発達障害(学習障害)

◆発達障害の定義と学習機会の保障について

 2005年に制定された発達障害者支援法第2条第1項では、発達障害を「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう」と定義しています。

 なにより重要なことは(1)発達障害は基本的に生物学・医学的要因による障害であり、遺伝性あるいは他の疾患の後遺症によるものと考えられていることです。したがって、(2)本人のやる気の問題ではありあせん。一方、(3)適切な教育をうける機会が得られれば、充分な学習能力を発揮できるとしています。

 この(3)の視点から、同法の第8条では、国・都道府県・市町村は発達障害がある児童の状態に応じ、適切な教育的支援、支援体制の整備その他の必要な措置を講じる必要があること、さらに大学及び高等専門学校は、発達障害がある方に対して、障害の状態に応じ、適切な教育上の配慮をするものとすることがうたわれています。


◆発達障害をもう少し詳しく見ると

 発達障害者支援法の定義からも明らかなように、現実には、多様な症状が含まれており、教育機関には個別にきめ細やかな対応が求められます。独立行政法人国立特殊教育総合研究所の『発達障害のある学生支援ガイドブック』によると、ごくおおざっぱに学習障害、ADHD(注意欠陥/多動性障害)、高機能性自閉症/アスペルガー症候群という3つのパターンに分けられるようです。それぞれの定義ですが、


学習障害(文部省、1999年): 基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。
  学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。


ADHD(文部科学省、2003年): 年齢あるいには発達に不釣り合いな注意力、および/又は情動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたす者である。また、7歳以前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。


高機能自閉症(文部科学省、2003年): 3歳くらいまでに現れ、(1)他人との社会的関係の形成の困難さ、(2)言葉の発達の遅れ、(3)興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害である自閉症のうち、知的発達に遅れを伴わないものをいう。また、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。


 このように、いずれのタイプも“症候群”であり、明確な定義は困難です。また、原因も不明だったり、まちまちです。基本的に心理学的カウンセリングだけでは対応できず、具体的なサポートや周囲の理解が必要であるとしています。


 下の表は、『発達障害のある学生支援ガイドブック』に掲載されている注意すべき学生の行動特徴です。各項目はごくありふれていて、誰でもあてはまる部分がありますが、それが自他の学生生活に困難を生じるような状況になっている場合、発達障害を考慮する必要があるとのことです。

学習面 行動生活面
講義中にノートをとれない。とったノートも不正確だったり、間違っていたりする。 気が短く、ストレスや欲求不満に耐えられない。
通常の科目は得点が獲れるが、語学は頑張っても得点が低く、単位がもらえない。 思いこみが激しい。
周りの音が気になって、講義中に教員の話が頭に入らない。 約束の時間をよく忘れる
レポートの提出を忘れることが多く、規定の単位が取れない。 講義予定や部屋などが突然変更になると、許せない。
同時に二つ以上の事ができない。 相手の都合にかかわらず自分が納得するまで質問することを止めない。
作業を最後まで終わらせる事ができず、レポートや報告書が提出できない。 突然に話題を変え、説明が無いまま、新しいことを話し出す。
大学の講義スケジュールを自己管理できない。 相手が嫌な顔をしていても、自分の興味があることを延々と話す。
早口の教員の講義を理解することが難しい。 友人がなかなかできない。
      自分の日課が妨害されると著しく混乱する。
人の話を字義通りに受け取る。
クラスメートや同じサークルの仲間と頻繁にトラブルを起こす。
慢性的な自己不全感や挫折感を訴える。

 以前は、発達障害に対して、教育機関が組織的に対応する事はありませんでした。また、具体的にどのような配慮をすべきか、ということについて“特効薬”的な措置はありません。ただし、実際に診断が下された時、対象の方の多くは「診断を受けて良かった」、(これまでは自分の性格や努力不足だと感じていたが(「障害に起因することがはっきりして、精神的に楽になった」と応えたとのことです(詳しくは日本学生支援機構のHPをご覧下さい)。

 したがって、まず、自他ともに「障害があること」を認識した上で、学習面と社会心理面の双方にどのような支援が可能かを考えなければいけません。極めて具体的なことですが、アメリカの大学で実際に行われている対応(アコモデーション)には、教室内外での学習での補助機器の使用許可、試験方法への配慮、必修科目の振り替え等があるとのことです。以下が、アメリカ等の海外の大学でおこなわれている取組みとのことです

(1)個人の悩みなどに応じるカウンセリングとワークショップ(コミュニケーションなどの社会的スキルの習得、自身の障害の理解や周囲に理解してもらい、自分の権利を主張するスキルの形成などに関するプログラムの提供)の実施

(2)科目履修に関する支援(履修するとよい科目をアドバイスするなど)

(3)学習スキルに関する支援(読み、書きに関する特別授業、個別指導、学習法や学習技術を身につけるプログラムの提供など)

(4)授業や試験におけるアコモデーション(ノートテイカーを利用したり、必修科目を振り替えるなど学生の障害に応じて特別な配慮を行うこと。評価基準は他の学生と同様に取扱いますが、学生の障害特性に応じて評価方法を変えたり、理解しやすくしたりするということ。)


◆IT技術の応用

 こうした発達障害についても、IT技術の応用が有効かもしれません。以下は、マイクロソフト社が言語障害ならびに発達障害について支援技術製品としてあげているものです。
◆マイクロソフト社の言語障害のHP http://www.microsoft.com/japan/enable/guides/language.mspx
◆同社の学習障害のHP http://www.microsoft.com/japan/enable/guides/learning.mspx

◆言語障害

キーボード フィルタ  単語認識ユーティリティや単語チェック、アドオンなどの入力支援が含まれます。これらの製品はキーボード入力の回数を減少させます。キーボード フィルタを使用すると、必要な文字に素早くアクセスしたり、間違ったキーを入力することを防いだりすることができます。
音声入力ソフト  音声認識プログラムとも呼ばれるもので、マウスやキーボードの代わりに音声でコンピュータを操作することができます
画面読み取りユーティリティ  画面上の情報を合成音声に変換し、読み上げている言葉を強調表示するなどして、視覚的な表現と対応させます。画面読み取りユーティリティは、画面に表示されている文章をコンピュータ音声に変換します。目と耳から同時に情報を得ることができるため、言語障害がある方に役立ちます。
タッチスクリーン  PCモニターに取り付け、または、組み込まれ、スクリーンに触れることにより選択や入力を行います。
音声化ユーティリティ (TTS システム)  画面上の情報を文字、数字、句読点に変換し、合成音声で読み上げます。

◆学習障害

単語予測プログラム  ユーザーが予測ウィンドウ内のオンスクリーン リストから希望の単語を選択することができるものです。リストは、コンピュータが生成したもので、ユーザーが入力した最初の 1、2文字から単語を予測します。番号の入力、マウスのクリックあるいはスイッチで選ぶことにより、リストから単語を選択し、テキスト内に挿入することができます。ユーザーはこれらのプログラムにより、文書に関する生産性および正確性を高めることが可能になり、単語に対しての反応を通じてボキャブラリを増やすことができます。
読解プログラム  既存のアクティビティ、ストーリー、エクササイズあるいはゲームを通じて読解力を身に付け、高めることに重点を置いています。ユーザーはこれらのプログラムにより、文字音声認識の訓練を行い、画像、音声、時にはアニメーションなどを追加することにより単語の理解を深めることができます。
読み取りツールと学習障害プログラム  読み取ることが困難な人たちのためにテキスト・ベースの資料をより使いやすいようにデザインされたソフトウェアです。オプションとしてスキャン、再フォーマット、ナビゲーションあるいはテキスト読み上げ機能などが含まれています。これらのプログラムは、従来の印刷された資料の読み取りや操作が困難な人たち、読み書きの能力をさらに伸ばそうとする人たち、あるいは英語を外国語として学習している人たち、また同時に聴覚的、視覚的に強調されたテキストのほうが理解しやすい人たちを支援します。
音声化ユーティリティ (TTS システム)  画面上の情報を文字、数字、句読点に変換し、合成音声で読み上げます。口述でコミュニケーションする能力を失った人たちは、音声化ユーティリティを使用すれば、情報をタイプして読み上げさせることにより、コミュニケーションが可能になります

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