関西学院大学総合政策学部教授　鎌田康男

鎌田康男・自己紹介＆略歴

現在の問題関心
略歴
自己紹介

現在の問題関心（関西学院大学・大学案内－教育・研究編　より）

　近代ほど、人間が自然環境・人間環境を自分の設計図に従って作り替え、創りだそうとする意志が強調され、また賞賛された時代はなかった（天才崇拝）。しかしその操作への意志によって人間は、他の人間を自分の欲求を充たす手段と見なす傾向を強め、その自己中心的な性格によって人間相互の攻撃性と孤独とを助長した（少年の凶悪犯罪の増加など）。操作への意志は更に、自然環境をも同じく自分の欲求を満たす手段、すなわち資源として利用しつくそうとすることにより、自然支配と自然への攻撃性とを強めた（環境破壊など）。それゆえ、近代における人間環境と自然環境の危機は、それぞれ別々に技術的レベルで処理すればすべて解決がつく問題ではない。むしろ、両者を生み出した共通の根であるヨーロッパ（的）近代特有の「人間（中心）主義」から統一的に理解し、その浄化の可能性を問わなければならない。自然環境学の本質は人間環境学なのだ！

キーワード：①哲学・西洋思想史（自由と共同性、人と自然）、②比較思想（東洋と西洋の思想的対話）、③優しい学としての哲学

略歴

慶應義塾大学経済学部経済学科中退
京都大学文学部哲学科卒業・文学士
京都大学大学院文学研究科哲学専攻修士課程修了・文学修士
アウグスブルク大学哲学部（哲学、心理学、カトリック神学）・哲学博士 (Dr. phil.)
　 ― 博士論文によりアウグスブルク大学賞（1985年度）受賞
アウグスブルク大学神学部助手（哲学史）
新潟大学非常勤講師（哲学、ドイツ語）
ミュンヘン大学哲学部講師（日本語、日本哲学思想）
岡崎学園国際短期大学教授（哲学、ドイツ語）
関西学院大学総合政策学部教授（現在に至る）

【主要著書・論文】（自薦ベスト５）
1. Zeit der Ernte（収穫の時）, Ed. W. Schirmacher, "Schopenhauer, Hegel, Vasubandhu: Zum geschichtlich interkulturellen Gespräch zwischen Ost und West（ショーペンハウアー、ヘーゲル、世親 ― 東西の歴史的間文化的対話のために）"(1982)　著書・共著
2. "Technik als Vorspiel des Er-eignisses? Technik im Westen und Osten（技術は性起の前奏か。西洋と東洋とにおける技術)". Philosophisches Jahrbuch, 92 (1985).　論文・単著
3. Der junge Schopenhauer: Genese des Grundgedankens der Welt als Wille und Vorstellung（若きショーペンハウアー。意志と表象としての世界の根本思想の生成）(1988)　著書・単著
☆この書は、発行当時ドイツ語圏を中心に１０件以上の書評 ― もちろん、なかには批判的なものもありました(^_^; ― を頂き、その後もブロックハウス・エンサイクロペディアをはじめとする多くの辞書類や論文に言及・引用されております。現在は残念ながら絶版となり、図書館などでしか手に入りません。その骨子は、鎌田個人ページ・日本語ページからリンクされた「若きショーペンハウアーにおける《表象としての世界》の構想 ― ショーペンハウアー研究の新視角を求めて（第一部、第二部）」をご参照ください。
4. Schopenhauer in der Philosophie der Gegenwart（現代哲学におけるショーペンハウアー）, Ed. D. Birnbacher "Die Schopenhauersche Wende der Philosophie - Einführung in die Philosophie als sanfte Wissenschaft（哲学のショーペンハウアー的転回－優しい学としての哲学序説）". (1996)　著書・共著
5. Nachdenken der Metaphysik. Festschrift für Alois Halder zum 70. Geburtstag. （形而上学の追憶。アロイス・ハルダー７０歳記念論集）Ed. J. Ev. Hafner, u. a. "Das Geheimnis der Metaphysikkritik. Schopenhauer und die metaphysische Kontemplation"（形而上学批判の秘密。ショーペンハウアーと哲学的観照）" (1998)　著書・共著

☆ その他、いくつかの論文・エッセイ（日本語・ドイツ語・英語、一部既発表）が鎌田個人ページに収録されています。

【過去３年間の主な研究報告】
1. Karmatsiche Überlegungen der Technik（技術のカルマ的考察）国際会議「２１世紀における人間と地球的エコトピア－地上で理想的に生きるには」（1996年5月1日、韓国デーグ・ケイミュン大学）
2. ドイツの学校（特に初等教育）におけるバイリンガル教育について。外国語による講義の受講可能な言語力の評価に関する研究会－２１世紀に向けての国際化とは－留学生と帰国生徒の現状の視点から－（1996年10月25日、鹿児島経済大学地域総合研究所）
3. Welchen Beitrag kann heute in der ausgehenden bürgerlichen Neuzeit die Religion leisten? （近代市民社会の終わろうとする今、宗教はどのように寄与できるのか）国際会議「世界の諸宗教」（1997年7月18日、ドイツ・プリーン）
4. 「自由」に代わる理念は現れるのか？日本ショーペンハウアー協会第十回全国大会（1997年10月4日、関西学院大学文学部）
5. Arthur Hübschers Beitrag zur modernen Schopenhauer-Forschung （アルトゥール・ヒュプシャーの現代ショーペンハウアー研究への貢献）ショーペンハウアー財団・ショーペンハウアー展開催記念会議（1997年10月29日ドイツ・フランクフルト大学図書館）
6. Gibt es eine Alternative zur neuzeitlichen Freiheitsidee?（近代の自由の理念の代替物はあるのか？）日独ショーペンハウアー学会（1999年9月11日ドイツ・デュッセルドルフ、日本文化センター）
7. 近代市民社会とミットライト（同苦）（1999年10月2日、日本ショーペンハウアー協会第十二回全国大会、関西大学）

自己紹介
　幼い頃から、「死」について考えることが多かった。中学時代から哲学への関心がつよかった。武蔵中学・高校時代の和辻夏彦先生（和辻哲郎子息）の影響も大きかったと思う。高校２年生でキリスト教の洗礼を受ける。慶應義塾大学経済学部で、速水融教授の経済史（特にマックス・ウェーバーに言及しながらの西欧及び日本近代化論）の講義に魅せられる ― ヨーロッパ近代とは何か：民主主義と豊かな物質文明を生み出し、同時に人間の孤独化を生み出した近代市民社会とはなにか？という問いと、多くの偶然に導かれつつ、京都大学文学部へ。

　京大教養部時代は、バリケード封鎖に加わったり、一人で純粋理性批判のドイツ語原典と格闘したり、友人と神学の勉強会をしたりしていた。専門課程・大学院では、辻村公一教授のもとで、カントとドイツ観念論哲学を中心に学び、また不可避的に (^_^; ハイデッガー、西田哲学などの京都学派、禅仏教を中心とする東洋思想を学ばされた。

　アウグスブルク大学へ留学してから、学術的な問題関心や方向性が固まってくる３０歳代を中心に、教員生活を含めて計１５年以上ドイツで暮らした計算になる。アロイス・ハルダー教授を指導教授として、①西洋哲学研究　 ― カント→ドイツ観念論→現代哲学（ハイデッガー）→ショーペンハウアー、②比較思想・宗教 ― プロテスタント神学→カトリック神学→中世ヨーロッパ哲学、西田哲学→仏教→東洋と西洋の比較研究→ショーペンハウアー、といったさまざまな関心が、一旦ショーペンハウアー研究に収斂した時点で、博士論文を書き、その後は逆に、ショーペンハウアー研究によって得られた成果を生かしつつ、それぞれの問題領域及びその相互関連を考えることが主要テーマとなった。

　ドイツでの経験：指導教授に対しては異議を唱えることなど考えられなかった（当時の）日本の大学からドイツに行って、大学や学会で、相手の肩書きや年齢などお構いなしに、院生から老教授まで入り乱れて激論を戦わせる研究者たちの徹底した知への情熱に圧倒された。当時、近代市民社会の基本的な価値観をめぐる論争が、政治家やジャーナリストからさまざまな専門の学者までを巻き込む「規範論争」へと展開していた。そのような学際的な論争ができるためには、自分だけの個別的なテーマ（たとえば、カント哲学）を研究するだけでは不十分だということに気づかされた。彼ら（活躍している人びと）は、自分だけの特色ある専門領域を持つと同時に、どんな問題についてでも一定レベルの知識を持つことによってはじめて、共同研究や論争が可能になることを知った。日本では今もなお、一方では個別的な専門領域にたこつぼ化し、周囲の干渉を恐れて自分の「利権」だけを守ろうとする研究者と、他方では専門を持たない ― それ故に知の深さも厳しさも知らない ― 軽薄なジェネラリストたちへと両極化の傾向が強い。現代は、ようやくそれぞれの問題点に気づきつつあるといってよい。そのような両極化を克服するためにも、現在奉職している関西学院大学総合政策学部・大学院総合政策研究科への期待は大きい。

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