マックス・ウェーバー
『プロテスタンティズムの倫理と資本主義』 講義録



 マックス・ウェーバーは、19世紀半ばにドイツのチューリンゲンにおいて生まれたが、ここは、16世紀に宗教改革を行ったマルティン・ルターの生誕地でもあった。当時のドイツは、普仏戦争でビスマルクによって政治が行われ、資本主義への移行の時期であった。彼の性格は気難しく、鬱病でもあった。鬱病の療養のためにアメリカを旅行した後、彼はこの本を著したのであるが、これは多面的な彼のものの見方をよく表現しているものではないだろうか。また、社会学者としてウェーバーは理解社会学の立場をとった。行為には人間的行為と社会的行為の二種類があり、後者は他の人との関連性をもつ。彼はこの行為を把握する、つまり人間が社会に対して働きかける行為を読み解くことで、社会を記述しようとしたのである。そして価値からの自由と理念型(論理的モデル)を用いて社会を見たのであった。

 プロテスタンティズムはルターによる宗教改革から始まったのであるが、ルターにとって職業の意味するところは、「神によって永遠の救いに召される意」と「現在の意味での職業」という二種の概念を同時に含んでおり、宗教改革を行いながらも、ルターは伝統主義(カトリシズム)から離れることはなかった。しかしながら、カルヴィニズムにおいては、職業とは「神の栄光を増すための働き」という性格を持ち、この職業労働によってのみ、「救いの確信」が得られるとされ、ここから世俗内的な禁欲の概念が生まれた。これは預定説から生じた人々の内面的な不安(内面的孤独化)に対処するためのものであった。このように、人々が従事する職業労働を神から課せられた使命と考えて、これに組織的、また合理的に従事し、人間の非合理的な衝動や欲求を自己統制するという意味で禁欲的にこれに専念し献身する生活態度(エートス)は、プロテスタンティズムの倫理観から生まれたものであった。
 そして、このようなプロテスタンティズムから生まれた職業に関する倫理規範は、近代の西ヨーロッパにおいてのみおこり、またそこでのみ十分な発展をとげた。これはなぜなら、西ヨーロッパの発展した諸都市における経営者や労働者たちが、プロテスタンティズム的要素を持っていたからであり、ウェーバーはこの点に注目したのである。つまり、伝統主義からの解放を可能とする宗教上の改革を受け入れるべき素質を、経済的発達の進んだ西ヨーロッパの諸都市の経営者・労働者たちはもっていたのである。そして、この禁欲的に職業に専念するというエートスは、近代資本主義の発達において、合理的な営利の追求ということを精神的に推し進める力となったのである。つまり、ウェーバーのいう近代資本主義は、人々の営利を求める衝動だけでは成立せず、プロテスタンティズムの職業概念に関する倫理を必要とし、これらが結びついたときに初めて生まれたのである。




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