0.問題意識
0-1.
福祉と政策−政策の意義−なぜこのテーマに関心があるかを最初に明確にしておくと同時に,このテーマがどのようなことに関連してくるかを述べたい.
その前に一つだけ言葉に関する注意をしておきたい.本論における「福祉」という言葉は‘well-being’を指しており,満足のいく状態・幸福・生活の質・生活の良さ,つまり暮らしぶりの良さを表し
,福祉政策や福祉サービスを指しているものではない.(池本,1999)直感的に捉えて
人の福祉,いわゆる満足や幸福を明確な数値をもって測ることは不可能である.一方,福祉を順序づけることは可能のようにも思える.例えば,実際の生活の中で「今までで一番うれしい」と思ったり表現したりするようにである.しかし,実際の生活の中で一番嬉しいと思うことは幾度もあり,それらを順序づけようと思えば,実質的には不可能に終わるだろう.以上のような数値の問題や順序の問題を前提に政策を考慮するならば,どのようにすれば人々の福祉が向上するかということは,明らかにすることはできない.そのように根拠がないことを前提として政策は構築され実施されるべきであろうか.その疑問に対して解決の糸口を見出したのが本論で取り上げる潜在能力アプローチであると考えている.