三田でエコツアー?

戦後日本は急激な経済成長から各地で工業化、宅地化が進み山林は減少したものの、山間地域はもちろん、大都市郊外でも未だ多くの自然が残されています。ここ関西学院が位置する三田市も近年大都市大阪、神戸のベッドタウンとして宅地開発が進められてはいますが、ひと足市街地を離れると緑豊かな風景が広がっています。

この項では三田市におけるエコツーリズムの現状から可能性を扱います。三田市では宅地開発を進めると共に公園整備に力を入れており、市民の憩いの場として、また野外散策の場として広く利用されています。中央公園、三田谷公園などなどある中、特に有馬富士公園は有馬富士の山裾に広大な面積を有し、また園内に自然学習センターという施設も設けて三田の自然環境について学ぶ事ができるようになっています。

さて肝心のエコツーリズムについてですが、市の環境課、観光課、さらに自然学習センターに問い合わせた所、三田市ではエコツーリズムに関連する観光、またそれを扱った施設や、エコツアーを推進するような組織もないそうであり、かなり立ち遅れた状況にあるといえるようです。しかし三田にはエコツーリズム推進に多くの利点があるのではないかと私たちは考えました。

ではどのようにエコツーリズム推進を三田で行えばよいのか、私たちは将来展望に期待を含めてシミュレートしてみました。

◆三田の農村文化
まず1つ目の利点として三田には
農村文化があり、また観光資源が豊富にあるという事です。三田東部・北部は有馬富士、羽束山等自然散策やハイキングに適した環境でまた同方面は80〜90年代のニュータウン建設の影響を受けず、のどかな農村風景が残されており、ところによれば藁葺きの家屋も点在しています。エコツアーを行うにあたり、住民の方に周辺の山林の散策のガイドをして頂く、農作業を体験させて頂く、また農村文化をよく知る為に体験宿泊をさせて頂くなどが考えられます。

これは行政自治体が仲介役として住民に協力者を募り、同時にエコツアー参加者へも利用を募るという方法が考えられます。利用者は快適に散策を行う事ができ、住民から農村生活での様々な事を学び知る事ができる、つまりより詳しく、身近に農村文化が体感できるという事です。住民の方も協力する事で収入が得られますし、また農業の休閑期にサイドビジネスとして行ってもらうのもよいのではないでしょうか。また単に住民から利用者へ一方通行に情報を供給するだけではありません。利用者のみならず住民の方も利用者と交流する事で 、都市文化について色々知る事もできる、都市と農村の交流の場となるインタラクティブ(相互作用的)な活動になればよいのではないかと考えます。

また観光資源も豊富で食品としてはシイタケ、マツタケ、三田牛等、工芸では三田青磁、立杭焼等があります。立杭焼の窯元では一部実際に観光客が体験製作できるようになっていますのでエコツアーのワンポイントとして加えるとまたツアーの魅力が増すかと考えます。また三田市周辺では有馬温泉、武田尾温泉、鹿の子温泉といった温泉がありますのでエコツアーの帰りに立ち寄るというのもプランとしてよいでしょう。

◆都市近郊に位置する三田市
そしてもう一つの長所は大阪、神戸の
大都市に近いという事です。どちらも多くの人口を抱える都市ですので集客が期待できますし、鉄道で1時間足らずという距離ですので非常に便利です。ですから週末、休日に気軽に訪れ、日帰りのツアーも可能な訳でとてもお手軽にエコツアーを行う事ができます。

◆私達が提案するプラン
さて、以上のように三田のエコツアーにおける利点を列挙してきましたが私たちはエコツアーをさらに充実させるプランとして次の2つのプランを提案します。

一つは
農産物オーナー制の推進です。農産物オーナー制とは山や畑をレンタルして農作物を客が自分の手で栽培し収穫するというものです。既に三田市上槻瀬農業生産組合によって棚田でのもち米やうるち米栽培のオーナー制度が行われておりますが、利用客の選好に応えられるようにさらに品目を増やし開催地を広く設ける事が必要かと考えます。品目としては先に触れた三田名産の丹波黒豆、マツタケ、シイタケなどが適当ではないでしょうか。

もう一つ、私たちが提案するのはエコツアー参加者へ向けた電動機付レンタルサイクル配備です。ツアー参加者が三田を訪れて実際ツアーを行う場合、移動のためになんらかの交通機関が必要になります。自家用車やバスなどが便利ですが、エコツアーを行うにあたり何分環境に悪い事はできる限り避けたいものです。そこで私たちが最良の交通手段として薦めるのが電動機付レンタルサイクルです。まず比較的環境に優しい鉄道で三田へ来て頂き、駅からはレンタルサイクルを利用しエコツアーをして頂くというものです。そしてなぜ電動機付であるかといいますと、三田は盆地にあるために坂道が多く普通の自転車では登りが大変です。電動機付であれば、この問題を解消できてあと排気ガスも発生しないため環境を汚す事がありません。実用化の為には既存の駅前レンタルサイクル施設の整備はもちろん、エコツアー目的地、農村部で充電や故障などに対応できる施設の設置が必要だと考えられます。

どちらを始めるにしてもまず行政のバックアップ行政と民間(地元、企業)一体でエコツーリズムを推進して行く組織を作ることが肝要です。それは けっして目新しいものではありません。例えば沖縄県東村では以前から官民一体の「東村エコツーリズム協会」が組織されておりエコツーリズム実践に様々な試みがなされています。三田はもちろん、あらゆる地域でもゆくゆくはエコツーリズム推進組織が設けられてエコツアーを人々に紹介していくと同時に、組織間同士でそれぞれが行った試みや経験から得たノウハウを基に共同研究を行い、いわゆる「横の繋がり的な」交流がもたれるようになるのが望ましいでしょう。そしてそれは相乗的なエコツーリズムの進展へと導くものではないでしょうか。

◆エコツアーの運営
それでは次にこの項のまとめとして、実際にエコツアーを立ち上げ、運営していくならどうするべきかをシュミレーションします。

さきほどから行政のバックアップの必要性を強調していますが、比較的知名度・規模の点で小さな地方自治体が行う新事業を行うにあたって、国の「お墨付き」があるのとないのとでは企業のその事業に対する信頼度に雲泥の差が生まれることは否めません。国がバックについていることにより地元企業は安心してこの事業に協力することができます。ただしエコツアーを中心になって推進するのはあくまでその地域の自治体です。その自治体の中から人材を募って組織される、いわゆる「ブレーン(ここでは便宜上“研究会”と呼ぶことにします)」が大きな役割を果たします。以上を踏まえた上で、一つのエコツアーに関連する全てのセクターの相関を図にあらわすと、次のようになります。


それぞれの矢印は

@ 専門家や大学から研究会へ人材・知識を提供
A 商工会から研究会へ提言・意見具申
B 地方行政・自治体から研究会へ顧問派遣・金を提供
C 地方行政は受け入れ先(農家など)に協力を募集
D 地元有識者が参画者として研究会に協力
E 地元の企業は研究会に参画者・金を提供
F 研究会は他の地域の研究会と提携し、定期集会などで意見・情報を交換
G 国・地方行政はエコツアーをバックアップし、これを広くPRする
H 研究会はエコツアーの内容を提示し、また充実化をはかる
I 受け入れ先は宿泊先の提供などによりエコツアーに協力
J 受け入れ先はエコツアーにより収入を得る(宿泊費など)
K 企業は施設の貸与などによりエコツアーに協力
L 企業はエコツアーにより収入を得る(施設利用費)
M 国はエコツアーについて都市の自治体にPR
N 都市の自治体はエコツアーについて旅行代理店にPR
O 旅行代理店はエコツアー参加者を募集
P 観光客はエコツアー中にお金を地元におとす
Q 旅行代理店は地元の企業が提供する施設の利用をツアーに組み込む
R 研究会は国・地方政府に研究成果の報告をおこなう


となっています。また、この他研究会は定期的に研究の成果を全てのセクターに報告することが求められます

これは私達の考えるエコツアー運営の理想的なスタートのかたちです。

立ち上げの段階では国や自治体のバックアップにより、運営資金援助、また組織としての信用が与えられます。そして研究者、地元住民、地元企業、旅行代理店にPRや参加協力を行っていき研究会組織としての枠組みを充実させていきます。組織運営、ツアーとしての形が完成次第、ツアー参加者を募り、実際にエコツアー運営をスタートさせます。運営が軌道に乗り、収入が見込めるようになれば、利益への期待から企業や地元住民等がより積極的な協力を行ってくれるものと考えられます。また運営が安定すれば企業の融資が見込める為に立ち上げ段階で必要だった、国や自治体からの運営資金提供に頼る必要がなくなります。これはまさに「エコツーリズムの3つの目的」の項で述べた内発的観光開発の形態であり、エコツアーとして望ましいものであるといえます。

三田でのエコツアー、研究会の運営が成功を見たのちは次のステップとして、エコツアーが行える環境であるもののまだツアーが行われていない他地域でのエコツアー組織づくりを行います。留意すべきは新たな組織づくりはその地域住民や企業などが自発的にエコツアーの導入を希望し、研究会設立を希望する場合に設立協力を行うべきである事です。それはその地域の事情や環境を最も熟知している地元住民、地元企業の意向が最も尊重されるべきですし、エコツアー推進、研究会設立は
「支援」であるべきで「強制」であってはなりません。然るに実際に設立支援を行う場合、組織運営はその地域関係者主導で行い、必要な既存の研究会で得られた知識、経験、ノウハウを提供していき、また運営に携わる人材なども供出してその地域が自らの意志でエコツアーを立ち上げていくのをバックアップしていきます。


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