◆総合政策学部として、学習支援の目標は何ですか?
障害者基本法の主旨にそえば、大学は教育機関として、障害がある学生に対して、他の学生と平等に学習・研究を行う権利を保障する義務があります。以下は、日本学生支援機構のHPからの引用です(文章を一部改変)。
「入学を許可している以上、障害を含めすべての学生は教育を受ける権利を持ちます。それに対し大学は教育の機会均等を保障するという意識を忘れてはなりません。等しく授業を履修し修得するためには、障がい学生に対し、配慮と必要に応じて様々な対応を行う必要があります。
修学支援は、言い換えると、大学が、すべての学生のために等しくスタートラインを整えることと言えます。必要なサポートを障がい学生含め共に考え、障がい学生の自立と大学として配慮すべき部分とに留意しながらバランスよく取り組んでいくことが大切です」
私達の目標としては、(1)障がい者の視点に立った学習・研究支援体制・方法の開発・施行、(2)包括的な人権教育の一環としての位置付け、そして(3)健常者と障がい者が共生・共感できる社会を創ること等があげられます。つまり、大学教育のユニバーサルデザイン化を目的としています。これらの活動の成果は、障害がある学生以外にも、一般の学生へのFD(ファカルティ・ディベロップメント)の向上にも寄与することが期待されます。こうした問題発見・解決こそ、総合政策学部の真骨頂ではないでしょうか。
◆学習支援にはどのような問題があるでしょうか?
ここでは聴覚障害を例に取りあげてみましょう。
「障がいがある学生にどのように支援すればよいのか?」という問題を解決しようとすれば、いくつものレベルから、具体的な支援策を考えていかなければなりません。
右の図は、この課題について、(1)自然科学、(2)応用科学、(3)社会科学、(4)哲学(価値観・倫理)という4つのレベルから考えてみたものです。
もちろん、現実はもっと複雑に問題が錯綜しているのですが、問題発見・解決のため、とりあえず、ごく大まかにレベル分けしてみようというわけです。
次に、それぞれのレベルについて、もう少し詳しく説明すると、以下のような項目が考えられます。
1.自然科学:聴覚障害では、(1)障害のメカニズムや原因解明や治療法の開発、(2)コミュニケーション科学(例えば、音声認識ソフトでは日本語の発音、音韻・文法構造、単語の連関性等の基礎的研究が必要)等が該当すると思います。
なお、聴覚障害の原因等については、日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)のTipSheet『聴覚障害』(PDF資料)に詳しく紹介されていますので、そちらをご覧下さい。
2.応用科学:(聴覚に限らず)障がい者の方へのサポートを意図した情報機器やソフト類の開発、サポート・スキルの改良、利用学生ならびに学生スタッフへの心理・健康的ケア等です。いわゆるバリアフリー、ユニバーサルデザインの実現のレベルです。
参考資料として日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-JAPAN)のTipsheetを紹介しましょう。このTipsheetとは、高等教育の支援に携わろうとする初心者の方々の疑問にも、的確に応えられるにと考案されたPDF資料です。こちらのPEPNet-Japan Tipsheet集のページにまとめて掲載しておりますので、是非、ご覧下さい。例えば、支援方法についてはTipSheet『情報保障の手段』(PDF資料)、文字を使った支援についてはTipSheet「文字による支援方法」(PDF資料)、利用している学生への心理的サポートおよび学生スタッフの健康等についてはTipSheet『通訳者の健康障害とその対応』(PDF資料)等が、初心者の方にもわかりやすく解説しています。
なお、視覚障がい者支援のための情報機器には、点訳ソフト、書類・写真等を拡大・コントラストを高める拡大読書器、パソコン画面の情報を点字情報に変換して表示する点字ディスプレイ等があります。ソフトでは、パソコン画面の情報を音声で読み上げる画面読上げソフト、パソコン画面の情報を拡大する画面拡大ソフト、スキャナで印刷物や写真などを読み込ませて文字情報を音声で読み上げたり、拡大読書器と同じように文字を拡大するなどの機能を併せ持つ活字音訳・拡大読書ソフトなどがあります。
また、聴覚障がい者支援のための情報機器として補聴器、ノートテイク支援用ソフト、音声認識ソフト等が挙げられます。
3.社会科学(法、経済、社会、政策):(1)学習支援システムをどこまで公的なものとして整備するか? (2)財政的裏付けと費用便益判断、(3)法的整備(条文に関する電子政府や厚生労働省のHP;、障害者基本法http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S45/S45HO084.html; 身体障害者福祉法http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S24/S24HO283.html; 障害者自立支援法http://www.mhlw.go.jp/topics/2005/02/tp0214-1c1.html)、さらに合衆国でのADA法、イギリスでのDDA法の改正等)、(4)学習支援での情報管理やルール・倫理面の整備(例えば、個人情報保護や著作権)、最後に(5)これらの活動がファカルティ・デベロップメントの発展に貢献する可能性、あるいは教育効果がある可能性の検討等があげられます
4.哲学(価値観・倫理等):健常な学生にも「こうした学習支援こそが、本来あるべき大学(さらには一般社会)の姿である」ことを自覚させることで、社会を改善していくことが究極の目標です。とくに、高等教育における学習支援の必要性について先ほども紹介した日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)によるTipSheet『高等教育における聴覚障害学生支援』(PDF資料)に詳しく触れられています。
当然、一つの現象をとっても、医学的な視点と法的な視点とずれがでてくることもあります(聴覚障害の例)。