補聴援助システム 1.「補聴援助システム」とは? 補聴援助システムとは、聴覚障害児・者の聞こえの向上または代替するシステムを指しています。補聴援助システムは、1:話し手の数・聞き手の数や、場面設定という分類と、2:音響情報の伝達・代替方法による分類の2通りの分類ができます。このように、用途や場面に応じて、いろいろな補聴援助システムが考えられています。 表1 補聴援助システムと使用場面による分類 1人の話し手と1人の聞き手(親子の会話や授業) 1人の話し手と多数の聞き手(ろう学校など) 多数の話し手と1人の聞き手(家族での会話) 音を出す電化製品と聞き手(テレビの音を聞く) 電話(テレ・コミュニケーション) 感覚代行機器(振動式時計など) →学校や大学などの教育機関では、教員の声をよりきれいに聞くためのシステムが求められるでしょう。 表2 補聴援助システムと伝達・代替方法による分類 (1)磁気誘導システム(ループシステム) (2)FM補聴システム (3)赤外線補聴システム (4)ブルートゥース (5)有線(外部延長マイク利用など) (6)拡声装置(音場増幅式補聴システム) (7)感覚代行機器 →この中でも特に用いられる頻度が高いのは、多数の参加者がいる会場で用いるループシステムと、学校や大学などで先生の声をよりきれいに聞くために使われるFM補聴システムではないかと思います。 2.「補聴援助システム」の効果とは? 「補聴援助システム」は、以下の2つの目的で使用されます。 (1)周囲の雑音をできるだけ排除して、聞きたい声をよりきれいに聞こえるようにする(SN比の向上)。 (2)部屋の壁などに反射した音によって、音が曇ったりしないよう、できるだけクリアな音で聞こえるようにする(残響時間の短縮)。  ここでは、こうした補助援助システムのうち、特に学校現場で用いられることの多いFM補聴システムについてより詳しく解説します。 注)SN比とは、雑音と音声との比であり、この値が大きいことは、より周囲の雑音より音声が強いことを示しています 3.「FM補聴システム」とは?  「FMシステム」は、FMマイクとFM受信機のセットの2つで「システム」となっています。これはちょうどラジオ局とラジオ受信機の関係に似ています。  話し手(教室では教員のことが多い)がFMマイク(FM電波の発信元、つまりラジオ局のような)を持ち、声を電波に乗せて流します。これを、聴覚障害学生が装着している小型のFM受信機(FMラジオ)で受け、鮮明な声を聞こえるようにするものです。 4.「FM補聴システム」の種類  話し手が装着するFMマイクには、ブームマイク型、タイピン型、卓上型の3種類があります。  補聴器ユーザーが使用するFM受信機には、補聴器の下に接合するものと、首にネクタイのようにかける物の2種類があります。  外部入力端子がない補聴器で使用する場合は、補聴器のスイッチをTかMT(Tコイル)にあわせて使用するとよいでしょう。 5.「FM補聴システム」の使い方  まずは発信側のFMマイクを使用できる状態にします。特にマイクの位置に気を配ってください。口元からの距離が遠い場所に付けたり、マイクの向きが口元とはよその方向に向いていると、声を集音できず効果があがりません。ワイシャツの場合は、上から第1ボタンと第2ボタンの中間ぐらいが理想的な装着位置です。  次に受信機=補聴器側の設定が必要です。受信機や補聴器の設定はそれぞれの器種によって異なります。補聴器ユーザーの方に操作はお任せください。  使用開始前に、学生にマイクを通して話しかけ、電波がちゃんと送られていることを毎回確認してください。FMマイクの電池が切れていることも意外と多いのです。 6.「FM補聴システム」の使用上の配慮事項 (1)FMシステムは魔法ではありません  FMシステムの使用により、確かに音は届くようにはなりますが、そのことと会話内容がわかることとは別次元です。聴覚障害学生の多くは、「音が歪んで聞こえる」という特徴がある感音難聴を有しています。FMシステムを用いることで、音は確かに鮮明になりますが、だからと言って完全に聞こえるようにはなりません。やはり、一般的な聴覚障害学生に対する話し方の配慮は怠らないでください。(関連チップシート「授業における教育的配慮」) (2)周りの声が聞こえにくくなることもあります  FMマイクはいわば補聴器のマイクを長く延長したようなものです。FMマイクを装着している人の声は聞こえやすくなりますが、装着していない周囲の人、例えば、授業中の学生からの質問は聞こえにくいままです。FMマイクを装着している人が、質問内容を復唱すること(例えば、「質問内容は・・・・・ということですね。いい質問ですね。」と言うこと)が大切です。 7.その他の補聴援助システム  上に挙げたFM補聴システム以外にも様々な補聴援助システムがあります。例えば、下記のような時に使用できるシステムが用意されています。 (1)CDやテレビの音を明瞭に聞き取りたい (2)携帯電話で会話をするとき明瞭に聞き取りたい CDやテレビ、携帯電話と補聴器を表2に示したループシステム、FM補聴システムなどの各補聴援助システムを使って直接つなぐ方法があります。 (3)人工内耳と組み合わせて使いたい 補聴援助システムは人工内耳の方にも使用できます。 (4)テレビを字幕付きで見たい 地デジ対応テレビでは字幕機能が内蔵されています。 (5)普通の目覚まし時計だと、朝起きることができない ベルの代わりに振動する目覚まし時計があります。 (6)呼ばれても気づかず応えられない 離れた場所から振動で呼び出せる装置があります。 補聴器を使用していても、音の聞こえは学生によって異なります。どんな補聴援助システムが使いやすいのか、必ず学生とよく相談して、一番よいシステムを選ぶとよいでしょう。 FM補聴システムに関してのお問い合わせは「日本教育オーディオロジー研究会」(ファックス089−946−5211)へ。 執筆者 立入哉(たちいりはじめ) 愛媛大学教育学部准教授 2008年5月1日 初版 以下クレジット 発行 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan) URL http://www.pepnet-j.org 郵便番号305-8520 住所 茨城県つくば市天久保4-3-15 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター支援交流室 聴覚系WG 内 担当 白澤麻弓 E-mail pepj-info@pepnet-j.org 以下添書き PEPNet-Japanは筑波技術大学の運営による高等教育機関間ネットワークで、文部科学省特別教育研究経費を用いて運営しています。活動にあたっては、一部日本財団の助成によるPEN-Internationalからの支援を受けています。本シートは、アメリカ北東地域テクニカルアシスタントセンター(PEPNet-Northeast)の作成によるTipSheetを基に、PEPNet-Japanが独自に作成したものです。本シートの内容の無断複写・転載を禁じます。