障がいを持つ学生への学習支援(3) 教材用ビデオテープへの字幕付け作業について Educational support to the audio-visually handicapped students (3) Superimposing to video tapes for use in the lecture 高畑由起夫・星かおり・皆本礼子・小野田弘之・植田幸利・久保田哲夫・細見和志・中條道雄・窪田誠・渡部律子・井垣伸子 Yukio Takahata, Kaori Hoshi, Reiko Minamoto, Hiroyuki Onoda, Yukitoshi Ueda, Tetsuo Kubota, Kazushi Hosomi, Michio Chujo, Makoto Kubota, Ritsuko Watanabe, Nobuko Igaki Since 2004, we have carried out an educational support to audio-handicapped students (note-take by PC) at the School of Policy Studies, Kwansei Gakuin University. In the process, we have tried to superimpose to the video tape for use in lectures, to support note-taking. In this report, we explain our superimposing system, and discuss its educational meanings. キーワード:視聴覚障害、学習支援、ビデオ教材、字幕付け、PC Key Word: Audio-visual disorder, educational support, Video tape, Superimposing, Personal computer T.はじめに  関西学院大学総合政策学部ユニバーサルデザイン教育研究センターでは、2004年度以降、主として視聴覚に障がいを持つ学生への学習支援の開発と実践を試行している(高畑他、2005、2006)。本報告では、聴覚に障がいを持つ学生を対象とした教材用ビデオテープの字幕付けについて、開発中の方法を紹介するとともに、今後の課題等について考察する。  まず、ビデオ教材の字幕付けを試みるに至った経緯から紹介したい。2006年春学期現在、総合政策学部では聴覚障がいの学生に対応するため、PCによるノートテイクと手書き要約筆記を組み合わせた学習支援策を実施している(高畑他、2006)。その過程で、教材にビデオを使用すると、ナレーションをノートテイクすることが難しいという指摘があった。そのため、ビデオ教材への効果的な字幕付け法の開発をめざして、2005年度にPCシステム(カノープス社製EDIUS Pro 3)を導入した。本報告はその実践記録である。  近年、障がいを持つ学生の受け入れについて全国的な関心が高まり、多くの実践・研究が蓄積されつつある(秋山・亀井、2004;佐野(藤田)・吉原、2004;白澤・徳田、2002;吉川他、2001)。その一方で、ビデオ教材の字幕付けについては、機材や技能の必要性、著作権をめぐる問題等によって必ずしも普及が進んでいない感もある。本稿では、できるだけ低負担・低コストで障がい学生のために優しい教材を開発・蓄積していくという視点から、これまでにおこなってきたビデオ字幕付けの活動を総括したい。  本稿では、また作成した字幕付けビデオ教材の有効利用をめざして、アーカイブ化、あるいはE-learning化等も検討する。この際、とくに解決されるべき課題として、オリジナルなビデオ作品に関する著作権法上の問題があげられる。言うまでもないが、本プロジェクトでは、字幕付けの目的を「聴覚障がい学生への対応」=あくまでも学習支援の一環として位置づけることで、「学校その他の教育機関における複製等(著作権法第35条、Appendix 参照)の範囲内にとどまるように心がけている。  なお、本稿では前回の報告(高畑他、2005、2006)と同様に、「障害」という言葉について、「人を意味する場合に「害」という漢字を用いることに抵抗がある」との意見を尊重して、文脈によって「障害」と「障がい」を使い分ける。この点については、あらかじめご了解いただきたい。 U.ビデオ教材の字幕付け作業 U−1.作業の大まかな流れと使用機器  ビデオ教材の字幕付け作業は大まかに分けると、表1のような工程となる。このなかで、工程(2)〜(6)に使用する機器は、カノープス社製のビデオ編集ソフトEDIUS Pro 3を搭載した専用PCを中心としたシステムである。このPCに、(S-VHSとデジタルビデオ[DV]の)ダブルデッキを備えたビデオデッキ(ソニーWV-DR9)をOHCI準拠IEEE1394インターフェース端子で接続するほか、ビデオデッキからテレビモニタ(シャープ14C-GM3)にも出力して、PC画面と同時に通常のテレビ画面でモニタリングできるように接続している。  一方、工程(2)での音声認識によるテキスト・ファイル作成に使用する機器は、ノートPC(東芝ダイナブックSS)に音声認識ソフトのドラゴンスピーチ7Select USB(アスキーソリューションズ社製)を導入して、ビデオテープからのキャプチャ時に、再生された音声を復唱することで、テキスト・ファイルを作成して、字幕の原案としている。 U−2 実際の作業  以下、作業工程について順を追って説明したい。 工程1:教員より教材ビデオへ字幕入力の依頼がある場合、通常はVHSテープ/DVDの形で受け取ることとなる。以下、教材の上映時間を45分間と想定した場合の、およその作業時間のめどを示す(表1)。このVHSテープ/DVDをデジタルビデオテープ(以下、DVテープと略称)にコピーするのに45分を要する。なお、実際の作業ではminiDVカセットを使用している。 工程2:字幕付け作業用PCのEDIUSを起動して、ビデオデッキに入れたDVテープから映像ファイル(avi形式)として取り込む。この作業を“キャプチャ”と呼んでいる。また、この未編集のファイルが“素材クリップ”である。10分間の映像で約2GBの大きさになる。  この作業と平行して、キャプチャ時に再生される音声を、作業者が耳で聞いて、それを復唱した声を音声認識ソフトによってテキスト・ファイルに変換する(45分)。 工程3:EDIUSを操作して、素材クリップを作業用の画面(タイムライン・ウィンドウ)に並べ、編集作業を開始する(図1を参照)。タイムライン(時間軸)上に並べられた素材クリップに編集作業を施して、一つの映像作品として加工する作業全体が“プロジェクト”と呼ばれ、編集中もしくは編集済みのファイルが“プロジェクト・ファイル”である(図2を参照)。  次に、プロジェクト・ファイルを再生する(デジタル・ファイル化されているため、画面上で再生・巻き戻し等の操作はきわめて容易である)。この再生画面(タイムライン・モニタという画面に表示される)を確認しながら、工程2で作成したテキスト・ファイルを校正する。この工程には相当の時間が必要で、台詞が多い場合、45分のビデオ・ファイルの校正に4〜5時間程度をみる必要がある。校正では、音声認識ソフトの変換ミスを修正すると同時に、発声状況等にあわせて、一行20文字程度に区切った上で、2行(やむを得ない場合は3行程度)にまとめる。また、発話以外の発声、ヒト以外の音声、あるいはBGM等もここで文字化する場合がある。  実際の作業を少しでも理解してもらうため、表2に実際のデータを示してみよう。表2の(a)は音声認識ソフトで文字化された文章を、適当な文字数(1行最長20文字程度まで)に整えただけのものである。一方、表2の(b)は、(a)の文章を字幕用に校正・編集したものである。なお、このビデオ教材は二つの映画作品、『永遠に美しく』と『Shall we ダンス』の一部を抜粋して組み合わせて、全体の上映時間を19分11秒としたものだが、表2では最初の88秒間と、最後の128秒間の部分を示してある。  表2は全体で42行になるが、例えば、前半の第1行で「精気」が「世紀」に、第5行で「老い」が「応用」に、第10行で「剣を抜く音」が「嫌悪のこと」等に変換されるミスがあった。後半でも、第3行で「悩み」が「前に」に、第8行では「好意」が「行為」になっている。しかし、全体には修正はかなり容易であった。一度も聞いたことがない文章をそのまま反復するだけで、これだけ変換が可能であることは、この方式が実用レベルにあることを示唆している。  なお、実際の作業においてとくに注意を要するのは@人名や地名等の固有名詞、A叫び声や悲鳴、擬態語、B数値等である。これまでに字幕付けをおこなったビデオでは、とくに問題は起きていないが、今後、講義によっては特殊な用語が出てくるようなビデオにおいては、その分野に詳しい当該の教員がテキスト・ファイル作成にも携わる必要がある場合も出来することも予想される。 工程4:次に、EDIUSを再び起動させて、ビデオを再生しながら、工程3で作成したテキスト・ファイルを、字幕(タイトル・クリップ)として時間軸にあわせて画面にはめ込んでいく。通常2行、20文字程度に調整されたテキスト・ファイルを“タイトル・クリップ”にコピーをした上で、発声・音のタイミングにあわせながら、タイムライン・ウィンドウの所定の位置にはめ込んでいくのである。  図1aは、作業中のPCのスクリーンだが、左上は字幕の文章を入力したテキスト・ファイルの画面、右上は編集結果の画面が再生されているタイムライン・モニタ(レコーダーともいう)、下半分は時間軸上にクリップやタイトル・クリップを配置するタイムライン・ウィンドウが開いている。また、図1bは、タイトル・クリップを作成・修正する際に、タイトル作成画面を開いて作業している画面である(図1b)。  こうした作業を模式図化すると、ちょうど紐のように直線的に進行する素材クリップの下に、タイトル・クリップがテキスト・ファイルの文字を染め抜いたのれんのように、ぶら下がっていくような作業となる(図2)。そして、この“紐”とそれにぶら下がる“のれん”のセットが、“プロジェクト・ファイル”として、タイムライン・モニタの画面にまとめられて再生される。  台詞等が少ないと、およそ1時間の作業で15〜20分程度のビデオテープに字幕を付けることができるため、45分のビデオ教材の場合、およそ3時間が必要となる。なお、学生による有償ボランティアは主としてこの工程(4)にかかわっている。学生ボランティアについては、専用のメーリング・リストによって連絡、各自、都合が良い時間帯にユニバーサルデザイン教育研究センターで作業をおこなうこととしている。  それでは、実例として図3を見ていただきたい。例えば、図3aと図3bはNHKの番組で収録されたODA関係のパネル・ディスカッションでの発言を字幕としたものである。一方、図3cと図3dはナレーションを字幕にしたものである。  発話がはっきりしない場合や、子どもの歓声や悲鳴等は表記に工夫を凝らす必要がある(図4a、図4b)。さらに、ヒトの発話だけでなく、背景からの音等についても、内容と関連するかもしれないと判断したものは、(違和感が生じないように配慮しながら)できるだけ字幕化をおこなった(図4c、図4d)。こうした音については、図4にあるように、( )内で表記する形で再現することとした。     音楽については、擬音で表現することも考慮した。しかし、擬音は個人の主観によって左右されるため、違和感を醸成する危険性が強いこと、そして何よりも擬音を作成する作業にかなりの時間を費やすこと等から、音楽に擬音を用いることを避けて、BGMがとくに目立つ場合にかぎり、(♪音楽♪)、あるいは(♪オープニング・テーマ♪)等の字幕を入れるにとどめた(図5a、図5b)。学習支援という立場からは、このあたりが限界であろうと考えている。これらの作業はビデオの内容によるが、45分のビデオ教材の校正に、5時間程度が見こまれる。 工程5:工程4の作業の終了後、再びEDIUSを使って、“プロジェクト・ファイル”を再生させながら、字幕の誤記を再度チェックするほか、字幕と音声の同調を調整する。こちらも相当の時間が必要である(表1を参照)。 工程6・7:校正がすんだ“プロジェクト・ファイル”からビデオデッキに出力して、DVテープにコピーする(45分)。DVテープをさらにVHSテープ等にダビングして、担当の教員に渡す(45分)。  このような工程を経るため、表1では映写時間が45分のビデオ教材の字幕付けには最長で約16時間とみこんでいる。もっとも、工程1・6・7の約2時間は単純作業に過ぎず、実質的な作業は14時間弱である。したがって、1日7時間の作業とすれば、まる2日の作業となる。もちろん、作業時間は教材の内容で左右される。職業的なアナウンサーによるナレーションは発音がきわめて明確であるため作業が楽だが(図3aが該当)、一般の方々の発話は聞き取りにくく、また文法等にも必ずしも沿ったものでないものが多い。このため、字幕用のテキスト・ファイルの作成にあたって、発話の把握、それを文字情報に変換するための作業時間(工程3)と、ビデオ画面の校正(工程5)に相当な時間を割く必要が出てくる。また、NHKの「クローズアップ現代」のようにキャスターや出演者が早口で話す場合、あるいは講演会等の記録テープで講演時間中ずっと発話が続くような場合は、発話量が多く、字幕付けにも相当の時間が必要となる(図3bが相当)。そのあたりは、誤植ミスの除去と対費用効果のトレードオフとならざるをえない。  一方、ビデオ教材によれば、外国語あるいは一般人の発話についてあらかじめ字幕が付けられているものもある。このような場合は、屋上屋を重ねないように、字幕付けをおこなわないので、実際の作業時間としては意外に短くなる。 U−3.字幕のスタイルについての諸課題  字幕付けの基本的方針として、@すべての発話を省略することなく字幕付けする、さらにA字幕の掲示は実際の発話のタイムラインにあわせるものとした。当初は、すべての音声情報を(聴者の学生にもあまり違和感を持たせないで)字幕化できるかどうか危ぶまれた。しかし、実際に試行すると、ほとんどすべての発話をさほどの違和感を生させずに、画面に入れることができた。  また、字幕付けを始めた当初は、句読点を付けていたが、途中からNHK等のテレビでの字幕にならい、句読点は原則として使用せず、半角分のスペースを開けることで表現することとした。なお、表2でおわかりのように、音声認識ソフトのドラゴンスピーチも句読点入力機能を有している。このため工程3では、句読点を一つの目安に改行などをおこなって、文章を切りそろえたのち、句読点を半角スペースに一括変換することで処理している。  字幕の字体も様々に試したが、現在はMS UI Gothicで黒の縁取りがついた白い字体で、サイズは22ポイントを基本としている。画面には二行、16〜20文字程度を目安とした。しかしながら、実際には単位時間あたりの発話量に応じて、適宜、サイズで調整したり、やむを得ない場合は3行で表記することもある(図6a)。なお、映像画面にはじめから字幕が付いている場合、新たな字幕が重なって画面が見にくくなってしまう、と危惧されるケースもあった(図6b)。いずれにしても、このあたりは障がいを持つ学生への情報保障と、映像作品としての違和感を最低限にすることへのトレードオフであり、本研究の場合は基本的に情報保障を優先することとした。  一方、英語のビデオ教材を字幕化する場合は、ネィティブ・スピーカーによるテキスト化が必須である。2006年春学期までに字幕付けしたビデオ教材36本のうち、英語教材が3本含まれているが、この3本については担当教員のS. Ross教授が音声認識ソフトのドラゴンスピーチ7Professionalで英語入力による文字変換をおこない、作成したテキストを使用した(図7a、図7b)。これらの教材に関しては、字幕付け後、実際の授業でもモニタリングを行った結果、日本人学生は英語の読みとりに時間がかかり、日本語字幕と同じようなタイムラインだと、すべての英文を読みとる時間的余裕に乏しいことが判明した。このため、英語教材では、字幕の掲示時間を発話の前後にも延ばして、学生への便宜を図った。 V.考察および今後の課題 V−1.学習支援の中の位置づけ  ビデオ教材の字幕付け、というきわめてテクニカルなことを述べてきたが、ここであらためて確認したいのは、字幕付けは教育の一環、つまり教材を利用したFD(ファカルティ・ディベロップメント)の一手段である、という点である。また、この立場に立つ限り、字幕付けにまつわる法律的問題、すなわちベースとなる映像作品の著作権侵犯に関しても、「教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における使用に供することを目的とする場合には、必要と認められる限度において、公表された著作物を複製することができ」(第35条)、かつ「放送され、又は有線放送される著作物について、専ら聴覚障害者の用に供するために、当該著作物に係る音声を文字にしてする自動公衆送信(略)を行うことができる」(第37条の2)との記述に沿った運営が可能であると考えられる。  2005年度から着手したビデオの字幕付けという学習支援を振り返ってみると、(他の支援と同様に)手本もアドバイスもなく、手探りの状態で進めてきた(学生ボランティアへの講習も、ほとんどOJTの形をとった)。そのため、教育上での位置づけ等を省みる余裕もなかったわけだが、強調すべきことは、教材について教育的責任を持つのは担当教員にほかならず、字幕付けも、当該教員が授業において目標とする学生へのサービスの向上(授業内容のスムーズな理解を助ける)の一環であるという基本方針である。その基本方針の確認があってこそ、字幕付け作業も障がいを持つ学生への支援につながっていくはずである。  2006年度には一部の授業においてビデオ使用について教室で陪席して、実際に観察する機会を得ることができた。とくにRoss教授の授業では、ビデオ教材の使用形態をつぶさに観察すると同時に、授業での観察をもとに、字幕のスタイル等について改良する機会も得ることができた。このように授業の担当教員のみならず、支援に携わる教職員、学生ボランティア、障がいをもつ学生、聴者の学生等様々なステークホルダーのインターアクションこそ、今後の学習支援に重要な要素となるであろう。教員はたんに便利なシステムとして字幕付け(あるいは他のノートテイク等も含めて)を利用するだけでなく、上記のステークホルダーに絶えず情報を還元しながら、自らの授業もまた改善していく姿勢が望まれるのではなかろうか。 V−2.現行システムの評価とアーカイブ化、ネット配信の可能性  我々が試行しているシステムは、ビデオキャプチャ時に再生される音声を作業者が復唱することで、テキスト・ファイルの原型を作成するという点で、時間的な効率性をかなり向上させているものと思われる。というのも、実際の作業では、画面に貼り付けるテキスト・ファイルを作成することに(いわゆる“テープ起こし”の作業)、多大な時間と労力を必要とするからである。今後、IT機器やソフトの向上によって、作業時間はさらに短縮するものと思われる。また、プロジェクト・ファイルを保存しておけば、修正作業がいつでも可能なことも大きな利点である(ただし、プロジェクト・ファイルは主にaviファイルが大きな容量を必要とするため、大容量のHDDを利用しても、なお、すべてを保存するのは難しい。こうした点は、IT機器のさらなる発展を期待したい)。  現在、作成したビデオ教材は、@VHS/DVDの形で当該の教員の手元に保存、AVHSテープとDVテープの形で総合政策学部ユニバーサルデザイン教育研究センターが保管(前者は神戸三田キャンパス自立支援課で障がい学生への貸し出し等もおこなっている)、Bユニバーサルデザイン教育研究センター内のHDD内にaviもしくはmpeg形式で保管等様々な形で保存されている。とくに電子ファイルの容量については、avi形式では上映時間18分21秒の「写真は何を写してきたか?」のファイルは4.07GBになり、1分間の映像にほぼ0.22GBが必要であることがわかった。これに対して、同じファイルをmpeg形式で保存すると982MBに圧縮できた。さらにwmv形式では14.9MBまで圧縮できた。ここまで圧縮するとフル画面表示では画面が粗いが、例えば、障がいをもつ学生がE-learning的に授業外でもアクセスして内容の再確認をおこなう、等には充分かもしれない。  このように増加しつつあるテープ/ファイル等の教材について、しかるべき形でアーカイブ化するとともに、必要とする教員・障がいを持つ学生へ提供するシステムを構築すべきであろうと思われる。この作業は、たんに学部レベルにとどまらず、関西学院大学、あるいは障がい学生への学習支援に関心を持つ他の大学との連携によって、字幕付け資料を蓄積していくことが考えられる。とくに、デジタルデータとしての特質を活かして、電子情報としてサーバーに蓄積するとともに、ネット配信などで必要とする教員・学生に対して配給するシステムも考えられる。ただし、これはあくまでも現行の著作権法(Appendix)の範疇で対処しなければならない。学内においても、障がい学生に関係する教職員、そして障がい学生本人が必要に応じてアクセスして、教材として利用できるというシステムの構築が必要と思われる。 謝辞:ユニバーサルデザイン教育研究センターの活動については、2004〜05年度関西学院大学共同研究(一般研究B)「聴覚障害者に対する学習支援体制に関する研究」、2005〜06年度「大学における視聴覚障がい者に対する学習支援スキルの開発研究」による補助をいただいた。また、実際の活動において、総合政策学部の教職員の方々、また数多くの学生ボランティアの方々にご協力いただいている。記して、感謝の意を表したい。 引用文献 秋山なみ・亀井伸孝、2004『手話でいこう』ミネルヴァ書房。 佐野(藤田)眞理子・吉原正治(編)、2004『高等教育のユニバーサルデザイン化』大学教育出版。 白澤麻弓・徳田克己、2002『聴覚障害学生サポートガイドブック』日本医療企画。 高畑由起夫・小野田弘之・植田幸利・星かおり・久保田哲夫・細見和志・中條道雄・窪田誠・渡部律子・井垣伸子、2005「障がいを持つ学生への学習支援(1)総合政策学部における位置づけ」『総合政策研究』21:143-155。 高畑由起夫・星かおり・小野田弘之・植田幸利・達城亜未・吉田貴司・土橋晋作・久保田哲夫・細見和志・中條道雄・窪田誠・渡部律子・井垣伸子、2006「障がいを持つ学生への学習支援(2)PCノートテイクの実践について」『総合政策研究』22:127-143。 吉川あゆみ・大田晴康・広田典子・白澤麻弓、2001『大学ノートテイク入門』人間社。 オンライン資料 「国立大学における身体に障害を有する者への支援等に関する実態調査報告書」 www.kokudaikyo.gr.jp/active/txt6-2/h13_6.html (2005年12月21日閲覧) 「障害学生サポート制度」 http://www.nagano.ac.jp/cumpuslife/index.html (2005年12月21日閲覧) 「ノートテイクによる授業保障」 http://www.jasso.go.jp/tokubetsu_shien/notetake.html (2005年12月21日閲覧) 「筑波技術大学ホームページ」 http://www.tsukuba-tech.ac.jp/(2005年12月21日閲覧) Appendix 著作権法(本稿に関係すると思われる第35条と第37条を抜粋) (学校その他の教育機関における複製等) 第35条 学校その他の教育機関※1(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における使用に供することを目的とする場合には、必要と認められる限度において、公表された著作物を複製することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。 2 公表された著作物については、前項の教育機関における授業の過程において、当該授業を直接受ける者に対して当該著作物をその原作品若しくは複製物を提供し、若しくは提示して利用する場合又は当該著作物を第38条第1項の規定により上演し、演奏し、上映し、若しくは口述して利用する場合には、当該授業が行われる場所以外の場所において当該授業を同時に受ける者に対して公衆送信(自動公衆送信の場合にあっては、送信可能化を含む。)を行うことができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。 ※1 構造改革特別区域法(平成14年法律第189号)第12条第2項に規定する学校設置会社の設置する学校を含む。 (平15法85・見出し1項一部改正2項追加) (点字による複製等) 第37条 公表された著作物は、点字により複製することができる。 2 公表された著作物については、電子計算機を用いて点字を処理する方式により、記録媒体に記録し、又は公衆送信(放送又は有線放送を除き、自動公衆送信の場合にあっては送信可能化を含む。)を行うことができる。 3 点字図書館その他の視覚障害者の福祉の増進を目的とする施設で政令で定めるものにおいては、専ら視覚障害者向けの貸出しの用に供するために、公表された著作物を録音することができる。 (平12法56・1項一部改正2項追加3項一部改正) (聴覚障害者のための自動公衆送信) 第37条の2 聴覚障害者の福祉の増進を目的とする事業を行う者で政令で定めるものは、放送され、又は有線放送される著作物について、専ら聴覚障害者の用に供するために、当該著作物に係る音声を文字にしてする自動公衆送信(送信可能化のうち、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力することによるものを含む。)を行うことができる。(平12法56・追加) 図の説明 図1.作業中のPCのスクリーン。(a)字幕の文章を入力したテキスト・ファイルの画面(左上)、タイムライン・モニタ(右上)、タイムライン・ウィンドウ(下半分)の3つの画面が開いている。(b)タイトル・クリップを作成するためのQuick Titlerの画面 図2.プロジェクト・ファイルの模式図。時間軸にそって映像ファイルが配置され、そこに個々の字幕を入力したタイトル・ファイルが付けられる。そして、この全体がプロジェクト・ファイルとして、タイムライン・モニタ(図1参照)に字幕付けされた画像として再生される 図3.字幕付けされた画面。(a)司会の発言、(b)シンポジウム参加者の発言、(c)ナレーション、(d)同じくナレーション 図4.話し言葉以外の発声や音。(a)子どもの泣き声、(b)子どもの歓声、(c)鳥の鳴き声、(d)水が流れる音がしていることを表示 図5.音楽等について、(a)音楽がなっていることの表示、(b)楽器の音の表示 図6.(a)発話が早くて、字幕が3行になってしまった場合、(b)番組にもともと付いていた字幕と、我々が付けた字幕が重なってしまった場合 図7.英語の字幕の例 ?? ?? ?? ?? 1