C 「 物 語 」 を 売 る !

 

従来のマーケティング手法では、ただモノを作ってその性能だけを訴えるもの、あるいはそのモノでライフスタイルを提案するというケースは多かったのですが、前者はモノの飽和で、後者は情報の飽和によってもはや消費者は飽き飽きしている状況です。そこでマーケッターの方から見れば新しい需要を創出し、また消費者の視点から見ても失われがちだった自然な欲求を満たされる様なマーケティングのやり方として、「物語」を商品に抱き合わせるというやり方が最近注目されています。

一つの「物語」ビジネスの典型は、東京ディスニーランド(TDL)です。このテーマパークに一歩足を踏み入れると、そこは千葉県の一区画では決してなく、一つの世界観が演出されています。物心ついた人ならここで繰り広げられる物語はまったく虚構であると理解しているはずですが、それでもTDLを何度も訪れる人が多いのは(※TDLのほとんどの入園者は「リピーター」である)、ディズニーの世界という「物語」を経験したいと思うからでしょう。この「物語」を支えているのは、何百ページにも及ぶ接客マニュアルと、園内に縦横に繰り広げられる地下道です。

これに比べて、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)に比較的リピーターが少ないというのは、単にアトラクションの魅力と言うより、テーマパークのテーマパークとしての統一感、つまり「物語」の要素が弱いことが問題だと考えられます。USJはユニバーサルという映画配給会社のテーマパークという求心力しかなく、それぞれのアトラクションが同居していることの必然性はあまり無いように思えます。

また「物語」マーケティングの活用例としてもう一つ、ネットビジネスの例があります。インターネット通販サイトは苦戦しているところが多いようですが、その中にも「物語」つまり商品のできあがるストーリーや、商品に対する店主の思い入れを巧みに紹介して成功させているパターンがあります。メーリングリストで逐一店員の「生の声」を紹介し、また掲示板などで顧客の意見をフィードバックさせるというやりかたで、従来の通販とは明らかに違う市場を開拓したと言えます。しかもそれは単に新しいだけではなくて、ひとの性質に適ったものです。

私たちの印象に残り記憶として定着するのは、単発のバラバラな情報ではなく、なんらかの関連性を持った情報なのです。「物語」が人々に強く求められているのは、ごく当然のことだと思います。

 

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