アダムスミス「国富論」講義禄    
2001.6.7

 「国富論」は18世紀において、人間の行動の諸産である経済行動を体系立てたはじめての書である。スミスは「経済人」仮説をとることによって経済学を構築し、彼の理論は労働に価値の源泉と尺度を求めることによって成り立っている。生産力は分業という人間の本性上の、交換欲求によって増進され、分業によって労働は相互交換できるものとされた。この分業によって社会業的社会が成立し、貨幣経済が発生した。ここで、労働は交換価値の真の尺度である。スミスは労働を真の価値とし、貨幣を名目上の価値ととらえた。また、商品の価値の要素として、地代、賃金、利潤がこれを構成するものとした。労働と報酬の関係は人間に対する需要を決め、これによって人間繁殖の状態は決定される。つまり、収入と資本が増加すれば、必然的に労働者の需要は増加する。また、収入と資本の増加は国民の富の増加であり、国民の富の増加なしでは、国力は上がらないのである。

 資本の蓄積によって分業は推し進められ、その結果労働の生産力は増加する。この社会の総資材としての資本は、直接の消費部分、固定資本、流動資本から成っている。固定資本は、道具、地所、人材によって構成されている。一方流動資本は貨幣、食料品、原材料、消費されてない生活必需品によって成っている。ここで全国民の富は、固定資本と流動資本から維持費を差し引いたもとなる。また、スミスは労働を生産的労働と非生産的労働の2種類にわけた。労働を投じたものの価値を増大させない(サービス業的)労働をスミスは非生産的労働ととらえたのである。資本と収入との比率は、国民の勤勉と怠惰を決定する。資本が優勢なところでは、生産的労働者は増加し、収入が優勢なところではそれが起こらない。非生産的労働をスミスは国民の富を増加させる要素とは考えなかったと思われる。

 アダムスミスの人間解釈には、功利主義思想につながるものであり、人間の本性を利己的なものとする立場であった。つまり、人間の本性の理解を中世的な形而上学の伝統からもう一段引き上げ、人間の心理的行動の分析を視野にいれ、「利己心」と「自己愛の肯定」、近代社会に生きる人間活動における心理を巧みにくみとリいれたのではないだろうか。


back