D き た な い プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン

 

いまビジネスや学問の研究発表の場で、パワーポイント(コンピュータ用プレゼンテーション作成ソフト)を使うのが常識になっています。多分リサーチフェアの口頭発表でも、ほとんどのグループでパワーポイントが使われていると思います。これは従来のOHPフィルムに取って代わる性質のものだとは思うのですが、私の個人的な感想としては、パワーポイントを利用して行われたプレゼンテーションは記憶に残りにくいです。確かにプレゼンテーションを行っている間は、プロジェクタ画面に表示される文字や画像、アニメーションに説得力を感じ、時には魅了されるのですが、それだけです。

パワーポイントが登場した当初は、これを使うということ自体に強烈なインパクトがあったのかもしれません。しかし今のように普及し尽くしてしまうと、食傷気味になってしまったのかもしれません。

商品の宣伝がひとつのプレゼンテーションのかたちだとしたら、私たちは日常の仕事や学問の場でのプレゼンテーション、つまり「パワポ中毒」の現状から何か学ぶこともできると思います。同じく我々は、あらゆる宣伝の表現手法に飽きてしまっています。たとえばテレビCMなら、そこであえてテレビCMという虚構を自己言及してしまうものでさえ、ありがちなパターンと片付けられてしまうようになってしまったのです(たとえば浜崎あゆみの出演する森永ハイチュウのCMのように)。

パワーポイント飽和時代のいま、プレゼンの技術として藤原和博氏や、マーケッターの神田昌典氏が勧めているのは「きたないプレゼンテーション」です。手書きの文や汚い図表を糊で貼りこめられた企画書、広告のほうがきれいにデザインされたものよりも余程印象に残るし、またプレゼンターの思いも伝わりやすいというのです。

CMにしたところで、もはや大企業がマスメディアを利用して消費者の新しい感覚を呼び覚ますのは困難になっています。ごまかしは効かなくなってきています。いま消費者が求めているのはたぶん、地の感覚であり言葉です。それが得られるのはB章で紹介している「クチコミ」を媒介したコミュニティかもしれません。

 

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