リサーチフェア2002
2.潜在能力という指標
−人間の豊かさを問うアプローチ−

2-7.機能リストの作成の手続き

 先にも述べたが,これらの項目だけでは潜在能力を推計するには不十分であり,また日本や欧米などの先進国における生き方や在り方の潜在能力を推計するには,さらに多くの作業を要しなければならない.ここでの疑問は;

どのような内容をもつ機能のリストを作成すればよいか.
どのような手続きで定めて作成すればよいか.
どのように正当化して作成すればよいか.

 John Rawlsの社会的基本財のリストでは,市民的・政治的な自由,社会的な機会,経済財,自尊の社会的基礎などが社会的な善と捉えている.そしてこれは功利主義的効用や序数主義的効用が放棄した基本的な条件を満たしているものの,個人的基本財については考慮されていない.つまり,この社会的基本財では,多元的な価値を追求する人々が共通に必要とする手段のリストであり,価値を達成するための機会の公正な配分を意味しており,達成された価値の公正な配分に関する議論は含まれていないのである.

 さらに,基本財を機会に変換する能力に関して差が出てくるであろうことをSenは主張した.つまり,変換能力に差異があるので,機会の配分に関しても公正を保障できないと考えられるので,基本財と価値の達成の狭間に存在する両者の関係を規定する要因,つまりSenのいう機能および潜在能力を明示的に考慮する必要がある.基本財を用いて達成可能となる潜在能力を直視することによって生まれるのが潜在能力アプローチであり,人々のNeedsの格差に敏感な理論的アプローチを福祉の経済学の基礎として用いることができるのである.


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