リサーチフェア2002
2.潜在能力という指標
−人間の豊かさを問うアプローチ−

2-10.潜在能力と福祉的自由

 ここで一つ注意することは,機能の水準は問題ではなく,潜在能力の豊かさ(機能の選択範囲の広さ)が福祉的自由を左右する,ということである.例えば,同じ「お腹が空く」という状態でも自らが自律的・責任的に断食を選択するのと(例:ダイエット,宗教儀式など),環境面などにより選択の余地なく食を得れずに断食状態にあるのでは,福祉的自由の観点からは異なった評価を得るべきである.そして,この比較は個人間比較であり,効用の指標に基づくものではなく個別的な多様な生き方や在り方,つまり機能の指標に基づいている.また,機能の選択範囲の広さに注目していることによって,自由という重要な観点をも捕捉している

 福祉的自由を豊かにすること,言い換えれば,潜在能力を豊かにすることは可能なことであるが,その可能性の範囲を制約するものは多々ある.例えば,身体的・精神的・環境的条件など様々な自然的・社会的偶然性から人々は完全に自由にはなれない.特に,同量の基本財があったとしても,特別の介護を必要とする障害者や高齢者はより不遇な状態に置かれることを回避できないだろう.このような個人的格差を自律的・責任的な選択に帰着させても問題は解決しない.つまり,不遇な状態を余儀なくされる人々を含めた多様な人々の潜在能力をできるだけ豊かに改善するために,限られた資源をより効率的かつ公正に配分する資源配分メカニズムを考案しなければならない.ただ,今回の発表では潜在能力の概念とその使用可能性について考慮するものであるので,資源配分に関する部分は割愛したいと思う.

 ここまで簡単ながら潜在能力という福祉の指標をみてきた.次の章でGDP指標も含めて特徴をまとめ,付け加えて,潜在能力アプローチのどのような適用が考えられるかを探る.


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