はじめに


 関西学院大学総合政策学部鎌田ゼミに学び、第1期生として卒業されるみなさんに、心からお祝いの言葉を申し上げたいと思います。

 このCD−ROM論集は、みなさんの卒業論文をはじめとして、ゼミのメンバーの最新作・最新の研究成果を収めたものです。総合政策学部、鎌田ゼミを巣立とうとするみなさんが過去4年間に何を得たのか、この論集を開くときに思い出してください。

 世界にはさまざまな事象と価値(意味づけ)のシステムがあり、また世界はそれらの多様なシステムの複合体として存在しています。しかし人間は、自分の属するシステムを絶対化し、それどころかあわよくば、絶対化されたシステムの制御者、支配者として、全社会・全世界を操作しようという誘惑にかられます。こうして人間は他の人々、他の存在を自己の操作対象とし、自らを環境世界から孤立化・孤独化させ、おのずから共生と共同性とを破壊してきたのです(近代市民社会の悲劇)。

 しかし悲劇を克服しようとして、自らが世界の偉大なる創造者となろうとすることの危険をも私たちは歴史の中に学びました。近代市民たちは、実際に戦争を起こしたり大量虐殺を行う「独裁者」とはならなくても、自由の神話化に支えられた盲目な自己主張・自己実現の意志によって、本質的に「独裁者」となる素地を持っている危険集団なのであり、それがまた近代市民社会の経済的・技術的成功と同時に自然・人間環境の急激な破壊の原動力でもあったのです。

 みなさんは、この4年間、世界について考える時を与えられました。みなさんに残された時間(それは人によって長さや質に大きな違いがあるでしょう)のなかで、再びそのような機会を見いだすことは少ないと思います。いな、むしろみなさんは、今後(世界についての反省=学問を職業として選択するという特殊なケースを除いて)そのような形で世界について考える必要がないことを切に祈っております。

 私は鎌田ゼミを知的基礎体力のトレーニング施設として描きました。フィットネストレーニングはしかし自己目的ではありません。フィットネストレーニングのさまざまなパターンは、それがどんなに多様で魅力に富んでいても、そのまま実生活で使うことはありません。重要なのは、トレーニングによってやしなわれた「基礎体力」 − 鎌田ゼミに学ばれたみなさんは、それが「知的」体力だけではないこと、持久力や瞬発力を可能にするある種の (^^ゞ「肉体的」体力をも含んでいることを知っています− を与えられた状況で具体的に活かすことです。人前でフィットネストレーニングをパフォーマンスしてみせること(それはトレーナー=教育者としての大学教授の仕事です!)によってではなく、トレーニングによって得られた体力を別の(それと知られぬ)仕方で実践すること、ないしその能力の育成がトレーニングの存在意味なのです。そのような体力を養うために、鎌田ゼミのトレーニングプログラムは十分に厳しいものであったと思います。しかし同時に、それがみなさんの将来に多くの思い出と自信と勇気とを与えてくれる4年間であったことを願っております。
 このCD−ROM論集は、鎌田ゼミの1998年度までの決算報告書です。大学院開設とともに、ゼミのテーマである「人と人、人と自然の共生」への問いは、応用倫理学研究の領域を中心に更に深められてゆくでしょう。それらについては、これからもゼミのホームページに順次報告してゆきます。どうぞ時々鎌田ゼミホームページをお訪ねください。旧ゼミ生のためのCD−ROM論集のアップデートも計画されております。

 この論集の企画・作成にあたった99年度新ゼミ生万仲君、および(借金取りならぬ?)原稿取りの労にあたられた98年度4回生松原君・同3回生関戸君には、この場で感謝の意を表します。

                      鎌田 康男

 1999年3月