学期初めのコーディネート業務 1.はじめに 新年度の始まりにあたる4月から5月や、後期の準備をする8月から9月は、授業における支援に関わる業務が集中します。このシートでは、具体的な業務内容について述べていきます。なお、入学前から入学直後までの支援方法については「入学当初のサポート」シートを参照してください。   図1.学期初めのコーディネート業務の流れ(前期の場合) 支援者に対しては、オリエンテーション期間中に「養成」、「配置」を行い、授業期間中に「派遣」する。 教員に対しては、入学前からオリエンテーション期間にかけて「配慮の依頼、個別打ち合わせ」を行い、授業期間中に「個別に配慮依頼」をする。 利用学生に対しては、入学前からオリエンテーション期間にかけて「ニーズ把握」を行い、授業期間中に複数回、面談の機会を持つ。 授業における支援を始める際は、(1)教職員による指導方法の配慮や事前の環境整備、(2)情報保障支援、の両方の視点をもって、どのような支援や配慮が必要なのかを見極めることが大切です。双方が充実することによって初めて、質の高いサポートが実現すると言えます。以下、それぞれの内容について説明していきます。 2.教員による配慮や環境整備 (1)教職員への働きかけ 各授業や専攻に共通する配慮の依頼事項は、書面やパンフレットにまとめて一斉に周知すると効果的です。聴覚障害学生の置かれた状況や情報保障支援の役割、教員が配慮すべき事項などを伝え、全学の意識向上を図ります。 また、聴覚障害学生から、「授業のこんな場面ではこういう配慮をしてほしい」と具体的な事項を直接伝えることで、教員との距離が縮まりよりよい関係作りに発展することもあります。 以下の図2のように、全体的な働きかけと個別的なかかわり、それぞれのよい面を生かしながら、教員を巻き込んだ支援体制を形成することが望ましいでしょう。 年度当初に、聴覚障害学生支援に関する教職員研修を実施するなど、全学的に取り組む大学も出てきています。 図2.配慮依頼の効果的な方法 文書での一斉(例 できるだけ視覚的な教材を活用してください) 個別的な依頼(例 専門用語は、聞いただけでは表記がわからずノートテイカーが書けないので、板書してもらえますか?) (2)授業担当教員との打ち合わせ 個別的な対応の1つとして、教員と聴覚障害学生、支援担当職員が事前に顔合わせをし、どのような配慮を行うかを協議するのが効果的な方法です。すべての授業について行うことが望ましいですが、最低限、以下に挙げるような授業では、事前打ち合わせを計画しましょう。 表1.教員との事前打ち合わせが有効な授業例 実験や実技など実習を伴う授業 語学の授業 学生による議論や発表を伴う授業 学外に出て実習などをする授業 支援者が十分な予習を必要とする専門的な授業 など 表2.打ち合わせ事項 授業の進め方の確認 教員の配慮としてどんなことが必要かを検討 授業保障に工夫が必要となる場面・状況を把握し、状況に適した情報保障手段、支援方法の検討 3.情報保障支援の準備 (1)募集から養成  教員との打ち合わせで、情報保障支援を必要とする授業がどのくらいあるのかを把握できたら、ノートテイカーやパソコンノートテイカーなどの支援者を確保します。情報保障支援を行う人材の養成は、前年度末(前学期末)に実施しておくことが望ましいですが、無理な場合は、支援が速やかに開始できるよう、できるだけ早い時期に実施します。オリエンテーションの場や資料配布を通して、広く支援者の募集を呼びかけるとよいでしょう。 表3.養成講座での指導内容 聴覚障害と情報保障についての理解 ノートテイクの基本的な書き方 支援活動上のルールとマナー ノートテイクの応用練習 ノートテイクやパソコンノートテイクを行うには、一定の知識と技術が必要とされます。単に必要な人数を確保すれば支援ができるというわけではありません。あわただしい時期であっても、時間をきちんと確保して養成することで、支援体制の充実につなげることができます。 (2)登録 養成した人材が速やかに支援活動に入れるよう、講座の際には登録用紙を用意しておき、必要な情報を記入してもらうようにするとよいでしょう。(下表参照)それとあわせて、支援担当職員は、養成の段階から一人ひとりの支援技術の習得レベルを把握しておくことも大切です。 表4.登録時の記入事項 所属、学年、専攻 空き時間 履修済みの外国語、専門科目、資格関連授業など これまでの支援経験(情報保障手段、担当授業) その他得意分野 連絡先(メールアドレス、緊急連絡先) (3)支援者の配置(シフト作成) 情報保障が必要とされる授業に、支援者を配置します。 まず、支援体制に関するガイドラインを決定しておきましょう。支援者が過度の負担を負うことなく活動し、聴覚障害学生が利用しやすい支援を運営していくためには、必要最低限のルールを設けた上でスタートさせる必要があります。また、支援経験を蓄積する中で新たにルール作りを進めていくことも必要です。以下に具体例を挙げます。 例1 支援者の身分保障に関すること 原則として90分の授業を2人で担当する 支援活動は、1日1人1コマとする 支援活動は、週に1人2コマまでとする 例2 連絡体制に関すること 体調不良等で支援に入れない(又は遅れる)場合には決められた方法できちんと連絡をする 支援上の相談があれば、担当職員に連絡する     どの授業に誰を配置すればよいか、ということを決めるには、様々な判断材料が必要です。時間の都合が合うというだけではなく、登録用紙に記載された情報をもとに適切な人員配置をしていきます。 4.授業開始後のコーディネート (1)授業における情報保障支援の運営 支援者の配置が決定し、実際の支援が開始すると、担当者の仕事は一段落したと思われがちです。しかし実際には、 下表に挙げるような細かな業務の積み重ねによって、日々の円滑な支援は支えられています。特に、第1回目の支援の前後には、丁寧な対応が必要になります。 支援者を配置してからが本来のコーディネート業務のスタートと言えます。 (2)聴覚障害学生のニーズ把握 入学後に様々な経験を重ね知識を増やしていくことで、聴覚障害学生の支援に対する意識やニーズは変化していきます。少なくとも、支援開始当初、学期中盤、長期休業前等の機会を捉えて、こまめに面談する機会を設けましょう。 時には支援方法を見直す必要が生じるかもしれません。大切なのは、次にどんなことが必要なのか、どんな支援なら実施可能なのか、利用学生と支援担当者が課題意識を共有できる関係作りです。(「聴覚障害学生の心理的サポート」参照) (3)次学期に向けて 日々の支援を運営しながら、同時に長期的な計画を進めていくことも必要です。学期末に支援者と利用学生との懇談会を企画したり、ノートテイクのスキルアップ講座を開いたり、教職員の研修、追加予算の申請、他大学からの情報収集など、その先の支援も視野に入れて、準備を進めるとよいでしょう。 支援担当者の留意事項 支援に関わる業務は、細やかな対応が必要で、かつ毎日続いていくものです。1人の職員が抱え込むと負担が偏るだけでなく、出張や休暇で不在のときに支援が機能しなくなってしまうという問題が生じます。そうならないために、日ごろから複数の担当者、複数の部署で情報を共有することが大切です。こうした連携が学内のネットワークに発展し、全学的な安定した支援体制への第一歩となります。 執筆者 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク事務局 2007年8月1日初版 以下クレジット 発行 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan) URL http://www.pepnet-j.org 郵便番号305-8520 住所 茨城県つくば市天久保4-3-15 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター支援交流室 聴覚系WG 内 担当 白澤麻弓 E-mail pepj-info@pepnet-j.org 以下添書き PEPNet-Japanは筑波技術大学の運営による高等教育機関間ネットワークで、文部科学省特別教育研究経費を用いて運営しています。活動にあたっては、一部日本財団の助成によるPEN-Internationalからの支援を受けています。本シートは、アメリカ北東地域テクニカルアシスタントセンター(PEPNet-Northeast)の作成によるTipSheetを基に、PEPNet-Japanが独自に作成したものです。本シートの内容の無断複写・転載を禁じます。