的に処理されることとなる。そこからは、文化的であれ、政治的であれ出来事としての価値はすべて雲散霧消してしまっている」
ｐ１７９
「意味するものがみずから意味されるものとなる。」
「意味されるものも消滅と意味するものの同語反復である。」
「マスメディアのレベルでの組織的な消費の効果を規定するのだ、イメージを媒体として現実世界に向かうのでは無く、イメージが世界を回避して自分自身に戻るわけである。」
「イメージは出来事の（歴史的・社会的・政治的）独自性を認めようとも理解しないで、イデオロギー的構造であると同時に技術的構造でもある同一のコードに従って、すべての出来事を無差別を再解釈して人々に引き渡すという意味でも、出来事とはまったく別のものである。」
＜解説＞
　マスメディアの意味は、メッセージの組織羅列である。その一次的な機能は、それぞれのメッセージが別のメッセージを指示すること（メッセージの意味の補完性）であり、二次的な機能（これがもしかしたら本来の一次的な機能かもしれない）は、人間関係の深部で起こる構造的変化を促すことである。つまり、それはあらゆることがスペクタクルになりうるという可能性、すなわち、すべての一回限りの出来事（イメージ）を均質化し、そのイメージを再解釈しあたかもそれが現実であるかのように現実世界に対して実体化させる機能である。それは条件付けと否認の機能（記号的機能）と言われている。そこでは、すべての文化、歴史、政治的意味は持たず、性質の区別は無い。ここでは、メッセージを消費せよというメッセージしかない。記号の両義性の第二のタイプの混合（意味するものが意味されるものとなる）は消費を、マスメディアのレベルでの組織的な消費の効果を規定するのだ。そこではイメージが現実世界を回避してイメージとしてのイメージとしてスペクタクルめいたイメージとして自分自身に戻ってくる。

２．近代における「ガジェット」、「キッチュ」、「ポップ」の意味を考えて答えてください。
「キッチュ」について
ｐ１５２
「キッチュは特に擬似モノ、つまりシミュレーション、コビー、イミテーション、ステレオタイプとして、あるいは現実の意味作用の貧困、記号と萬意的指示とちぐはぐは共示作用の過剰、ディテール礼讃が飽和状態に達した段階などとして定義できるだろう。」
「キッチュの反益はあらゆる領域から借用した差異表示記号の産業的生産による多様化とモノのレベルでの俗化（大衆化）から生み出されたし、「できあいの」記号の無秩序な競り売りの結果でもあるが、この現象は、「大衆文化」同様、消費社会の社会学的現実を基盤としている。消費社会、それは地位移動の可能な流動的社会である。」
ｐ１５２～１５３
「キッチュは貴重で珍しいモノ、ひとつしかないモノの価値を高める」
「キッチュの差異表示価値は貧弱なものだが、この貧弱な価値は総計的に最大の利益をもたらす力を持っており、どの階級の人びとも手に入れることができる。」
「あらゆるモノは、それぞれが統計的に見てどの程度入手しやすいか、絶対駿河どの程度限られているかによって、価値の順位を決定されることになる。」
「キッチュは水増し的に拡大し、増加するが、これに対して社会階梯の頂点では、「階級的」高級品は質の面で数を減らしてゆき、希少化することによって更新される」
ｐ１５４
「キッチュはシミュレーションとしての美学を生み出す」
「キッチュは技術面からみるとガジェットの同類であることがわかる。」
「キッチュは階級的願望、階級上昇への予感、上流階級文化への魔術的同化を表現する」

＜解答＞
　キッチュはさまざまなレベルでの擬似モノであり、それは差異表示記号の産業的生産による多様化とモノのレベルの俗化、大衆文化から生まれた。またキッチュは地位移動の可能な流動文化にのみ存在した。なぜならこのキッチュの歴史的形成過程は、まずルネッサンスや１７世紀のブルジョワーの台頭とともに気取りの精神とバロック様式が出現する所から始まるからだ。その頃は社会的圧力と上層初回急が混ざりあうという状況下でこのキッチュが出現する準備段階と言って良いであろう。そしてついに１９世紀末のデパートの出現によってそれは絶頂期を向かえる。（ｐ１５３L１２～L１８）次に、キッチュの性質の観点からいくと、キッチュはまず差異表示価値の貧弱さゆえに、稀少価値の高いものに対しての価値を高める。しかし、あらゆるモノは統計的な入手率（どの程度入手しやすいか）と絶対数の限界数（どの程度限られているか）によって価値の順位を決定されるので、キッチュは絶対数の限界数という稀少さの側面からして価値の順位を下げざる終えない。キッチュは無数にあるからである。これがキッチュの無限増殖の論理であり、価値の順位が高いものの質の面で数が減る論理である。このような派生的機能によってきキッチュはシミュレーションの美学生み出す。これは大小の複製を作ったり、素材を製造したり、ある形をわざと無器用に真似てみたり、ちぐはぐなものを組み合わせて流行を反復する。
つまり、この意味において、キッチュは技術的にガジェットの同類である。またそれは差異表示機能の魔術的同化（同化したように感じる）を表現している。これは例えば、好きなミュージシャンと同じ格好をすることである。

「ガジェット」について
ｐ１５５
「消費対象とは～を認めるなら、ガジェットこそは消費社会におけるモノの真の姿なのである。それゆえ、すべてのモノはガジェットになりうるし、潜在的にはガジェットであるといってよい。」
→潜在的無用性と遊び的な組み合わせによる価値を持つモノ
ｐ１５８
「ガジェットの方は、日常生活を見世物じみたものにしてしまう体系的論理の一部であって、その結果この論理は、モノの環境、ひいては人間的、社会的環境全体に人工的性格やトリック性や無用性を付け加えるのだ。」
「ガジェット自体の価値は貧弱である。流行の産物であり、人々を他のモノに向かわせるための人為的アクセルとも言えるガジェットは、ひとつの回路に組み込まれたことになる。そこでは、有用性と象徴性が一種の組み合わせ的無用性に溶解する」
「ガジェットの組み合わせによる「ニュールック」に新しさの礼讃が対立することもある。」
ｐ１５９L6
「モノ、財、関係、サーヴィスなどがすべてジェットとなる限りにおいて、遊び性は現代人の固定的な日常生活の基調低音となる。」
「（遊び性という特殊なタイプの投資は）モノを技術的に変化させてみたり、モノも技術的可能性と戯れること、ゲームの規則を新規につくりなおして遊ぶこと、人間の運命的な組み合わせである性と死の組み合わせを壊して遊ぶことである。」
ｐ１６０
「遊び的好奇心は諸要素の戯れへの関心（たとえ激しくても）にすぎない。」
「消費とは組み合わせ遊びへの熱中のことであって熱中とは両立しえないのである。」

＜解答＞
　消費社会においてすべてのモノが（遊び性）と機能的無用性として消費される意味において、すべてのものはガジェットであり、これが真のモノの姿である。ガジェット自身の価値は非常に弱いが、モノ、人間、社会環境全体に人工的性格、トリック性、無用を付け加える。厳密に言えば、ガジェットはモノの有用性と象徴性というものをいっしょに統合する。そこに新しい統合物を作る。しかし、この新しい統合物にその新しさの礼讃（新しいモノを崇拝すること）が対立する場合もある。本来ガジェットはモノの使用価値（有用性）と象徴的機能を消滅させるはずなのだが、新しい統合物（スペクタクル）を作ることによって、その新しさゆえに逆にそれが魅力的になる場合もある。それは消費の逆の論理である。我々の周りのモノ、財、関係、サーヴィスなどがすべてガジェットになる限りにおいて遊び性は日常生活のどこにでもはびこる。ここでの遊び性とは、さまざまなゲームなどにおいて、モノを組み合わせ変化させるのを楽しむことである。これに夢中になるという気持ちは情熱というようなものではない。それは遊び的好奇心というさまざまなものへの単なる関心でしかない。それはゲームセンターに集まる人やそれを見物するやじ馬によく見られる。だから、消費とは情熱と相反するものであり、組み合わせ遊びへの熱中のことである。

「ポップ」について
３．「性の開放」「肉体の開放」とは何ですか。また、近代における「健康」の役割、「余暇」の役割とは何ですか。考えて来てください。（p187－204）
※ピューリタン＝(Puritans) 16世紀後半、エリザベス朝時代に、イングランド国教会に残っていたカトリック的要素にあきたらず、カルヴァン主義の立場から信仰と生活の清純を保とうとした人びと。長老派・独立組合教会派・バプテスト派などを含む。その一部は17世紀前半にニュー‐イングランド植民地に移住。ピューリタン。極端に謹厳・潔癖な人
「肉体の開放」について
ｐ１８７
「肉体を取り巻く～肉体にまつわる快楽の神話―これらすべては今日で肉体が救済の対象となったことをしめしている。救済という道徳的イデオロギー的機能において、肉体は文字通り霊魂にとってかわったのである。」
「肉体がどんな地位をしめているかということは、ひとつの文化的事実なのである。」
ｐ１８８
「現代の生産＝消費の構造が人々のうちに、自己の肉体から分離した表象に結びついた二重の扱いを誘い出すこと、つまり、資本として、物心（消費対象）として肉体を扱うことである。～むしろ意図的に（経済的に）投資され、同時に（心理的な意味において）物心崇拝されている」
ｐ１８９
「かつては「魂が肉体を包んでいた」が今や肌（記号や流行の準拠）が肉体を包んでいる。」
ｐ１９０
「これらの場合（肉体への日々の勤めを行わず、怠慢の罪を犯すなら、あなたは罰せられるであろうという場合）はあなたを罰するのはもはや神では無く、あなた自身の肉体―不吉で抑圧的で、あなたがやさしくしてやらないと仕返しをするような肉体―である」
「この言説は～主体である人間と彼を脅かす分身として客体化された肉体との間に再び導入する。つまり、脅迫や抑圧や被害妄想的症候や夫婦生活に伴うノイローゼなどを持ち込む」
「自分の肉体に熱中し、「内側から」自己陶酔的に肉体に執着せよという提案である。～むしろフェティズムと見世物の論理に従って、～機能的なモノとして外側に向けて作りあげる～」
ｐ１９１
「心理的な意味で所有され操作され消費されるモノのうちで、肉体はもっとも美しいモノだというだけのことである。」
「人間開放と自己完成の神秘的手段としてもてはやされているこの自己陶酔的な肉体への熱中が、実は同時に他人との競争に勝つという意味でも経済的にも有効な投資となっているという事実なのである。」
「肉体はひとつの資産として管理・整備され、社会的地位を表示するさまざまな記号の形式のひとつとして操作されるわけである。」
ｐ１９２
「この肉体を神聖化するために長いプロセスにおいては、美しさとエロティシズムが二台ライトモチーフになる。」
P１９３
「プロテスタンティズムの倫理ではないか。そういえば、うつくしくあることがこれほど絶対的な至上命令なのは、それが、資本の一形態だからである。」
「美の倫理とは流行の倫理にほかならず、肉体のあらゆる具体的価値、つまり、エネルギー的・動作的・性的「使用価値」を唯一の機能的「交換価値」に還元することと定義できる。」
ｐ１９４
「今日いたるところで肉体の「再発見」と消費を方向づけているのは性欲である。自己陶酔的執着というたどり道をとって、肉体を開発せよという美しさの至上命令は、性欲の開発としてエロティシズムをもたらすことになる。」
「衝動や幻想としての肉体を支配するのは、欲望の個別的構造だが、「エロティック」な肉体を支配するのは、交換の社会的機能である。」
ｐ１９５
「エロティシズムが記号のうちに存在し、決して欲望のうちに存在しないように、ファッション・モデルたちのー機能的な雨滴うつくしさも「体の線」にやどっているのであって、決して表情にやどっているのではない。彼女たちのうつくしさはとりわけ無表情の美しさである。」
ｐ１９６
「どんなにつまらないモノでも女性の肉体＝モノのモデルにしたがってひそかに執着される場合には、やはり、フェティズムの対象となる」
「肉体とモノは一体となって～これらの記号は～抽象化作用にもとづいて意味を交換し合い、互いに相手の価値を高めあう」
「現代では、エロティシズムと肉体の美学がすべての領域での洗練された雰囲気づくりを口実に増加する～」
ｐ１９７「肉体、美しさ、エロティシズム、それらには売上を増やす力がある。これらは「肉体の開放」の全歴史的過程を決定的に方向づける要因としてすくなからぬ重要な事実がある。労働力についても同じことが言える。生産性向上のために合理的に搾取されるには、肉体があらゆる束縛から「解放」されなければならない。」
「欲望の力が合理的操作の可能な記号としてのモノの需要に変えられるためには、個人は自分の肉体を再発見し、自分の肉体に自己陶酔的に熱中する必要がある。（形式的快感原則）
「解体された肉体と分断された性欲のレベルで収益をあげるという経済的過程が確立されるためには、個人が自分自身をひとつのもモノ、それとももっとも美しいモノ、もっとも貴重な交換材料とみたす必要がある。」
ｐ１９９
「肉体崇拝はもはや霊魂崇拝と矛盾しないばかりか、霊魂崇拝の果たしていたイデオロギー的機能を継承しているのだ。」
「それは個人主義と価値体系と社会構造を強化し、それらのゆるぎない基盤となる。なぜなら霊魂の超越性が肉体の全面的な内在性と自然発生的明証で置き換えられるからである。」
ｐ２００
「肉体はひとつの観念である」「部分的に実体化されたモノ、特権的な分身」
「肉体は自己の対象化の特権的狙い手、すなわち、消費の倫理を導く神話となった」

＜解説＞
　長い間続いたピューリタニズムの時代ののちに、肉体と性の開放が標榜して肉体の再発見が行われた、人間と肉体との関係を決定する様式は、どの文化においても人間とモノとの関係や社会的関係を決定する様式を反映している。例えば、資本主義においては、肉体そのものと肉体を利用した社会的活動や精神的表象は、私有財産一般と同じ地位が与えられる。つまり、資本として肉体を扱ってしまうことになる。このような時代的背景の中で肉体とは物神崇拝される対象となり、再発見しなければならない状況となった。
またさらにマスメディアによる社会的要請が、今度は逆に肉体へ内側から自己陶酔的に執着せよと促す、これは肉体を物質化し、フェティズムと見世物の論理に従って、完璧で機能的なモノ、操作しやすいモノとして肉体を作らせるためである。これを怠ると自分自身が自分自身を痛めつけるという暗示によってさらに強制される。この「きづかい」の過程によって人は消費されるモノの中で人は肉体がもっとも美しいモノだという多重的暗示にかかる。こうして肉体は他人との競争に勝つ、利潤を生む、社会的地位を表示するなどのさまざまな意味において、経済的に有効な投資となった。

　肉体を性質の面から眺めると肉体を神聖化するには美しさとエロティシズムがメインとなる。生産システムにおいて、この二つの概念は男性的モデルと女性的モデルにわけられる。二つの基本的なものは同じであり、それは交換可能である。しかし、やはり男性的モデルでは体の形と社会的成功が強調され、女性的モデルは美しさと魅惑に重点が置かれている。これによって美しさは女性の絶対的で宗教的ともいえる至上命令となる。それは神による選抜と救済の印であり、この意味で美しさはプロテスタンティズムの倫理（選民主義・禁欲主義）といえる。そういう意味で、資本の一形態となる。そうなると（マスメディアによる）美の倫理は流行の倫理にであり、肉体の具体的価値（エネルギー的・動作的・性的「使用価値」）を機能的「交換価値」にとって代える。

　この肉体を開発せよという美しさの至上命令は性の開発としてのエロティシズムをもたらす。ここでの性（欲）とは肉体の「再発見」と消費を方向づけるものである。衝動や幻想としての肉体を支配するのは欲望の個別的構造であるが、エロティックな肉体を支配するのは、交換の社会的機能である。エロティックというものには、まずその雰囲気があり、その後、計算された性的意味作用というもの付与される。例えば、雑誌におけるセクシーな女性モデルを思い出してほしい。彼女たちは一見、我々に対して温かく微笑みかけているが、しかしそれは私たちへの微笑みではなく、私達の欲求への語りかけである。だからエロティシズムは記号の内にのみ存在し、決して欲望のうちには存在しない。モデル達の機能的美しさも「体の線」に宿っているのであって、決して表情に宿っているのではない。その美しさは無表情な美しさ（機能的美しさ）である。しかし、逆に、この図式に従うとどんなつまらないモノでもフェティズムの対象となる。これによってエロティシズムは消費の全領域に浸透し、肉体とモノが一体となって価値を高かめあうという相同性を有する。

　これまでの分析によって次のことが言える。肉体、美しさ、エロティズムには売上効果があり、それは「肉体の解放」の全歴史的過程を決定的に方向付ける、重大な一要因となっている。特に労働力においては、生産性向上のために合理的に搾取されるには、肉体があらゆる束縛から「解放」されなければならない。労働者の個人的自由の形式的原則が保証されなければならないと同じように、欲望の力が合理的操作可能な記号としてのモノの需要に換えられるためには、個人は自分の肉体を再発見し、自分の肉体に自己倒錯的に熱中し、自分自身を一つのモノ、最も美しいモノ、最も貴重な交換材料とみなす必要がある。その段階において、肉体と性欲のレベルで収益をあげるという経済的過程が確立する。

　肉体の「発見」は神に対抗して人間性をめざすものだったが、今日では再び神聖化されかねない有様であり、肉体はもはや霊魂崇拝の果たしていたイデオロギー的機能を継承している。この時代遅れとなった霊魂のイデオロギーは発達した生産至上主義のシステムに合わず、社会のイデオロギー的統合を保証し得ないイデオロギーになったからである。また、肉体崇拝はそれに時代に即した、機能的なイデオロギー（個人主義の価値体系と社会構造の強化）が取って代わったに過ぎない。しかし、現代で現われている肉体は霊魂以上に物質的では無い。なぜなら現代における肉体とは、部分的に実体化されたモノ、特権的な分身、いや、一つの観念である。この最終段階で、肉体は自己の対象化の特権的担い手、つまり、消費の倫理を導く神話となった。

「性の解放」について
ｐ２００
「あの大いなる美的＝扇情的神話を組織するのは女性の方なのである。いや、むしろこの神話は女性の肉体の上で作られるべきである。」
ｐ２０１
「この道徳的、性的意味での断罪を全面的に支えているのは、社会的奴隷の機構である~西欧世界の全史を通じて、女性と肉体は同じ奴隷と追放を経験したのである。女性の性的規定は歴史的なものだ。」
「女性と肉体が奴隷状態におかれているという点では、共通しているように、女性の解放と肉体の解放は論理的にも歴史的にも緊密に結びついている。」
「女性と性そのものとの根本的なイデオロギー的混同が少しも除去されない～ピューリタンニズムの束縛が大きな障害となっているのだ。」
ｐ２０２
「女性の「解放」が進むにつれて、女性が自分自身を自分の肉体そのものと取り違える傾向がますます激しくなるからである。」
「彼等を解放することが現代の民主主義社会のライトモチーフとなっているあらゆる社会階層についてもいえるのであって、彼等の解放の旗印であるフリーセックス、エロティシズム、ギャンブルなどはすべて「後見つけの」価値体系を自称している。」
「若者イコール反抗～つまり、社会全体に散らばっている反抗を（若者）という特定の範疇に割り当てることによって無力化し、この特定の人々を反抗という特殊な役割の内に閉じ込めることによって骨抜きにしてしまうのだ。」
ｐ２０３
「女性と性の解放とを混同することで、既成秩序は両者の真の欲求を相殺する。女性は性の解放を通じて自らを消費し、性の解放もやはり女性を通じて自らを消費するのである。」
「この具体的ではあるが、相対的なものにすぎない解放（それは機能的働きに直接結びついた範疇としての女性と若者と肉体の解放でしかにのだから）が神話的超越性を伴うこと、というよりはむしろ神話的超越性、すなわち、神話としての対象化（モノ化）を分身としてうみおとす～」
「女性とその肉体の理念のうちに性の解放に伴う社会的危険をまた性の解放の理念（あるいはエロティシズム）のうちに女性の解放に伴う危険を封じ込め、その上で女性をモノにすることによって現実の女性達の社会的解放に伴う一切の危険を遠ざけるというものである。」
ｐ２１３
「消費されているものはすべて性的色彩を帯びている。性そのものが同時に消費の対象となっている」
「性は生産と限界差異化の果てしない過程に決定的に引き込まれたことになる。なぜなら性をエロスのシステムとして消費の個人的・集団的機能として「解放」したのは、生産システムの倫理そのものなのだから。」
「性的堕落は革命的なものであり、~イタリアルネッサンスがそうであった、このような意味では、性は祭りの印であった、ところが、ある社会が衰退に向かうときには、こうした性ではなく性の亡霊にすぎないものが死のしるしとして姿をあらわす。」

「過去に切り離され~未来への想像力もうしなってしまった～社会的関係の同様、つまり、経済的世界の環境そのものになっている不安的な結合と激烈な競争が人々の神経と感覚を直接揺る動かすので、性は社会的統一と集団昂揚の原因であることをやめて気違いじみた個人的利潤追求の場となる。性は強迫観念となって人々につきまとい、彼等をバラバラに切り離してしまう。しかも特徴的なのは、性が他ならぬ性そのものに対して不安を抱くようになることである。～性を圧迫するのは～ピューリタンニズム的感情であって、公的な規範や禁忌とともに徐々に姿を消しつつある。～性の解放に制裁を加えるのは抑圧の個人的審級、いわば内面化された検閲である。検閲はもはや～個人的無意識の中に飛び込み～性に関しては公然たる抑圧は、もはや存在せず、自己検閲が日常生活の一機能となったのである。」

「性が私的関心事となるような集団的「雰囲気」をかもしだす～この雰囲気の中では、性は自分自身を鋭く意識し、自分にうっとりもしうんざりもするわけだが、これこそは性が風俗を通じて作りあげたシステム、性をひとつの政治的そうちとして利用するシステムのイデオロギーにほかならない」
ｐ２１６
「我々の社会が性に対して神経過敏になっているために生まれた検閲は非常に巧妙で幻覚そのものと象徴的機能レベルで作用している。」
「彼等は無意識と幻覚とを重ね合わせ、個別的機能とステレオタイプ化された無意識と広告代理店によって完成品の形で引き渡される幻覚とを結びつける。つまり、無意識と幻覚とを記号の意味作用と有効性に関する機械的過程の中で大げさに目立たせることによって、無意識と象徴機能の論理が定義する本質的な問題をすべて回避してしまう。」
ｐ２１９
「魔法幻燈の画面にすぎないものを幻覚と思わせ、偽りの象徴機能を通じて人々をかれたの個人的無意識という神話の罠に陥れ、彼らにこの無意識を消費機能として投資させようと努める神話である。」
「我々を取り巻く扇情的用具が完全に教養化されている～それは～雰囲気作りのための用具であり、～そこで我々に語りかけるのは、一つの文化、それも月並みで陳腐になった無内容な精神分析的サブカルチャーなのである。第二のレベルでの萬話化、つまり、アレゴリーである。だからそこで語るのはエスではない。エスは～教養化・マスメディア化された精神分析の機能＝記号なのだ。」
「現代の広告とエロティシズムはすべて、意味によってではなく、記号によって作り上げられている」
ｐ２２０
「広告中のエロティックな表現のエスカレーション～こうしたエロティックな内容は唯一の真のメッセージである商標という超記号へとたどりつくように並べられた信号にすぎない。」
ｐ２２１
「こうした広告は統辞法を奪われ、バラバラに切り離された上できちんと整理された一連の記号を組み合わせるだけで満足しているだけであってこれらの記号はいかなる無意識的連想をも喚起せず（むしろ徹底的に遠ざけ）、「文化的」連想だけを呼び起こすだけにすぎない。~希望としての幻覚の化石化した集合体なのである。」
「広告を（大衆の情動操作）のかどで告発することは、広告を課題評価することになってひまう。」
「真の告発をないがしろにするという機能である。」
「その反対に象徴機能や明瞭に分節化された統辞法中に用いられた幻覚的表現など、要するに性的意味を持つものの生き生きした発言に対する検閲という、深い意味での検閲である。」
ｐ２２２
「偽装と復元の過程に支配される関係を表現するが、～リアリズム的かつ人為的な原料そのものであり、ここでは性が性器という「客観的」実在と混同されている。」
「真理」または「全体性」の人為的復元、すなわち分業と各機能の分担をあらかじめ前提としておいて全体性を組織的に復元することなのである。」
「全体的交換という象徴的機能をもつ全体としての性が解体され、性的記号の中にどじ込められた上で～個人に割り当てられる」
「性は全体的かつ象徴的交換の構造なのである。」
「性を性器のリアルで～性から象徴性を奪い去る」
「エロスをバラバラに切り離して、セックスを個人に、また個人をセックスに割り当てることによって性から交換性をうばいさる。～セックスが部分的機能となって私有財産としてひとりひとりに割り当てられている。」
「象徴的交換としての性、つまり、機能的分割を超越した全体的過程として性の否定である。」
ｐ２２４
「個人にとっての使用価値、交換価値」
「一種のリアリズムの形而上学にもとづく見せびらかし的な偽装を通して、検閲的行為が行われているのである。～現実的なるものとは物象化されたものであり、真なるものの対立概念であるとされている」

＜解説＞
女性はこれまでのところ不吉な性と混同され、断罪されてきた。それは社会的奴隷の機構によって支えられているからである。女性と肉体は同じ奴隷と追放を経験してきた。女性の性規定は歴史的なことである。肉体の抑圧と女性の搾取とは、搾取される社会層がすべて自動的に性的規定をうけるべきであるという共通の運命下におかれる。黒人が性的意味を付与されてるのもこのためである。彼等は奴隷として搾取されている。

　女性と肉体の解放は奴隷状態と同じように、論理的にも歴史的にも密接に結びついている。ただ女性と性の根本的なイデオロギーの混合がピューリタニズムの束縛が大きな障害となり、少しも除去されていない。また女性の「解放」が進むにつれて、女性が自分自身を自分の肉体そのものでしかないと認識する傾向が激しくなる。それは表面的な女性の解放が表面的な肉体においてのみ混同するからである。この人間解放の神話というべき、肉体、女性の解放というものが革命的な出来事であれば、そこに社会的危機が起こるはずであるが、しかし、社会は、例えば、若者＝反抗というイメージを若者につけることによって社会全体に散らばっている反抗を特定のカテゴリーに入れ、無力化する。つまり、記号または役割のシステムの形式的自律化にもとづくさまざまなレベルの個と集団における形式的自律化こそ消費の基本的メカニズムが入っている。このメカニズムによって相対的なものにすぎない解放において、神話が神話を対象化、つまり、モノ化するということを留意する必要がある。それは女性と肉体の理念の内に性の解放に伴う社会的危険性を相互補完的に相殺するようになるということである。
　この後、「性の爆発」「エロティシズムのエスカレーション」が消費社会に氾濫することになる。つまり、すべての消費されるものはすべて性的色彩を帯びていると同時に、性そのものが同時に消費の対象となっている。その中での性は生産と限界差異化の無限運動に組み込まれる。なぜなら性をエロスのシステムとして消費の個人的・集団的機能として「解放」したのは、生産システムの論理そのものなのだから。

　あらゆる種類の道徳的検閲（抑圧）を退けて、性的堕落に観点をうつそう。性的堕落というものは生命力の豊かさと解放の兆候となることを我々は認識できる。するとある社会が全盛期に達したときは、それは革命的なものであり、性は祭りの印になる。しかし、ある階級や社会が解体過程では、その構成員はバラバラに切り離され（孤独と不安）になり、やがて性が社会的統一と集団的昂揚の要因であることをやめ、気違いじみた個人的利潤追求になる。それは強迫観念でもある。そして性が性自身に対して不安を抱き始める。その状態になると公的な規範などは崩れ、すべては個人の抑圧、内面化された検閲になる。これのみ、もしくは性が私的関心事になるような集団的「雰囲気」しかこの性の解放とエロティシズムの促進後には無い。しかし、この中でこそ（この雰囲気の中でこそ）性を一つの政治的装置として利用するシステムのイデオロギーになる。

　性における検閲という観点の幻覚と象徴的機能を考えてみよう。我々の社会が性に対して神経過敏ゆえに検閲は、幻覚そのものと象徴的機能のレベルで作用している。それはフロイト的に言わせれば、無意識とは象徴と幻覚を糧とする人間の隠された本質であると言っているように、（例をあげれば）広告代理店は彼等の無意識と幻覚を重ね合わせ、個別的機能としてステレオタイプ化された無意識とその広告代理店による完成品の形で引き渡される幻覚とを結びつける。つまり、これは無意識と幻覚とを記号の意味作用と有効性に関する機械的過程の中で大げさに目立たせることによって、無意識と象徴機能の論路が提起する本質的な問題（検閲）をすべて回避してしまう。このようなことが進み、起こる中で我々は第二段階の神話にいることを気づくことができる。つまり、それは無意識が幻覚（広告の「扇情的」象徴機能）の中で客体化し、それが無意識の存在する根拠となり、無意識の神話の無限運動が始まる。しかし、この第二段階においては、無意識というものは存在しない。それは雰囲気づくりのための道具であるし、それは一つの文化（スペクタクル、統合物）としてそれは存在する。だからそこにおいてはエス（無意識）というものは文化システムの中で教養化、マスメディア化された精神分析の機能＝記号を提示するにすぎないものになる。

　広告におけるエロティックは表現のエスカレーションに視点を向けてみる。広告におけるエロティックな内容は商標という超記号を指すのみである。真の幻覚（あまりにもエロティックなメッセージが強いもの）は表現しがたい。なぜならそれはあまりに直視するにたえないものだからである。このような広告は、組み合わせの設計図を奪われ、バラバラになったものをただ寄せ集めるだけであって、無意識的連想を喚起せず、「文化的」連想を呼び起こすだけであり、それは記号としての幻覚の化石化した集合体なのである。この中では広告を非難することは広告を過大評価することになる。（なぜなら実際は何も意味を持たないのだから）これは真の告発（現代広告という魔法幻燈の背後で非常に有効に作用している検閲過程をそのものの徹底的分析）をないがしろにする機能である。であるから、この中における実際の広告の扇情的装置を通じて我々を真に条件づけてくれるものは、「隠された」説得や無意識的暗示では無くて、その反対に象徴機能や明瞭に分節化された統辞法中（組み合わせの設計図）に用いられた幻覚表現の内部構造を見ることができる。つまり、それは性的意味を持つものの生き生きとした発現に対する検閲（抑圧）すなわち、普段なら広告において、性的意味を持つものは生き生きと発言しているのであるが、設計図の崩壊によってそれは検閲を受けることになる。それは深い意味でも検閲である。

　最後に性の具現化ということに視点を向けて見よう。新しい人形（性器つき人形）は消費社会における性に対する我々の関係の一般的性格、すなわち、偽装と復元の過程に支配される関係を表現する。この過程の原則はリアリズム的かつ人為的な眩量そのものであり、ここでは性が性器という「客観的」実在と混同されている。これと同じように性に対する我々の関係は、「真理」または「全体性」の人為的復元、すなわち、分業と各機能と分担をあらかじめ前提としておいて全体性を組織的に復元することである。例えば、性器人形を例に取ると、人間の性器というものを具現化し偽装させることによって、人形というものに復元することである。その中では、性が本来の持つ全体的交換という象徴的機能をもつ全体性としての性が解体され、性的記号の中に入れられ、私有物、属性として個人に割り当てられる。ここにおいては、１．性を性器のリアルで露骨で見世物的な意味作用と「性的欲求」で置き換えることによって、性から象徴性を奪い取る。２．エロスをバラバラに切り離し、セックスを個人に、また個人をセックスに割り当てることによって、性から交換性を奪い取る。つまり、セックスは全体的では無く、部分的機能になって私有財産として無意識と同じ道を歩く。すなわち、ここでは、象徴的交換としての性、機能的分割を超越した全体的過程としての（いわば壊乱的な）性の否定の問題が上がってくる。この後、性は使用価値と交換価値（両方モノの概念の特性）の二重の図式に組み込まれ、切り離された機能として客観化される。１．個人にとっての使用価値（ここでは自分自身の性器や性的テクニックを通じて表れる使用価値―欲望では無く、技術と欲求が問題であるからだ。

２．交換価値（象徴的価値では無く、売春のような経済的、商業的交換価値、みせびらかし的記号価値、性に関する生活態度である）
　まとめると常に一種のリアリズムの形而上学的にもとづくみせびらかし的な偽装（性器つき人形と少女のブラジャー）を通して、検閲的行為が行われているのである。現実的なるものとは物象化されたものであり、真なるものの対立概念である。その後、記号を現実的なるものに追加しつつ、巧妙な人為的操作を加えるに従い、物象化された性の文化的形而上学への象徴の重荷を振り向けることで真実そのものを検閲する。こうしてすべてのものが、リビドーの力と象徴的機能を巧みに封じるために、人為的に性的意味を付与されようとしている。

スケジュールへ戻る