受講者募集用シラバス

担当者鎌田 康男(関西学院大学 総合政策学部 教授)

研究テーマ:「共生」の理念 − 社会科学の方法論とエコロジー

キーワード
  ・人と人の共生、人と自然の共生
  ・社会科学の方法論
  ・エコロジーの理念
  ・近代市民社会とポストモダン

研究内容:「総合政策学」は、本学部の三つのコース分けが示すとおり、総合「政策」学として現代社会特有の課題を具体的な問題解決に導く実践的政策立案能力を育てることを目指している。とはいえ、このコース分けは単なる場当たり的な問題解決のための作戦群ではない。それは同時に、多種多様な問題をどのように整理し、理解するかという、全体的視野を前提とする。しかし、従来の諸大学の総合・政策系学部においては、そのような全体的視野の模索を、むしろ具体的な問題解決への妨げとして回避する傾向さえ見られる。これに対して本学部では、多種多様な問題を全体的に捉える理念として「ヒューマンエコロジー」を方法論的基礎に据えて、都市・国際・自然環境という問題群を、「共生・共同性」というキーワードにより、個人レベルにおける人間相互の共生の場(都市)、共同性レベルにおける人間の共生の場(国際社会)、人間を含む多様な存在の共生の場(自然環境)として統一的に理解しようと試みる。  

 19世紀後半以降の近代諸科学を導いた「実証主義」の理念によれば、研究者が世界観や学の理念といった思弁にふけらず、それぞれの専門分野での問題解決に取り組んでさえいれば、それらの専門的知識の集積として、正しい全体的視野がおのずから形成されるはずであった。しかし、そのような楽観主義が全体主義体制・核戦争・環境破壊などに象徴されるような近代市民社会のエゴイズムの表現にすぎないことに気づかれたときに、学としてのヒューマンエコロジーの理念が要請されたのである。その意味で、ヒューマンエコロジーは、自然と人間、人間と人間の「共生・共同性」のあり方を多角的に分析叙述する一専門領域であると同時に、近代市民社会を超えて未来に向かう私たちの生き方の基本姿勢を問い、また提案するという理念的・哲学的使命をも帯びている。

 本研究演習では、そのような現状把握の下で、「共生・共同性」概念を原点に置き、縦・横・奥行の次元として、歴史的視野・比較文化的視野・学際的視野を設定し、社会科学基礎論としてのヒューマンエコロジーの可能性をさまざまな視点から検討したい。また、そのような作業を通じて、あるひとつのテーマを、その統一性を保ちつつ、しかも多様な視野・複数の立場からものを見る。

 知的能力のトレーニングをも目指す。受講者はみずから問題関心の網を張り、問題を発見し、学術的処理の可能なテーマへと結晶させ、そして問題解決にいたる、いわゆる学術的能力(competence)を獲得してほしい。

運営方法:  

 研究演習I 研究演習Iは、上記の「目的」に従って、さまざまな作業課題を課すが、同時に、各人の問題関心をできる限り尊重し、それぞれが自分で研究テーマを発見してゆけるように、学生と担当教員、及び学生相互の対話的な授業を心がけたい。 内容的には環境問題や科学技術に関する意識調査のような経験的テーマ、芸術史・比較宗教学的なフィールドワーク、諸外国語の文献調査、さらには思想・文化史や科学基礎論などの哲学的内容にまでおよび、また積極的な個人・共同作業も必要となるので、受講にあたっては、時間的・精神的・体力的ゆとりをもった年間計画を立ててほしい。

 研究演習 各人の関心に従った研究課題を選択し、これを卒業論文へと結晶させてゆくための助言・指導、研究(中間)報告を軸とする。          

・正規の研究演習に加えて、隔週のペースで文献講読・討論を中心としたサブゼミを行い、また学生諸君のイニシアチヴによるワーキンググループなども、希望があればできる限りサポートする。

・夏休み中にゼミ合宿を行う。また、事情が許せば、春休み中に研究演習テーマに関連するヨーロッパ実習を行いたい(観光目的の海外研修でないので注意!)。