1999年度研究演習I授業方針

              (担当者・鎌田 康男)

【研究テーマ】 応用倫理学 − 「共生」の理念 −

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【キーワード】

[1] 人と人の共生・人と自然の共生

[2] 自然(環境)学の本質は人間(環境)学である

[3] 政策と理念の橋渡しとしての「応用倫理学」(主として環境倫理学)

[4] 社会科学の方法論とエコロジー

[5] 近代市民社会とポストモダン

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【研究内容】

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☆鎌田ゼミ研究内容および運営の詳細は、鎌田ゼミホームページ
http://www.ksc.kwansei.ac.jp/~95024w/semi/2000/
を是非ご覧ください。
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 関西学院大学総合政策学部は、実効性・即効性が期待される「政策」と、長期的・総合的視野をもった「ヒューマンエコロジー」という、(一見)対立する視点の共生をはかろうとする。それは、利益至上主義と自然環境保護との緊張関係の中で「人と自然の共生」をどのように実現させてゆくべきか、という現代の問題意識に呼応するものである。しかし、「総合政策学」の使命への問いはさらに、自分の利益にしか関心を持たない近代市民の自己中心主義が経済的豊かさをもたらすと同時に「人と人との共生」(愛)を崩壊させ、人の孤独化を助長するにいたったのはなぜかという本質的な問いへと展開する。なぜなら、そのような近代市民の自己中心的攻撃性こそが、人間環境のみならず自然環境をも単なる手段=資源として利用し破壊するにいたった精神的基盤だったからである。そのような認識を鎌田ゼミは次のようなモットーによって表現する − 「自然(環境)学の本質は、人間(環境)学である。」

 鎌田ゼミでは、そのような人と人・人と自然の共生への問い、実践と理念との媒介の問題にアプローチするために「応用倫理学」を研究のメインテーマとする。応用倫理学は、一方で実践に向かう「政策」、他方で理念に向かう「基礎倫理学・哲学」の問題意識と成果とを相互に媒介する重要な結節点という位置をしめる。
[1] 「政策」は、その時々の標準的価値観(人間観・自然観)を前提とした上での即効的、実効的な問題解決へと向かう。たとえば、ダイオキシンの値が許容値を超えた場合、あるいは地球上のある地域で食糧危機が起こった、という場合、どのようにして値を正常値にもどし、どのようにして飢餓の被害を最小限に食い止めるかを多角的に検討し、もっとも合理的な問題解決を提案することが(狭義の)政策的課題である。あるいは、環境基準を再検討し、飢餓を防ぐために産児制限等の措置を効果的に施行するなどの措置も行なわれるかも知れない。
[2] 「応用倫理学」は、標準的価値観内部の理解のずれや、多様な価値観の時代・地域的な差違を問題とし、それぞれの立場と前提とを明確に描きだすために、より長期的に、全社会的・学際的な視野から検討を加える。たとえば、種々の消費に基づく物質的生活の向上と、消費の制限につながる環境保護とのバランスに関して、どの程度の巾で一般市民が受け入れるべきであるか、また受け入れることができるか(持続可能な発展の条件はどのようなものであるか)、人口増加によって、地球規模での食糧危機の回避が避けられないと思われるとき、富める国はどの程度の援助義務を負うのか、むしろ限られた収容能力しか持たない救命ボートを沈めないためには、援助の制限も正当化されるのか、といった問題は、応用倫理学に属する。これら価値観にかかわる問題を素通りして、プラグマティックな妥協案 − それは、問題を[1] のレベルにシフトさせてしまうことになる − を提示するだけでは、問題をさらに深刻化させ、問題の先延ばしに終わる危険が大きいだろう。
[3] 「基礎倫理学・哲学」においては、「応用倫理学」が通常拠り所としている前提そのもの、現在のわれわれが誰でも合意するであろう最低限かつ共通の価値観にまで立ち入って検討する。現代では自明のものとして受け入れられている価値観が、有史時代以来数千年のスパンで見ても高々2〜300年ぐらいの歴史しかもたないものであり、これから何世代後にはまた異なるものになっているかも知れない、という認識のもとで − 人間は、常に、現在の価値観こそが絶対・最上で、もう永遠に変わらない、変わってはならないものだ、という迷信から今もなお逃れることができないのだろうか − 現在の価値観(人間観・自然観)の人類史的な位置づけ、将来何世代にもわたるような長期的な問題(環境に関する「世代間倫理」の問題など)、さらには、80億年後に到来する太陽系の終焉と、それ以前にいつかおこる人類の滅亡などの極限概念によりながら、現代に生きる私たち人間の生と死の意味をも確認するという課題もある。
 上記[1][2][3] は、それぞれ独自の問題発見・問題解決の基準をもっており、それらを混同して議論することは危険である。[1] のレベルでどのようにしてダイオキシンの空気中濃度を効果的に下げることができるかを調査している研究者に向かって、どうせ人類はいつか滅亡するのだからむだなことさ、などという議論は、[3] のレベルの研究に、そんなことを議論していったい何の儲けになるのか、何の役に立つのかと反論する愚かさににている。今日多様に分化した専門領域は、他の研究領域との対話による自己自身の知のネットワークにおける位置づけを十分に行なっているとは言えない。それどころか、専門領域の多くが、他の研究領域への無知と無関心のゆえに、自分こそすべての問題を説明・解決できる諸学の帝王であると僭称する有様である。しかし諸学は、知と現実のネットワークにおいて自分が占める位置を確認することによって初めて、学際的といえるあり方を獲得するであろう。そこに、総合政策学部の(未完成な)理想を推し進める意義と必然性とがある。

 その意味において、時間的・能力的に限られた範囲とはいえ、鎌田ゼミにおいては、応用倫理学という専門領域に加えて、それを学際的な視野で支えるために、様々な分野の課題を課し、社会科学の基礎的なものの考え方と、学術的能力(academic competence)との開発につとめる。(トレーニングプログラムの具体例については、鎌田ゼミホームページを参照のこと。)

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【運営方法】

@研究演習I:研究演習Iは、上記の【研究内容】の趣旨に従って、学問諸領域にまたがるさまざまな作業課題を課すが、同時に、各人の問題関心をできる限り尊重し、それぞれが自分で研究テーマを発見してゆけるように、学生と担当教員、及び学生相互の対話的な授業を心がけたいと思います。
 ゼミ担当者としては、ゼミ一年目は(知的)基礎体力を育成するトレーナーの役に徹したいと思っています。(実際に、強化合宿やインターバルトレーニングのような、スポーツからヒントを得たプログラムもあります。)
 ゼミはグループワークとプレゼンテーションを軸として運営されます。

A研究演習II:研究演習Iにおける「基礎トレーニング」を継承しつつ、同時に応用倫理学の問題へと移行します。さらに、各人の関心に従った研究課題を選択し、これを卒業論文へと結晶させてゆくための助言・指導、研究(中間)報告を行ないます。

B学生諸君のイニシアチヴによる自主ゼミやワーキンググループなども、できる限り応援します。

C夏休み中にゼミ強化合宿(全員参加)を行う。また、事情が許せば、関西学院大学が交換協定を結んだばかりのアウグスブルク大学の学生との交流や、ヨーロッパ思想史・文化史関連の実習を行いたい(観光目的の海外研修でないので注意!)。同時に、ゼミ生個々人が、旅行を自ら企画し、海外渡航に関する手続きを自分ですべて済ませることができるという意味での「国際性」を学ぶという趣旨から、個人渡航に関する助言はいつでも行なう。

D研究演習では、さまざまな文献とともに、インターネット・ホームページを最大限に活用するので、コンピュータに関するしっかりとした基礎知識を持っていることが望まれます。(モデムおよびインターネット・プロバイダー契約等はゼミ必須教材とお考えください。)

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【選考基準】

 受講希望を出す人は、以下の@およびAをふまえて、第一希望であるか否かを問わず、希望調査書提出時までに、別途鎌田ゼミ向けの受講希望理由書(800字以上、できる限りkamata ないし kamata_yasuo@hotmail.com 宛電子メールで!)を提出すること。この理由書の内容が、最大の選考基準となります。

@上記の問題意識を共有し、受講を考慮中の学生諸君は、とにかく一度ゼミの様子を直接体験してください。研究演習1は毎週木曜日午後5時から、研究演習2は毎週火曜日午後5時から、I号館202号室で行なわれます。また、ゼミ活動の内容については、ゼミホームページ(http://www.ksc.kwansei.ac.jp/~95024w/)をご参照ください。
Aゼミにおいて有意義な研究生活を送るには、上記【研究内容】に述べられた問題関心だけでなく、ゼミの作業・研究スタイルや教員・ゼミ生相互の研究・協力体制、グループワークに共感を持てるかどうかということも重要です。研究演習を実際に体験してみることはもちろん、研究演習後恒例のゼミ参加者の夕食に同席して、先輩のゼミ生に経験談を聞いてみることを特にすすめます。
☆研究演習は、常に参観自由です。初めて参加される方々は、ゼミの内容の難解さに仰天なさることがあるかも知れません。(実際、大学院生も手こずるような文献を扱うこともしばしばですので・・・)しかし、誰もが三回生になってからはじめたもので、それなりの努力をすれば、半年後にはそのレベルに達します。

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【その他】

 自分の知力の限界をきわめてみたい方、残り二年間の学生生活を学術に燃焼させても悔いがないという方のエントリーを期待します。


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