PCノートテイクマニュアル

(2007年度版、文章を一部修正・略)

T.ノートテイクに関する基本
T-1.「聴覚障害」について

 音の聞こえに関する部位に何らかの障害があり、音が聞こえない、聞こえにくいなどの状態を「聴覚障害」といいます。ひとくちに聴覚障害といっても、聞こえの程度や聞こえ方はまちまちで、みながまったく聞こえないというわけではありません。
 聴覚障害は障害の部位により、大きく伝音性難聴(音が小さく聞こえる)と、感音性難聴(音が小さく聞こえたり、途切れたり、ゆがんだり、高音だけが聞き取りにくかったり)の二つに分けられます。これら二つが合併した混合性難聴の場合もあります。(聴覚障害についてより詳しく知りたい方は、日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)のTipSheet『聴覚障害』(PDF資料)
に詳しく紹介されていますので、そちらをご覧下さい。

 聴覚に障害がある方は、手話通訳あるいはノートテイクによってはじめて、健常者と同じ情報を得て授業に参加できるようになります。ノートテイクでは、障害がある学生はノートテイカーによる情報をもとに自分でノートをまとめることができることを目標としています。

*:以後、「障がい学生/者」等のように“障がい”という言葉が人に直接係っている場合は、“障がい”という言葉を使います。それ以外の場合は、“障害”と標記することにします。



T-2.ノートテイクは“通訳”です

 ノートテイクとは話の内容や、その場に起こっている音(学生の発言や、教室内の雑音なども含みます)を文字にして、利用学生(以下、利用学生と略)に伝える通訳のことです。そこでは、聴覚障がい者の耳の代わりをする同時通訳であると同時に、雑談もほかの生徒とのやりとりもきちんと書くのが理想的です。



U.ノートテイカー(ボランティア)スタッフについて
U-1.ノートテイカーの募集・資格


 ノートテイカーについては、他の学習支援ボランティアと同様に、各学期の開始前に募集をおこないます。その際、どの種類のボランティアに応じるのか、事前に登録していただきます。利用を希望される学生の方には、学期開始前に履修希望をご提出いただき、登録スタッフの中から、相互の時間的な都合などを調整の上、暫定的に担当科目を決めます。ただし、利用学生の履修科目が最終的に確定するのは学期開始から約1週間後ですから、この間、多少の変動・それにともなう調整がある可能性がありますが、その点は、あらかじめご了承下さい。

 なお、現在、政策トピックスAにおいて、要約筆記講座をおこなっています(春学期)。これは基本的に手書き筆記による要約筆記について、学外からボランテイア団体をお招きして、講師をお願いしています。スタッフ登録される方は、事前にこの講座を受講されることをお奨めしますが、登録の必須条件ではありません。その代わり、学期開始前に始めて登録される方々等を対象に、講習会を開きますので必ず出席してください。


U-2.ノートテイカーと科目の関係、とくに同時履修について

 ノートテイカーは、まず、当該の授業を既習された方が担当するのを原則とします。ただし、ノートテイカーの確保が難しい場合、未修の方でもお願いすることがあります。また、ノートテイクと当該の授業の履修を同時にはできないことを原則とします。ただし、例えば3年次以降の授業等のためにノートテイカーの確保が困難な場合あります。このようなケースでは同時履修を可能とします。したがって、以下の優先順位で調整することになります。
 @当該科目の既習者
 A当該科目を既習していないが、履修していない方
 B同時履修者


U-3.スタッフとしてのノートテイカーの留意点

 ノートテイカーが、通訳内容のデータを個人的に保有することはできません(詳しくは後述)。筆記のメモの場合は、利用学生が必要としない場合は、各自の責任のもとに破棄して下さい(第3者の学生への譲渡等は厳禁です)。

(1)スタッフ登録後、メーリング・リスト以下MLに略)を2つ整備します。主な連絡・情報交換用のPCのMLと急用・急病等、緊急用のMLの2つです。障がい学生やスタッフの方々は、スタッフ間の情報・意見交換の場としてもご利用下さい。

(2)担当スタッフは科目について責任をもって通訳してください。万一、当日に何らかの事情で欠席(早退/遅刻)する場合は、必ずキャンパス自立支援課(担当:星[cjo39286@kgo.kwansei.ac.jp])まで連絡してください。また、その際、レスポンスの確認もお願いします。
 とくに1限の授業の場合は、代役を見つけるのは非常に困難なことが多いので、スタッフの方々はご担当の科目について、午前中の授業に支障が起きる場合は、できるだけ早め(できれば前日)にご連絡いただければ幸いです
 なお、キャンパス自立支援課の方で可能な限り、代替者を探しますが、そうした場合には、スタッフの皆さんの積極的な反応をお願いします。

(3)通訳内容および守秘義務
 ノートテイカーが、通訳内容のデータを個人的に保有することはできません(詳しくは後述)。筆記のメモの場合は、利用学生が必要としない場合は、各自の責任のもとに破棄してください(第3者の学生への譲渡等は厳禁です)。


V.ノートテイクの実際

V-1.基本的な方法とチーム構成
  総合政策学部では、PCノートテイクと筆記ノートテイクの組み合わせという方法をとっています。まず、入力用のPCとモニター各1台を用意して、2名のノートテイカーが入力した文章をケーブルでモニターに出力します。さらに、筆記ノートテイカー1名がそれを補足します。<BR>
 したがって、計3名(PCノートテイカー2名と筆記1名)がチームを作ります。もっとも、授業内容や、利用学生の希望によってこれより少なくなる場合もあります。

V-2.ノートテイクの方法

 PCノートテイクでは、筆記に比べて、@多くの情報をリアルタイムで伝えられる(筆記(毎分約70文字)と比較して、毎分100〜180文字打てる)。A情報をコンパクトな媒体に記録できる。B情報を容易に加工できる、などの特徴があります。PCの操作は、15分で交替してください。
 一方、 PCノートテイクだけだと、モニター画面に先生の音声のみがうつしだされるため、例えば、レジュメや板書と見比べることに困難さを感じるようです。そのため、筆記によるノートテイクによって、PCでは伝えにくい図表、あるいは数学の式等の情報を伝えます。
 理想としては、余分なところや雑談なども含めての全文筆記が目標です。聴覚障害の方は授業内容だけではなく、「他の人がなぜ、ここで笑ったのか?」などの付加的な情報も把握できないことが多いためです。しかしながら、タイピングが追いつかない場合などは、正確な情報を正しくつたえることを優先させて、要約してください。
 なお、板書ですが、利用学生本人が板書を書くのが基本で、ノートテイクの必要はありません。しかし、講義によっては、板書の図表が複雑なため、利用学生の方がモニターと板書の双方をフォローできない場合が出てくることがあります。このようなケースでは、利用学生の便宜を優先して、板書の内容をわかりやすい形で書いてあげてください。

参考1) PEPNet-JapanのPCノートテイクのPDF資料
参考2) PEPNet-Japanの手書きノートテイクのpdf資料



V-3.配置等
 PCノートテイカーは、利用学生から少し離れて、互いに交替しやすい位置に座って下さい。交替はだいたい15分をめどに、お願いします。

 筆記ノートテイカーは、利用学生の隣に座ってください。右利きの方は、利用学生の右横にすわってください。また、左利きの場合は、左側に座ってください。その際、利き手以外の腕で字や図表が隠れないように気をつけてください。また、筆記ノートテイクの場合は、用紙の使い方や文字の大きさなどを再度確認し、可能な限り利用学生のニーズにこたえられるよう努めてください。とくに、利用学生から見やすい位置に用紙を斜めに向けるなど、腕等で紙が見えないということがないように、気を付けてください。

 筆記ノートテイクの実際の作業では、まず用紙の右肩に通し番号を付けて下さい。先生が強調した部分や試験に出るといった部分は、赤ペンで下線を引いたり、「試験に出る」と書くなど目立つようにしてください。

V-4.事前準備

(1)機器類は、キャンパス自立支援課においてある場合と、前の授業で使用したセットを移動する場合があります(下記参照)。その日の機器類の配置・移動について、あらかじめフロー・チャートを用意いたしますが、ノートテイカーの皆様にも、前の時間帯での機器の使用状況などをあらかじめ確認の上、準備に支障がないようにお願いします。

(2)PCノートテイクの場合、セッティングに時間が必要です。休み時間に教室を移動する時にセッティングに時間をかけることができない場合が多いので、コンセントや席の確保などについて確認しておいてください。主なチェック項目として以下があげられますが、とくに画面の設定などについては、利用する学生の方と充分に打ち合わせて下さい。

@教室の場所と待ち合わせの確認
A席の確保と机の広さ            
B電源の位置の確認と延長コード・延長ケーブルの必要性  
C(利用学生が)見やすく疲れない画面の角度と輝度
D(利用学生が)見やすく疲れない書体、サイズ、文字色
E一行当たりの文字数
F1画面当たりの行数
G段落の長さ(行数)

 フォントや行間設定、文体について、利用学生に質問して、できるだけ統一してください。例えば、2007年度春学期に利用予定のFさんは、ゴシック16サイズ、太字を希望しています。この場合、16サイズですと、ページ設定で用紙を横置きにしないと、すぐ改行することになるので、ご注意下さい。また、語尾を「〜です、ます」「〜である」のどちらを使うかも、利用学生の方に尋ねて、統一 してください。

 なお、事前準備としてPCをセットする場合、周囲の人がケーブルや電源コードにひっかかる可能性についてご注意下さい。

(3)消耗品

 筆記ノートテイクに使用するPC用紙は、キャンパス自立支援課入って左手の本棚に置いてあります。筆記担当のノートテイカーは、授業前にキャンパス自立支援課から取っていってください。筆記用具はご自分のものをご使用下さい。



W.ノートテイク時のルール
W-1.通訳者に徹して下さい

 ノートテイカーは通訳者であって、受講生ではありません。したがって、講師もしくは(グループ・ディスカッション等で)他学生から意見を求められるようなことがあっても断って、講義に参加しないでください。ただし、同時履修者の方はこの限りでありません。



W-2.利用者が連絡なしの欠席等の場合

 講義開始後30分たっても、利用学生が連絡なしに現れない、あるいは欠席していると思われる場合は退席してかまいません。この場合はキャンパス自立支援課に連絡してください。また待っている間の講義内容をノートテイクする必要はありません。この場合は1コマの給与の半分を支給いたします。


W-3.居眠り等の場合

 講義中利用学生が居眠りや授業に関係のないことをしている時は、ノートテイクをする必要はありません。


W-4.当日休講の場合

 1コマの給与の半分を支給いたします。


W-5.ノートテイカーの遅刻

 ノートテイカーの希望により、2006年12月1日より利用者の判断で下記の4段階に分けてチェックし、2段階に分けて罰則を設けました。
 <チェック基準>
(1)出勤 
(2)10分以内の遅刻(事前に申し出ていた場合のみ)
(3)10分以降の遅刻
(4)無断欠席

<罰則>
(1)無断欠席---1コマ分減給
(2)10分以降の遅刻---2回ごとに1コマ分減給


W-6.データ(通訳データ)

 (前述しましたが)通訳データについては、(同時履修の方を除いて)ファイルを自分用(あるいは他の学生用に)コピーすることは厳禁です。授業終了後、デスクトップの授業用フォルダにいったん保存して下さい。それから、利用学生の方から、通訳内容を保存するためのUSBフラッシュメモリー等を受け取って、コピーの上、利用学生にお返し下さい。同時履修の方は、ご自分用に保存されてかまいません。
 筆記した紙は、利用学生が希望する場合は、渡して下さい。利用学生が持ち帰りを希望しない場合は、破棄して下さい(個人的に保管はしないで下さい)。


W-7.守秘義務

 (前述しましたが)ノートテイカーは、医師やカウンセラーと同様、職業上知り得た情報を第3者に漏らしてはいけないという守秘義務が課せられています。とくに、利用学生のプライバシーの問題にかかわりますので、作業中に知ったことについて漏らしてはいけません。


X.ノートテイクのスキル
X-1.(手書きサポートも含めた)一般的な注意

 基本的に、自分の入力/筆記速度の範囲内で的確に構文化された意味が通る文章を伝えることが、技術的な目標となります。
 正しく書くためにはまず講義のテーマをとらえることが重要です。どんなテーマについての講義なのかを念頭におきながら、講師が何を言いたいのかをつかんで下さい。具体的には、
@5W1H(いつ、どこで、誰が、なぜ、何を、どうやって)をつかむ。
A教科書やハンドアウトに目を通して講義の流れや専門用語を頭に入れておく。
B特に、固有名詞などはなかなかできないことがありますので、ご注意ください。
 基本的に、自分の入力/筆記速度の範囲内で的確に構文化された意味が通る文章を伝えることが、技術的な目標となります。


X-2.PCノートテイクの基本的スキル

 PCノートテイクは筆記ノートテイクより、単位時間あたりの文字数が増えますが、しかし全発声の記録は困難です。したがって、早く・正しく・読みやすく書くためには以下の原則を心掛けてください。

(1)必ずしも必要でない敬語。丁寧語文末は省略する

(2)「 」、( ) ?等の記号をうまく利用する

(3)画数が多い漢字は略字やカタカナを使う。とくにわからない人名や地名、あるいは用語がでたら、カタカナ表記に統一して下さい。

(4)使用頻度が高い用語は略称/は記号を使う(使う場合は、事前に、利用学生と相談して決めてください)

(5)PCノートテイクでは単語登録をしておくことを薦めます。

(6)一つの段落を長く書くと、障がい学生が読みにくくなる傾向があります。段落はきりのよいところで、数行で短く切ってください。

 なお、(私見ですが)上記の言葉をできるだけ省略して短くする。同じ単語を繰り返し使わない。主語をはっきりさせる、等のやり方は、英語のビジネス・レターの上達法に通じるところがあります。ビジネス文書も要約筆記も、できるだけ効率的に、情報量を落とすことなく、少ない文字で、間違いない相手に伝えるということでは共通します。ですから、要約筆記/ノートテイクの技術を身につけることは、社会に出てもそれなりに役立つはずです。

 ⇒ それでは、どの程度の情報がノートテイクで伝わるのでしょうか?


X-3.手書きサポートのスキル

(1)位置:筆記では、障がい学生から見やすい位置に紙を置いて下さい。その際、腕等で文字等が見えなくならないようにご注意下さい。

(2)用紙にページ番号を付ける:また、用紙の右肩に通し番号をふる等、工夫してください。

(3)文字の大きさ等も配慮して下さい。先生が強調した部分や、「試験に出る」等の部分は、赤ペンで下線を引いたり、「試験に出る」と書く等、情報を追加してください。

(4)板書等の際に、利用学生が理解しにくいことがあれば(先生が言葉で説明しながら板書する場合、あるいは説明がわかりにくい場合)、適宜、メモで説明するようにして下さい。


   ⇒ より詳しくは手書きサポートの手引きをご覧下さい。


Y.とくに困難な状況

 以下の状況ではノートテイクが困難なことがあることが、経験者から指摘がありました。

(1)ビデオテープのナレーション
 基本的に通常の講義よりも早口で、タイピングが間に合いません。
<対策>ビデオは、原則として、事前に字幕入れを行っています。

(2)対話型のディスカッション
 教員が学生と対話形式でディスカッションする場合、どちらかの声が聞き取りにくいことが多いようです(とくに学生がマイクをもたない場合や、教員が学生の発話に覆い被せるように同時発話した場合)。
  <対策>ゆっくりとしたやりとりをするよう、先生方へお願いの文書をお渡ししています。

(3)ディスカッションの場合の標記
 誰の発言か分かるように、まず名前を標記して、スラッシュで区切てから、発言内容を書いて下さい(下記参照)

 Aさん/今日は、ディベート大会の議題を考えるはずですが、どなたか、発言を。
 Bさん/私は、とくにまちづくりの問題をとりあげたいと思います・・・・・


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